第2話
早朝を告げるチャイムの音が廊下中に響く。
空と小夜は急いでジャージに着替え外に出る。
「おはよう、二人とも。て、二人とも髪ボサボサじゃない」
雅弓がポケットから櫛を取り出し二人の髪を梳く。
「雅弓ちゃんいつもありがとう」
「明日は絶対にやりませんわよ。ほらいつまでも寝惚けてないで行きますわよ」
校庭に出ると他の災害科の生徒が幻中先生の点呼を受けていた。
「――海埜空。よし全員いるな。三分後にランニングを開始する入念にストレッチをしておくように」
はい。と生徒が声をそろえる。
「ねえ空ちゃん今日の朝ごはんなんだろうね」
「うーん、私は焼き鮭がいいかな。あと温かいお味噌汁」
空と小夜がペアストレッチをしながら談笑する。
そこへ呆れ顔の雅弓がやってきた。
「まったくあなたたちはどうしてこうも緊張感がないのかしら」
「えへへ。そうだ、雅弓ちゃんは今日の朝ごはんなんだと思う?」
「わたくしとしては硬すぎず柔らかすぎずのサニーサイドアップにトースト。それにトマトサラダが欲しいですわね――て、なにを言わせるんですの。ほら、もう時間ですわよ」
普通科の生徒と入れ替わるように空たち災害科の生徒が学園の外へと飛び出す。
天気は晴れ。カラッとしていて過ぎてゆく風が心地いい。
塗装されている道から地面がむき出しの山道へと入ってゆく。
傾斜が段々と上がると息も上がってくる。
ふと後方を走っていた空が足を止めそれに気づいた雅弓が中団から抜け寄ってきた。
「体調でも悪いんですの?」
「ううん、違うの。ただ、声が――」
空に倣い雅弓が耳を傾ける。
「なにも聞こえませんけど」
「雛鳥の声だ。巣から落ちたみたい」
「――空さんあなたまさか」
空が首を振り彼方にみえる仲間たちの元へと駆け出した。
「あ、空さんお待ちなさい」
校庭に戻るころには雅弓は息も絶え絶えといった感じに顔が青ざめていた。
朝食には雅弓念願かなっての目玉焼きがでた。
その目玉焼きを小夜はご飯の上に乗せ黄身を割り醤油を垂らし一気にかきこむ。
「雅弓ちゃん食欲ないの?」
「誰のせいだと、思ってるんですの。まだ授業すらはじまっていないのに全力疾走して――」
雅弓が頭を抱えている間に小夜はごはんをおかわりしてきた。
ふう。と一息つきトーストにバターを塗りながら雅弓が空に聞く。
「空さん、あのときなぜ走り出したのかしら?わたくしはてっきり助けに行くものかと」
「昨日のことがあったからまずは落ち着いてまわりの声も聴いてみようって。そしたら近くで親鳥の声がしてあの子は大丈夫、そう思えたから」
「空さんあなた複数の音が聞き分けられたんですの?もしかしたらハウリングの技術が上がったのでは?」
「うーんどうだろう。すごく集中してやっと、て感じだから」
「そういえば今日の実習内容ちょうどハウリングの研鑽だったよね。そこで確認してみようよ」
自信はないけど。と空は笑った。
午前中普通科の生徒と同じ教養を受け本題ともいえる災害科の科目へ。
校舎から少し離れた災害仮想ルームに集まった空たちがしゃんと背を伸ばし幻中先生を待つ。
「休め、楽にしていい。点呼をとるぞ」
最後の生徒を呼び幻中先生が雅弓をみた。
「これからハウリングの研鑽に入る。姫川、ハウリングとはなんだ?」
「はい。ハウリングとは翼を持つ者たちに宿る鳥たちと音を震わせることです」
「その能力は?小夜」
「は、はい。千差万別、感覚的なこともあり研鑽してゆくごとに明確になっていきます」
よし。と幻中先生が首から下げているボロボロのバードコールに振れる。
「バードコール――ハーストイーグル」
幻中先生の背に生徒一人余裕で包み込める巨大な翼が生えると同時に白い仮想ルームが火災現場へと変わってゆく。
「なぜこんないとけない未熟な子供を過酷な災害と向き合わせるのか。それはおまえたちが翼を持つ者たちだからだ」
幻中先生が翼を軽くはためかせる。
強風で熱波が火の粉が舞い空たちは思わず目を伏せた。
次に目を開けたとき燃えていた家は崩れ火は鎮火し燃えカスが所々でくすぶっている。
「私たちの能力、肉体は常人を越えている。この力を災害に役立てよう、そう考えたのは。空」
「はい。初代学園長です」
「そうだ。危惧され碌な教育も受けれず路頭に迷っていた翼を持つ者を集め人命救助、災害活動にあたらせたのが初代学園長だ。以来だいぶ私たちの見方も変わってきた」
幻中先生はそういうと仮想ルームを元の白い部屋に戻した。
「おまえたちは家一軒余裕で壊せる力がある。その力をどう使うかはおまえたち次第だ。くどい話は以上だ、チームごとに並べ」
「チームアエロー準備整いました」
「よし。災害現場は火災だ」
幻中先生のアナウンスが終わると仮想ルームは住宅街へと姿を変えてゆく。
「正面十字の方向火災確認」
小夜が叫ぶ。
「空さん、小夜さん出場ですわ。着装!」
『着装、よし!』と着装を終えた空たちがバードコールに触れる。
『バードコール!』
「コシジロウミツバメ」
「カワセミ」
「サヨナキドリ」
三人は翼をはためかせ一気に火災現場へと近づく。
「小夜さん、あなたは付近の避難誘導及び簡易の治療所を。空さんはわたくしと要救助者の人命検索を」
「わかった」
上空から被害を確認しまだ火の手が来ていないベランダへと空と雅弓が急降下してゆく。
「人命検索開始、突入人員二名」
「機材よし、退路確認よし」
空と雅弓は互いにうなずき家へと乗り込む。
二階に入ってすぐ、気を失っている男性をみつけた。
「要救助者発見」
すぐさま空が男性を抱きかかえベランダから飛び立ち小夜が近所の公園に作った簡易の治療所に運び込む。
小夜は男性を横にさせると深く深呼吸し歌いだした。
これが小夜のハウリング、ヒーリング。傷の回復を速め気持ちを落ち着かせる。
後は任せて。という小夜の視線を受け空と雅弓は再び飛翔した。
「小夜さんの人命検索からすると火元とみられる一階に要救助者が一人いる可能性が高いみたいですわね」
「じゃあ急がないと」
空は羽を抜き刀を生成すると急降下の勢いで玄関を炎ごと切り裂く。
一回は火の海と化していた。
「ここはわたくしが――」
雅弓が自身の羽を抜き両剣を生成しそれを二本の短刀へと変化させ深呼吸する。
「突入しますわ!」
雅弓のハウリング――物に水を纏わせる――で炎を切り裂きながら廊下を駆ける空たち。
「誰かいませんか!」
空が声を張りながらも目を閉じ頻りにあたりを窺う。
「空さんどうですの?」
「ダメ。燃える音が邪魔して――」
空のハウリングは反響定位及び音の収集。普通はバードコールをしなければハウリング能力が使えないが感覚の鋭い空は日常生活においても細かな音が拾える。
火の勢いが増し災害科特注マスクから警告音が響き空の目に焦りの色が浮かぶ。
「――これ以上の人命検索は困難と確定。雅弓ちゃん切り上げよう」
「空さん」
空と雅弓は炎の中から飛び立ち再び公園に降り立った。
「二人ともおかえ――り?」
小夜が二人の顔を見て困惑する。
そんな三人をよそに仮想ルームが白い部屋へと変わってゆく。
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