第13話

九月入ってすぐ災害科の生徒たちは来るクリスマスパーティに向けて準備をはじめていた。

ずいぶんと先のことだが災害科の生徒はこの時期多忙になるので早め早めに事をはじめる。

一年生は主に台風災害での後片付けがそれにあたるのだが三年生ともなり消防やそれらの道に進もうという生徒は夏休み寮に泊まり台風災害だけではなく九州地方の大雨、氾濫による水害及び土砂災害での床下の泥や土砂のかき出し、家具の撤去、物資の供給などをする。

これらのことを素直に喜んでくれる人もいれば『授業の一環』として扱われることに怪訝な表情をみせる人や腑に落ちないといった人も確かにいる。

そんな理由から空たちは週末学校近くの町まで来ていた。

「ラーメンに豚カツ、ハンバーガー」

「もうちょっと可愛らしいものはないんですの?クレープやケーキとかあるでしょうに」

「それはデザートだもん」

浮かれている小夜の隣で空が真上を見上げる。

残暑、というにはまだまだ暑い。

空は雅弓がまとめた買い物リストに目を落とした。

数秒して音響式信号機が鳴り出したかと思えば後ろからガシャンと何かを倒す音が響く。

「大丈夫ですか?」

急ぎ空が駆けつけ手を伸ばす。だが自転車を倒した男性は空の手を取らずよろよろと膝に手を当て立ち上がり中腰になるとなにかを探すように手で辺りを探りはじめた。

「これ、ですよね」

空は白い杖を男性の手にしっかりと握らせた。

「――どうも」

どこか弱々しく男性がそう言うと背を伸ばした。

「かーくん大丈夫?」

連れの女性だろうかこちらへと走ってくる。飲み物を買っていたらしく跳ねては服を濡らしている。

「ありがとうございました」と女性は何度も礼を言い男性と手を繋いで歩き出す。

「ほほう、あの二人カップルだ」

「どうしてわかるの?」

「だって恋人繋ぎしてるもん」

そんな空と小夜の話など気にも留めず雅弓は一人自転車を片していた。

「ごめん」と空と小夜も手を貸す。

「まったく点字ブロックの上に置いてあるかと思えば全部放置自転車だなんて。もう、こんなの撤去ですわ、撤去」

雅弓はそう憤るなり端末を取り出し市へと連絡する。

すぐ取り掛かることを約束されて胸をなで下ろしたかと思えば雅弓は頭を抱えた。

「――クレーマーのようになってしまいましたわ」

「ううん、雅弓ちゃんの気持ちはわかるし、そうやって直ぐに行動に移せるのはすごいよ」

「そうだよ雅弓ちゃん。ね、ね、あそこのマスカットパフェ食べに行こうよ」

小夜が雅弓の手を取り歩き出す。

行き当たりばったりで『ゴロッとマスカットパフェ』という謳い文句ののぼりが立っていた店に入ったが違いはなく生クリームの上には今にも転がり落ちそうなほどマスカットが乗っており中層から下にもマスカットをふんだんに使ったゼリーが器の底まで敷き詰められていた。

「これでこの値段、あ、でも季節限定か」

「小夜さんすみませんですわ。まだラーメンも豚カツも食べてませんのに」

「ううん、こんなにおいしいパフェが食べれたんだもん。それにちょっと小腹もすいてたし」

満足した空たちは外に出ると改めて買い物リストに目を通す。

「飾り用のリース。リースかぁこの時期に売ってるかな」

とりあえず他のから。と空が歩き出したかと思えばおもむろに足を止め街中の百貨店の方をみつめた。

「どうしたの?」

「なにかが――伏せて!」

空は頭を押さえ屈み込んだ。

直後百貨店の方から爆発音が響く。

すぐさま雅弓が消防へと通報を入れ空が学校へと連絡を入れる。

「――そうか、わかった。おまえたちも避難しろ」

「幻中先生!」と空が怒鳴る。

「私たちならすぐに飛べます!」

空の後ろで雅弓と小夜がうなずいた。

「駄目だ」

「どうしてですか!まだ卒業できてないからですか?『ルール』だからですか?『ルール』で人の命が守れるなら私たちの翼はなんのためにあるんですか!」

先生!と空が怒鳴る後ろで再びの爆発が起こる。

「――雅弓いるな。代われ」

はい。と空と雅弓が代わる。

「大空女子高校教育方針五条はなんだ」

「はい。いついかなる時も冷静であれ、その翼は誰かの為に」

雅弓は生徒手帳を見ずにスラスラと答えた。

「空、そういうことだ」

空が唇を噛みしめる。

「『翼は誰かの為』よってチームアエロ―に緊急出場を命ずる、直ちに出場準備に入れ」

空が顔をあげ雅弓と小夜に遅れる形で挙手注目の敬礼をした。

小夜は自分たちのいるところから近くにあった普通より大きな自販機へと走り出すと決済端末に生徒手帳をかざし現れた数字のタッチパネルに『119』と入力する。

すると自販機の後ろ側が開く。この自販機は姫川家の資金提供を受けた製造企業が大空女子学校と共同で製造したものだった。

小夜は開いた自販機から大空女子学校の校章が入ったアタッシュケースを取り出すと空と雅弓にも手渡した。

それに加え雅弓が大人三人は入れそうな円形の物体とアイフェックス――インパルス消火システム――を取り出す。

雅弓から円形の物体を受け取った空がそれを地面に置きその上に三人乗ったことを確認し内部の掛け金を解除する。

円形の物体は一瞬で空たちを覆い隠すように伸び簡易的な更衣室となった。

「着装!」

空のその合図で普段着を脱ぎ素早く大空女子高の制服へと着替える。

「着装完了」と着替えの終わった三人が外から内側へ更衣室を押し込み荷物ごと畳むと自販機の後ろ側に押し込んだ。

アイフェックスを雅弓が担ぎ各々がバードコールに触れる。

「コシジロウミツバメ!」

「カワセミ!」

「サヨナキドリ!」

『出場』と三人が青空へと舞い上がり百貨店へと一気に加速する。

「火の手無し」

何度か空中を旋回し小夜がそう言う。

「空さん、小夜さん、あそこから突入陣形で進入しますわ」

雅弓の指さす方を空と小夜が確認し手振りする。

滑空の体勢に入った雅弓の腕に空と小夜がしがみつきお互いの羽を重ね合わせ盾のようにし前方に突き出す。それに加え雅弓のハウリングで水を纏う。

「参りますわ!」

雅弓が拉げた非常用進入口へ向かって一気に突っ込んだ。

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