第20話
「雅弓ちゃんてバイク運転できるの?」
「運転免許はとっておりますし実家の敷地内でなら何度か運転のほうは」
雅弓が跨ってみせるが様になってるとは到底言えない。
その姿を見て小夜が笑った。
「なんですの!公道を走るのははじめてですしこのクイックアタッカーは大空女子高の特注みたいで、その、緊張してますの!」
雅弓の声が裏返ると小夜だけじゃなく空も笑った。
「――これから過酷な場に向かうというのに」
「呑気、緊張感がない。そう思うか?」
「いいえ、いいんじゃない?心構えは常に、みたいだから」
忍谷を横目に幻谷先生が一歩前にでる。
「よし。大空女子高、出場!」
空たちが背を伸ばし挙手注目の敬礼をした。
幻中先生に続いて空と小夜が天へ。雅弓と忍谷も続いて地を駆けだす。
学校近くの町を越えその先次の町も一気に飛び越えみえてくるのはレッドウィングスの本部。
近くのビルの屋上から幻中先生が様子を見る。
手信号で飛翔の合図を空と小夜に送り素早く滑空し本部の屋上へ。
物陰に隠れ様子をうかがうが屋上には誰もいない。
「よし。連絡があるまでこの場で待機」
空と小夜がうなずく。
数分後、忍谷から連絡が来た。幻中先生が手旗信号を送る。
「――あちらも無事ついたみたいね」
さて。と忍谷がクイックアタッカーからアイフェックスを取り外し雅弓に手渡す。
雅弓はそれを背負いこみ飛び立とうとする。
「姫川、これを持って行きなさい」
忍谷が呼び止め一枚の羽根を手渡す。
「これは、カラスの羽根?」
「ええ、烏丸から。それと躊躇っては駄目よ」
忍谷のその一言に「はい」と返事を返し雅弓は屋上へと飛翔する。
入れ替わりで幻中先生が降り立ち見上げた。
「あの子たちなら大丈夫よ。あなた少し過保護過ぎない?」
「――そうだな。相互理解が必要だといいつつ私はあいつらを目下にみている」
それで。と幻中先生が建物の死角から正面入り口をみる。
正面入り口には防災強化期間と書かれた襷を身に纏っている翼を持つ者が一人立っていた。
「あら、今は防災強化期間なのね知らなかったわ」
「見張りにはぴったりだな」
行ってくる。と幻中先生は死角から歩み出た。
一陣の風が真下から吹く。
それを合図として空が刀で扉を破壊し突入を開始する。
「忍谷さんの話だと本部長室にいるらしいけど――」
「本部長室てことは鳶さんもいる可能性があるんだよね。いなければいいんだけど」
「そのときは、そのときですわ。今は救助のことだけを」
屋上からの階段を駆け下り廊下へ。
この階は居住区も兼ねており全員が翼を持つ者だからか天井が高い。
まっすぐに突き進むとフリースペースの大広間に出た。
大広間はバルコニーのように突き出しておりその先は一階から吹き抜けになっている。
その吹き抜けから暴風と共に剣戟の音が。
「――騒がしい風に乗って来るのは烏かと思ったのだが」
空たちが足を止める。
「烏丸のヤツ同情で俺を落とす気か?」
大広間からの先、本部長室に続く廊下からレッドウィングス大隊長の鳶が姿を見せる。
「烏丸先生を傷つけたのはあなたですか?」
「ああ、そうだが。昔からあいつとはどうも気が合わなくてな。まあ、それだけではないんだがな」
小夜の問いに表情一つ変えず鳶は答える。
鳶は空たちのことを気にも止めず大広間の先へ向かうと下の階を覗いた。
「今、風に吹かれてる奴らは世間になじめなかった奴らだ。いや違うな。世間がかたくなに拒み認めずまるでゴミを荒らす烏を散らすが如く追いやったと言う方が正しいか」
鳶はゆったりと向きなおると空たちを見た。
「同情でもごっこ遊びをしに来たんじゃないなら今俺が言ったことはわかるよな?」
「はい。幻中先生から忍谷さんから事情は聞きました。今、鳶さんが言ったように『翼を持つ者』が世間から厳しい目でみられてることも」
でも。と空はまっすぐな曇り一つない目で鳶を見て言う。
「でもやり方が間違ってる、そう思ってここに。あなたたちがヘリオスと呼ぶあの子供を救助に来ました」
空がそう言うと鳶は寄りかかっていた体を起こし呆れを含んだため息を一つ。
「あの子供を助けここの奴らは害鳥扱いで皆殺しか?」
「そんなことはしません!」
「そうか。おまえがここの奴らを食わせてやるというのか――できもしないことを言うな」
凄みの聞いた声と表情に小夜が身を引く。
それとは逆に雅弓が一歩前にでる。
「わたくしたちはなにも感情で先走ってきたわけではありません。第一そんなこと幻谷先生や烏丸先生が許す筈もない、そのことはあなたの方がよくわかってるのでは?それで、元よりわたくしはレッドウィングスを見直す必要があると常々思っておりました。わたくしの案をもとにレッドウィングスを再建し正式にここの方たちを雇用いたします」
ふっ。と鳶が笑う。
「何年だ、何年かかる。かけるつもりだ。そもそもおまえは案が通るつもりでいるが大人の世界にままごとで作った料理が通るとでも思っているのか?俺たちは『今』を生きる為に金がいる、そこらの鳥類のように花や虫で腹を満たすことができない。誰かが罪を被ってでも『金』を作らねばならないんだ。わかるか?」
空が怒りの表情をみせる。
「あなたは『火起こし器』扱いにとどまらず『金の生る木』としてあの子供をみてるんですか!それに雅弓ちゃんの案はままごとなんかじゃないです。『翼を持つ者』のことを見聞し何度も何度も書いては直してるものなんです!」
「ふっ、それは失礼なことを言った。だがどんなにいい案だとしてもやはり時間がかかる『今』を守ることはできない」
「今すぐ変われなんてそんなの誰でも無理です。でも変わっていけることは私たちが『翼を持つ者』が証明なんじゃないですか?」
なに。とはじめて鳶の関心が空たちの方に向いた。
「私たちは『奇形児』から『障害者』へ変わりそして『翼を持つ者』になった。過去の人たちが時間をかけて積み上げて変わってゆけるって証明してくれているんです」
「だから『今』を諦めろと?」
「そんなことは言ってない。もうこれ以上積み上げてきたものを『過去』を壊さないで。『今』を大事に思うあなたならわかるはずです」
鳶は宙をみつめた。空たちはその間に通り過ぎようとする。
いや。と鳶が声を漏らす。
「一度背負ったモノは下ろせねぇ。それが罪ならなおさらだ」
鳶色の羽を広げ空たちへと圧を飛ばす。
「――通させてくれないんですね」
「ああ。やはり俺は『今』を守る。それが『過去』を『未来』を潰すことになっても!」
鳶の初太刀を躱し空たちは態勢を整え構えた。
「雅弓ちゃん、小夜ちゃん――行こう!」
二人がうなずき返す。
「ええ。わたくしたちの覚悟、思い、みせて差し上げます!」
「もうこれ以上誰も傷つけさせやしない!」
『バードコール』と空たちが叫ぶ。
「コシジロウミツバメ!」
「カワセミ!」
「サヨナキドリ!」
三人の翼がはためく。空は素早く刀を生成すると切っ先を鳶へと向けて見得を切る。
「救助活動の妨げになる行為に対して我々は武力行為を許可されている!直ちにこの場から撤収せよ!」
空の問いに答えるように鳶が一声地鳴きした。
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