第21話

鳶の大剣を掻い潜り空が片手平突きを放つも鋼のような翼に阻まれる。

隙をつき仕掛ける機会はいくらでもあったがことごとく翼に退けられた。

大剣もただ大きいものではなく同じ翼で作られたため第二の盾とも言える堅さで小夜の戦斧を難無く受け止め返す。

一進一退。いや、攻め手の空たちの方が息を切らしていた。

それらを見逃す筈もなく鳶は両翼を盾に雅弓へ突っ込み雅弓をそのまま突き飛ばす。

鳶は机やら椅子に埋もれた雅弓へ手を伸ばし髪を掴み片手で持ち上げると床へと叩きつけた。

叩きつけられた雅弓はゴム毬の様に一度跳ね上がり宙に浮いたかと思うとドサリ、と床に落ちた。

追撃はさせじと小夜が声を荒げ戦斧を振るって間に入る。

鳶が大剣を振り上げる、小夜はそれに対して歯を食いしばると迎撃に打って出た。

大剣と戦斧がかち合う。金属音が響き小夜の戦斧がひび割れ崩れ落ちる。

今度は空が躍り出て宙を舞い錐揉み回転からの袈裟切りをあびせるも翼に傷一つ付けることすらかなわない。

鳶が片翼をもって空を弾き返したかと思えばすぐに身を守るように翼を閉じた。

閉じた翼に鮮やかな矢じりが飛び交い元の羽根に戻り舞い散る。

「烏丸の弩か」

鳶の視線の先には涙ぐみ洟と鼻血で顔をぐちゃぐちゃにしながらも睨みを利かす雅弓がいた。

片膝をつき弩を構え鳶にへと引き金を引く。

鳶はこれを大剣を持って防いだ。

「空さん!」

雅弓がそう叫ぶと鳶は大剣を見る。

大剣には矢ではなく鮮やかな短刀が突き刺さっていた。

鳶が抜くよりも早く空が短刀へと両手平突きを一閃。

雅弓の短刀を楔とし鳶の大剣が砕けるとはらりと元の羽根へと戻り消える。

だがいくら大剣を破壊したところでまた生成し直せばいいこと。鳶は自身の羽にへと手を伸ばす。

「うぉりゃ!」

そこへ手袋に施された仕掛け――手のツボを刺激し一時的に腕力を上げる――を作動させ鼓舞と共に小夜が斬りかかった。

当然鳶は翼を盾にする。が、大剣を破壊されたこと、羽を抜いたが生成できなかったことで気が乱れたか鉄壁を誇っていた片翼が切り落とされる。

ぐぜりにも似た嗚咽を鳶が漏らすと翼が完全に消滅した。

だがそれでも鳶は立ち上がり呼吸を整え翼をはためかせようとする。

「空さん!小夜さん!」

雅弓がアイフェックスを担ぎ直し叫ぶ。

呼びかけられた空と小夜は急ぎ雅弓の背後へと飛翔し右肩と右腰、左肩と左腰を支えた。

「安全装置解除!目標物確認!」

「確認よし!」

「第二安全装置解除!クラッシャーモード起動!」

「起動よし!機器良好!」

空と小夜が手に力を入れ衝撃を逃がすために翼を広げる。

「アイフェックスクラッシャーモード――」

『発射!』という三人の掛け声共に雅弓が引き金を引く。

鳶は瞬間的に翼を出現させ防御の態勢を作る。

元よりひしゃげた防火扉や止むを得ず民家を『破壊』するためのクラッシャーモードはフリースペースにあった観葉植物をへし折りプラスチック製の鉢や机に椅子を砕いた。

机や椅子の足や破片が壁に深々と突き刺さり一部分の壁に至っては崩れ外の夜空がみえる。

瓦礫の中、鳶が伸びていた。

そこへ空たちが歩み寄る。

「――おまえ、ハウリングかなにかで威力弱めたな?」

鳶が視線だけ雅弓に向けて聞いた。

「ええ、確かに」

「なぜそんなことした?」

「なぜ――て、決まっていますわ。わたくしたちは『救助』に来たのですから」

ふっ。と鳶は鼻で笑い空たち一人ひとりをみると瞼を閉じゆっくりと呼吸をはじめた。

「私たちは先に行きます」

小夜ちゃん。と空が肩に手を置くと小夜はうなずき返し先へと急ぐ。

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