第一章

第2話 心優しき少年の日常

よく晴れた空の下で、太陽の光に当てられて輝く美しい銀髪、愛らしく端正な顔立ちをした小柄の少年は、汗水を垂らしながら農作業に従事していた。


今年で齢十五になったその少年の名はジョシュア。


家族は父、母、兄が一人と姉一人。


末っ子のジョシュアは来年には成人となるのだが、人懐こく、まだまだあどけなさが残る何とも可愛らしい少年である。


「ジョシュア! そっちはもう終わったのか?」


自分の持ち場を終えた長男のフレディがジョシュアの様子を見に来たようだ。


長男のフレディはジョシュアより五つ上の二十歳。ジョシュアと同じ銀色の髪を持つが、背が高く、ジョシュアとは対照的に強面である。


「フレディ兄さん! まだちょっとかかりそう! 今年は大収穫だね!」


ジョシュアは顔を輝かせながら言う。


「そうだな! 正直こんなに実るとは思っていなかったよ。俺も手伝うよ!」


フレディはそう言うと無駄のない動きでせっせと果実を刈り取っていく。


ジョシュアの住むブリッシュ帝国、フルハート村ではブドウの生産地として有名である。豊かな土地で育つブドウは品質が大変良く、王室御用達のワインもフルハート村産の物がほとんどという状態だ。


ブドウ以外にも麦や豆も生産しているが、人々の生活を支えているのは、刈り取ったブドウで作るワインやブドウジュースの販売になる。


「これで今年の冬も越せるね!」

「ああ。これだけ取れればひとまずは安心できるな」


フレディが手伝ったおかげで、ジョシュアの持ち場も予定より早く終わった。


「よし! これで最後だ」

「うん! 兄さんのおかげで早く終われたよ! 本当にありがとう!」


満面の笑みでお礼を言うジョシュアにフレディの顔も思わず綻ぶ。


「この可愛いやつめ!」

そう言いながら、ジョシュアの髪をグシャグシャに撫でる。


二人で戯れていると、これまた背の高いスラッとした女がこちらに近づいてきた。


「あんた達、また戯れて! 本当に仲がいいわね! 仕事は終わったの?」


二人の様子に半ば呆れ気味の彼女はキャロル。

ジョシュアの二つ上の姉である。


「うん! 兄さんが手伝ってくれたおかげで終わったよ! 姉さんももう終わった感じ?」


ジョシュアが何気なく尋ねると、キャロルは少し視線を下げ、申し訳なさそうな表情になった。


「そのことなんだけどね、実はジョシュアに仕事を変わって欲しくて頼みに来たのよ。オリビアが農作業中に怪我をしちゃって、急遽彼女の家のお手伝いに行くことになったから……」


オリビアとは、村の向こう側に住むキャロルの幼馴染みである。


「そうなんだ! もちろんいいよ! 今日の姉さんの仕事って何?」


「ありがとう! 助かるわ。今日は父さんと一緒に森に入って薬草を取りに行く予定だったの。それで、父さん一人で行くって言ってたんだけど、さっき村長から急に別の仕事を頼まれたみたいで」


「オッケー! じゃあ今日は僕が行って取ってくるよ! あ、でも僕に薬草見分けられるかな?」


ジョシュアが少し不安そうに言うと、キャロルはポケットから紙を取り出し、ジョシュアに手渡した。


「ここに取ってきて欲しい薬草の絵と大体の場所を書いておいたわ。

これを参考に取ってきてくれる?」


「わあ! すごくわかりやすいね! さすが姉さんだ! これなら僕にもわかりそうだよ。 ありがとう!」


「……」

「姉さん?」


「……この可愛いやつめ!」


こうしてジョシュアはキャロルからも頭をグシャグシャに撫でられることになった。


それを見たフレディが思わず苦笑いを浮かべる。


「キャロル。俺と同じことしてるぞ」


「う……しまった。つい……」


「あはは。二人とも僕の頭が好きなんだね! それじゃ、ちょっと今から薬草取りに行ってくるね!」


「一人で大丈夫か? 今のところ、森で猛獣に襲われたやつはいないが、危険があることに変わりはない」


「大丈夫だよ! 父さんが村長から貸し出してもらった猟銃も持ってくから。心配してくれてありがとうね!」


フルハート村では国から狩りを許されている数少ない村であり、猟銃もいくつか所有権を認められている。


普通は、森で狩りが出来るのは貴族階級のみだが、フルハート村の領主はとても奇特な人物で、彼の治める領地内では、農民も狩りをしても良いきまりになっている。


また、狩りに使用する猟銃は村長が一括管理しており、村人が森に入る際は村長から狩りや護身用に猟銃を借りることになる。


「あと、小型のナイフも持っていくし。姉さんもオリビアさん家のお仕事頑張ってね!」


元気に出発していくジョシュアを微笑ましいと思いながらフレディとキャロルは見送る。


「やれやれ。あいつがこの村で老若男女問わず好かれるのがわかるよ。来年成人を迎えるが、ジョシュアが結婚するってなったら見合いの申し込みが殺到しそうだ」


この国では十六歳で成人とみなされ、男はこの年齢から結婚が認められる。

女は成人前の十四から嫁ぐことが許される。


大体の農村では親同士が子供の結婚相手を決めるのだが、フルハート村では珍しく見合いという形がとられ、子供本人がその中から相手を選ぶことが多い。


「そうね。あの子、決められるのかしら。基本誰にでも分け隔てなく優しいから。まあ、どうしても選べなかった場合は父さんが決めるでしょうけど……」


「いや、あいつはああ見えて自分の意見はハッキリ言うタイプだ。多分大丈夫だろう。さて、俺も仕事終わったし、居酒屋の方手伝ってくるわ」


ジョシュア達の村はブドウが有名なので、ワインを始めとするアルコールやブドウジュースをメインとした酒場を経営することが領主から許されている。


中には居酒屋兼、旅人用の宿泊施設を経営する人々もおり、ジョシュア達の家もそんな感じだ。


「そうしなさいな。それじゃ、私はオリビアの仕事を手伝ってくるわ」

フレディとキャロルもそれぞれ自分の持ち場に向かった。





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