第25話

大空女子高に国の調査が入ることとなり寮生である災害科の生徒は長めの冬期休暇となった。

調査の合間に幻中先生と烏丸先生は各家庭を巡り今回の件を詫びると共に今後の学校の方針について了承を得ていった。

「ではな、空」

「幻中先生、ありがとうございました」

「ふっ、まるでもう卒業するかのようだな。まあ確かに私はもう必要ないのかもしれないな」

「いえ、違くて――」と空が慌てる。

「わかってる。私なりの冗談だ」

幻中先生はそういうと大きな翼を広げ空を包み込んだ。

「普通科の先生が出してくれた課題だけではなく復習も忘れずにな。それと――いや、これ以上は過保護か」

元気でな。と幻中先生が翼をはためかせたかと思えば一瞬ではるか上空へと飛翔する。

空は幻中先生がみえなくなるまで挙手注目の敬礼をした。


残暑が厳しくこのまま秋が来ないかと思えば急に肌寒くなり紅葉舞い散る季節になった。

「メイドカフェ二階です。ご主人様、お嬢様どうぞくつろいでいって下さい」

「だって。雅弓ちゃん行ってくれば?」

「メイドに任せているなんて二流。一流は自分のことは自分のでやりそれでも手が足りない時に頼るものですわ」

空は雅弓と小夜を誘い博美の文化祭に来ていた。

「――姫川さんて本当にお嬢様言葉なんだ」

ひそひそ声で博美が空に聞いた。

目線だけ雅弓に向けて空はうなずく。

「――なにを話されてるか気になりますが、まあいいでしょう。空さんわたくしは小夜さんとみてまわりますので」

「え?二人とも一緒にいかないの?」

「いいから、いいから。博美ちゃんまた後でね」

博美は空の方を見た。

「気をつかわせたかな?」

「ううん。いつもの二人だから気にしないで。それでさ、私わたあめ食べたいな」

はいはい。と雅弓が歩き出す。

「そういや空はわたあめが好きだったか」

「うん。雲みたいでさ好きなんだ」

空が流れる雲を見上げる。

「ほいよ。てか、今なら本物の雲も食べられるんじゃね?」

「あんまりおいしくないよ?」

「食べたの?」

驚く博美に対して空は無邪気に冗談。と返した。

博美から受け取ったわたあめを空が一口

「次、どこみてまわろうか。ねえ、空――空?」

空は泣いていた。

「え?どしたん?マズかった?」

「ううん」と空が首を振る。

「――ちょっとね」

洟を啜る空になにも言わず博美がポケットティッシュを渡しそのまま手を取ると活気の少ない校舎裏へと連れ出した。

「少しは落ち着いた?」

「うん、ありがとう。ごめんね」

博美は頭を掻いて言った。

「いろいろあったんだよね。ニュースみたよ」

「うん、いろいろあった――」

止まらない涙を空が必死に拭う。

「泣いちゃえ、泣いちゃえ。空の涙なら見飽きてるし」

博美がそっぽを向く。

空は声を漏らさないよう歯を食いしばりながら目を真っ赤にするほど泣いた。


「もう、こんなところにいるなんて。探しましたわよ」

「あれ?空ちゃん泣いてる?」

「あー、お化け屋敷が案外怖かったらしくて」

空は博美を睨み付けるとわざと足を踏んだ。

「雅弓ちゃんたち急いでたみたいだけど何かあったの?」

普段通りの口調で空が聞いた。

「別に急ぎというわけではないのですけど小夜さんが後夜祭のボーカルを務めることになりまして」

「えへへ」と小夜は照れてはいるがまんざらでもないといった表情をみせる。

「え?すごい。でもいきなりどうして?」

「さっきね転んだ子がいてねハウリングを使ったら『ぜひサプライズゲストに』て」

三人の会話を遠音のように聞いていた博美が言いにくそうに割って入った。

「ごめん。交代の時間だからさ、こっからは三人で回ってよ」

じゃ。と立ち去ろうとする博美を空が止める。

「博美ちゃん手伝うよ」

「え?いやいや、三人はお客だし」

「袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端。博美さんとの縁も深めたいですしどうかわたくしたちにも手伝わせてくださいませ」

「学校側がそう言うのダメっていうなら別だけど」

空たちに言われて博美はしばしうつむいた後「じゃあお願いしようかな」と言った。

「――確かに手伝うとは言いましたが」

雅弓が恥ずかしそうにスカートの裾を押さえる。

博美のクラスの出し物はメイド喫茶で空たち三人はメイドの格好をさせられていた。

「あの、丈がいささか短すぎじゃありませんこと?」

「そう?て、制服も普段着もズボンだから今どきのスカート事情はわからないんだけど」

空と雅弓が話している間にも小夜がどんどん人を呼び込む。

手が追っつかないという状況になってくると雅弓の目つきが変わってくる。

「手伝うと言った手前いつまでも恥じている場合ではありませんわね」

小夜が呼び込み雅弓が注文を聞き雅弓が品を運ぶ。その息が合った三人の姿に博美のクラスの子はきょとんとした表情をみせた。

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