第19話
ふう。と息を吐き切ると幻中先生が崩れるように椅子に座り込む。
「あなたのことだからそれでも駄目だ、と言うと思ったのに。案外、あっさりと折れたわね」
忍谷が烏丸先生を治療しながら言う。
「――救助に行く、というだけならここを飛び出していくことも出来た。だがあいつらは自分たちの意見が通らないことを百も承知でここに来て思いの丈をぶつけた。昔の――いや、今の自分にすらできるかどうか」
「海埜一人なら飛び出していったかもしんねえな。けど姫川がいて音渕がいたからここに来たんだろ。私も一人で行かずに忍谷を連れてきゃよかったぜ」
「あら?カラスたちがいたじゃない」
「交渉とか説得にだよ。失敗したからこんな目にあってんだろ」
そんな二人の会話を聞いて幻中先生は鼻で笑った。
「どうやら私たちは臆病になったらしい。顔色を世間を窺いその場しのぎの言葉を紡ぐ。今一度初心に帰る時なのだろうな」
幻中先生はそういうと烏丸先生と忍谷の方を向いた。
「烏丸はもしもの為学園の防衛にあたってくれ。忍谷は私と計画を、それと例の件を」
「ふふ。はいはい」
「こっちは任せておけ。鬱憤晴らしてこい」
いや。と幻中は生徒名簿に触れながら言う。
「私たちの目的はあくまで救助だ」
どこか科戸に似た風が職員室に吹いた。
雅弓が端末を持ったまま姿鏡の前で固まっている。
「おい」とルームメイトに呼びかけられ振り向く。
「あの、もしわたくしになにかありましたらこの端末を母に渡してほしいのだけど」
「はぁ?なに言ってんだおまえ」
雅弓がハッとする。
「ふふ、確かになに言ってるのか。ごめんなさい忘れて下さい」
チッ。と慌てて部屋を出ようとする雅弓に対してルームメイトが舌打ちする。
「姫川たちがなにしてるかわかんねえけどよ、無事に帰ってくりゃいいだけだろ」
「――そう、ですわね。ちょっと弱気になってました」
ありがとうと雅弓が部屋を出ると「気をつけろよ」とルームメイトが呟く。
部屋の前にはすでに空と小夜がいた。
「二人とも準備はよろしくて?」
「うん、私たちは大丈夫。雅弓ちゃんは――大丈夫そうだね」
行こうか。と空たちが歩き出す。
指定された旧寮の裏にはすでに忍谷がいてなにやらバイクをいじっている。
「来たわね。幻中は学校の打ち合わせでもう少しかかるみたいだからこっちの準備を進めちゃいましょうか」
こっちよ。と促されるまま忍谷の後についてゆき旧寮の一室に入る。
「これは――」
そこには大空女学校の制服と酷似した服が吊るされていた。
「ここに来るのにヘリオスのことだけじゃ、と思って持ってきたのだけど幻中に『必要ない』て言われたのよね。ま、結果的に持ってきてよかったわ」
「あの、この服は?」
小夜がそう言うと忍谷が服を触りながら言う。
「あなたたちの制服はアンチハザードともいえる災害特化にできている。それに対してこの服は対テロを想定した対人特化の服よ。あくまで『対人』ね」
忍谷はそういうと防護服を空たちに手渡した。
「それに着装しなさい。オートフィット機能があるから着れないことはないと思うわ」
空たちはお互いに顔を見合わせうなずき返す。
「着装!」
空の掛け声と共に制服を脱ぎ防護服を着こむ。
「着装完了」
防護服の機能を聞きながら旧寮の外へと出ると空たちが先ほど来ていた服に袖を通した幻中先生がいた。
「あら、気合が入ってるのね」
「茶化すな。それより、渡したのか」
幻中先生がジッと空たち三人をみつめる。
「幻中先生。大丈夫です、わかってます。私たちの目的は救助、人命第一です」
「言うようになったな。が、その人命に自分たちの命が含まれていることを忘れるな」
さて。と幻中先生の顔持ちが変わる。
「これよりヘリオス救助作戦に当たる。私と空、小夜はここから飛んで行く。忍谷と雅弓はクイックアタッカーに乗ってレッドウィングス本部前へ。その後雅弓はアイフェックスを持って屋上へ飛翔、待機している空たちと共に最上階からヘリオスの元へ向かってくれ」
了解。と空たちが口々をそろえて言う。
「忍谷は外で待機及び消防の方に話を通しておいてくれ」
「あら鎮圧のお誘いじゃないのね」
「なんだ一緒にやってくれるのか?」
意地悪な人。と忍谷がそっぽを向く。
「烏丸の怪我を見て感づいてると思うが今のレッドウイングスには話が通じるやつはいない。おまえたちが交戦した大隊長の鳶を含めてな」
小夜が握りこぶしを作る。
「レッドウィングスの奴らはヘリオスを渡さんと抵抗をしてくるだろう、だからチームアエロ―にはアイフェックスのクラッシャーモードの使用を許可する。もしそれで万が一のことがあったら私が全責任を取る」
面食らった表情をみせる三人の中で雅弓が口を開く。
「わかりました。その時はわたくしが引き金を引きます」
「雅弓ちゃん――」
空は名前を呼ぶので精一杯だった。
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