第9話
午後の授業を終え疲れ切った空は布団を敷くと抱き着くように倒れ込んだ。
「体力落ちないようにランニングと筋トレはしてたはずなんだけどなぁ」
私も。と隣で小夜が掛け布団に抱き着きながらごろごろしてる。
「なんだか入学した時を思い出すな。入学初日は疲れてバタンキューて寝ちゃって次の日起きたら全身筋肉痛になっちゃってて」
「私も空ちゃんも起きるの必死だったよね」
そうそう。と空が笑った。
「戻って来たんだね」
「うん。また明日から頑張ろう」
空が薄暗い部屋の中目を泳がせた。
「――ねえ、小夜ちゃん」
「ん?」
「小夜ちゃんは将来なりたいものとか進みたい道ってある?」
「どうしたの急に?」
小夜が体を起こす。空も体を起こし卓上電燈をつける。
「あ、いや、深い意味はないんだ。ただ『頑張る』てことはなにかしらそういうのがあるのかなって。配達業だったり地元のライフガードだったり」
「ずいぶん限定的だね」
小夜はそういうと視線を少し上げて考え出した。
「空ちゃんお昼に食堂で地元の話したの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。祭り行事とか楽しそうで今度行きたいなって」
ありがとう。と嬉しそうに小夜がいう。
「夏休み中に一回火事が起きてね、消防本部の方たちが来るまで距離があるから消防団の方と初期消火と避難誘導のお手伝いをしてたんだけどその時気づいたんだ、消防団の方たちの年齢が私のお父さん以上の方ばかりだって。だからなりたいものとか道じゃないんだけどここを卒業したら一旦地元に戻って食堂の手伝いをしながら消防団もお手伝いをしようと思ってるんだ。私の好きな町だから守っていきたいんだ」
小夜が柔らかく微笑んだ。
「そういう空ちゃんは?なにかそういうのあるの?」
「私は――私は先生になろうかなって。一般の場所かここで」
「レッドウィングスじゃないの?」
うん。とまだどこか迷いがあるように空がうなずく。
「翼を持つ者の総合救助隊レッドウィングス、そこで飛び続けるのもいいと思う。だけど忘れないよう伝えていくのも大事なのかなって。それこそ小夜ちゃんじゃないけど消防団に入りながらとか」
「それじゃあ空ちゃんは一般の勉強も『頑張る』しないとね」
「うっ、そうなんだよね。そこなんだよね」
はぁ。と空はどことなく心嬉しそうに溜め息を吐いた。
「ごめんね小夜ちゃん寝るっていう時に」
空が卓上電燈に手を伸ばす。
「空ちゃん」
「なに?」
「お休みなさい。また明日」
また明日。と空は返し明かりを消した。
「――もう!」
雅弓の怒鳴り声が朝早くから響いた。
「お二人して寝坊なんて。ああ、頭を動かさないで」
雅弓は器用に両手を使い空と小夜の髪を梳く。
「これぞ朝って感じだね」
「うん。朝だね」
「絶対に!絶対にもうやりませんからね!」
着替えを済ませみんなが待つ校庭へと急ぐ。
ランニングを終え食堂へと移動すると食堂の備え付けのテレビに今後の翼を持つ者たちへの対応について国会で議論をしている雅弓の母が写った。
その姿を雅弓はまじまじとみつめている。
「雅弓ちゃんのお母さんてすごいよね」
小夜が味噌汁を冷ましながら言った。
「こうやって温かい食事が食べれるのも雅弓ちゃんのお母さんや幻中先生。烏丸先生のおかげだもんね」
「はいはい。感傷に浸るのは無しですわ。温かい食事が覚めてしまいますわ」
雅弓はコーンスープをかき混ぜ一口。
「――雅弓ちゃんもしかしてお母さんとうまくいってないの」
「うまく、てなんですの。ただ食事の席に翼を持つ者の話題は不要、そう思ってるだけですわ」
雅弓はどことなく夏休み明けから翼を持つ者の話題についてきらいがあった。
「あ、そうだ雅弓ちゃんの将来なりたいものとか目標てなに?」
「どうしたんですの急に?まあ、取り立てて隠すモノでもないですし。わたくしの目標は新たな救助隊組織の結成及び設立ですわ」
「レッドウィングスとは別、ということ?」
ええ。と雅弓が背を伸ばし続ける。
「レッドウィングスは総合救助隊を名乗ってはおりますけど要請がない限り出場することはできないんですの。そんなのは鳥かごでしかない、ことが起きてからでは遅い。ですから地域と結びつき防災意識を高めていける、そんな組織を設立、運営していくのがわたくしの目標ですの。そのためには――」
雅弓がちらりとテレビを見た。内容は変わりバラエティトークを繰り広げている。
「そのためには世間の翼を持つ者の認識を高めなくては」
誇らしげに言い切った雅弓へと空たちが拍手を送るとまんざらでもないといった表情で雅弓が胸を張った。
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