第18話

翌日、授業が終わり自室に戻った空はバードコールに通していたミサンガをみつめていた。

「そのミサンガ友達が作ってくれたんだっけ?」

うん。と小夜の問いに空が答える。

「ねえ、小夜ちゃん。小夜ちゃんには妹さんがいるんだよね?」

「いるけど」

「もし、もしだよ。妹さんがレッドウィングスの人為災害に巻き込まれたら小夜ちゃんはどうする?」

小夜がうつむく。

黙りを決め込んでいた小夜がようやっと口を開いた。

「わからない。だってレッドウィングスがやったということは『翼を持つ者』がやったてことでしょ?今回私たちは何も知らないから飛んでいけたけど今度同じことが起きたら飛んでいけるかわからないよ。空ちゃんは?お友達の所に飛んでいける?」

私は。と空がミサンガを強く握りしめ言う。

「私は飛んでいくかな。やっぱりそういう『声』が聞こえたら考えるより動いちゃうよ」

空はぎこちなく笑ってみせた。

「――空ちゃんは強いな」

「ごめん、変なこと聞いちゃった」

気まずい雰囲気のまま消灯の時間を迎えたが寝付けなかった空はそっと自室を抜け出した。

どこもしっかりと戸締りがされてる中廊下の窓に月明かりが差し込んだ。

ぼうっと月を眺めていた空に話しかけてきたのは雅弓だった。

「空さんも眠れないの?」

「『も』てことは雅弓ちゃんも?」

ええ。と雅弓も窓から月を見る。

「正直感情がしっちゃかめっちゃかになってますの。今まで頂にみえていたのはハリボテに過ぎずその裏では非道なことが行われていたなんて。わたくしが見てきた景色は嘘偽りだったのかと」

「それは違うよ」と真っすぐに雅弓を見つめ空が言う。

「雅弓ちゃんのお母さんや幻中先生のような悩んでどうにかしようとしている人のことも嘘偽りだって言うの?ねえ、やっぱり私はレッドウィングスのこと看過することできない。でもどうしたらいいのかもわからない」

空たち二人悩んでいるところに「ずるいよ」と小夜がやって来た。

「二人だけで相談事なんて。私はのけ者?」

「小夜ちゃん、その――ごめん」

空がそう言うと小夜は笑った。

「この前もこんなことあったよね。私たち悩んで謝ってばかりだ」

「そうだね。ねえあの時も言ったけど二人の力貸してもらえるかな?」

「なにか妙案がありますの?」

「案なんてないよ。当たって砕ける」

私たちにはそれしかない。と空がこぶしを握り締め言った。


「小夜ちゃん、その、平気?」

次の日、旧寮へ向かう道すがら空が小夜に聞く。

小夜はうつむいたかと思えばまっすぐ前を向いた。

「正直、怖い。組手だとかで武器を向けられるとあの時のことを思い出しちゃう。でもビビッてなんかいられない、今ここで動かないともっと多くの人が悲しむから」

なんちって。と小夜がいつも通りの笑顔を見せる。

「――お二人ともよろしくて?」

足を止めた雅弓に対して空と小夜はうなずきを返す。

忍び込むように旧寮に入り込む。

旧寮内はどことなく静かだった。以前は廊下にもいたカラスたちが一羽もいないという状況。

「烏丸先生留守なのかな」

「だとしても一羽もいないというのは。いえ、外にいるという可能性もありますわね」

二人の話を聞き空が音を収集する。

「――カラスたちはいるみたい。でも、なんだろう。威嚇?違う、心配してる?」

「空さんカラスたちはどこに?」

空たちは急ぎ職員室へと走った。

ノックし職員室に入ると数羽のカラスが空たちに向かって飛んでくる。

「おまえら落ち着け。そいつらは生徒だ」

烏丸先生の一言でカラスたちが机の上に飛び移る。

視界が晴れたその先、片腕が血だらけの烏丸先生がいた。

空は目をそらし雅弓は驚きの表情をみせ小夜は傍らに駆けだそうとする。

「くんな、大丈夫だ」

烏丸先生に制され小夜が下がる。

「それで――」とどこか威圧感があるように言い放ったのは幻中先生だった。

「おまえたちはなにをしに来たんだ?」

狂風に圧せられながらも空が一歩前にでる。

「レッドウィングスのことについてです」

「その話は終わった」

「終わってません。レッドウィングスが破壊活動を続ける限り家族が友達が親戚が従弟が犠牲になる可能性があるんです。無関係な話じゃないです」

「この件は私たちの方で蹴りをつける。おまえたちは忘れろ」

その言葉を待っていたかのように空が声を大にして言う。

「忘れません。幻中先生は言いましたよね?『守ろうとしたものを忘れないこと』て。私たちはあの子を守ろうと救助しようとした。あの子供の涙も喘ぎも忘れなきゃいけないんですか?」

弦中先生は黙るが態度を一切変えない。

「訂正する。忘れろとは言わない、関わるな。以上だ」

「おい」と声を上げたのは烏丸先生だった。

「話ぐらい聞いてやりゃいいじゃねえか。おまえらただ言い合いに来たわけじゃねえだろ?」

はい。と雅弓が言う。

「わたくしたち、チームアエロ―はあの子供の『救助』を申し上げに来ました」

幻中先生は目を丸くし烏丸先生は呵々と笑った。

「駄目に決まっているだろう。寮に戻れ」

「戻りません」と空たち三人は断固として動かない。

幻中先生の瞳が本気になる。身を震わせながらも目線をそらすことなく踏み止まる。

「――行かせてあげればいいじゃない」

そう言ってみせたのは忍谷だった。

包帯やらの中からハムを取り出しカラスたちに与えながら幻中先生をみる。

「無責任なことを言うな」

「そんなことないわよ。私もついていくから」

空たちが思わず振り返る。

「だいたい『駄目』『無関心』『無理』が積み重なった現状が今なのだから彼女たちを『駄目』の一言で退散させるのはなにも進展してない証拠じゃないかしら?」

「だとしても――」

幻中先生が考え悩む中再び烏丸先生が声を上げる。

「なあ幻中、義務教育を満了してないおまえに忍谷やそもそも小学校すら行ってない私が『大人』としてこいつらの前に立てるのならこいつらはもう立派な大人なんじゃないか?おまえが思ってるほど雛鳥なんかじゃねえよ」

押し黙っていた幻中先生が大きく溜め息を吐き「そうだな」と呟く。

「相分かった。空、雅弓、小夜、チームアエロ―の三人。明日、授業が終わり次第またここに来い」

『はい』と空たちが挙手注目の敬礼をする。

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