第36話 畏怖城の残光7-⑴


「ああ天馬さん、飛田さん、よくぞ御無事で」


 流介たちが桟橋に戻ると、係留用の綱を握った舟雲がほっとしたように出迎えた。


「では出港します。心残りはありませんね」


「ありません。……あっ、図書室の本をもう少しあらためておけばよかったかな」


 天馬はいつも通りのとぼけた表情に戻ると、流介と共に舟雲の船に乗り込んだ。


「では、出港します」


 係留していた綱が外されると、船はゆっくりと桟橋を離れたそがれの海を進み始めた。


「……んっ?何だ今の音は」


 流介は突然、背後で聞こえたどおんという音に思わず後ろを向いた。


「あっ煙が……『畏怖城』から炎と煙が上がっている」


 遠ざかり始めた島の突端にある監獄の跡から、黒煙と共にきらきら光る金貨のような物が舞い上がるのが見えた。


「黄金だ……火薬が爆発したんだ」


「なんという恐ろしい光景でしょう。これで『海賊の黄金』は名実ともに伝説となったわけですね」


「あっ、あっちの方にもう一隻船が見えます。たぶん大十間さんの船でしょう。あちらもどうやら脱出に成功したようですね」


 天馬のほっとしたような声に。流介は胸にわだかまっていた問いを思わず吐き出した。


「坊馬は……やはり黄金と一緒に吹き飛ばされたのだろうか」


「さあ。悪人はしぶといとも言いますからね。こればかりは我々の知り得るところではないでしょう」


「あとは復讐を終えた男と父娘の穏やかな日々が残る……ってことかな」


「そういうことです。……さて、本土に着くまでひと休みしましょう」


 天馬がそう言って甲板に身体を投げだすと、舟雲が「大変でしたね、皆さん」とねぎらいの言葉を口にした。


「心と身体の疲れを癒すのには美しい物を見るのが一番です。お嫌でなければ、私の鍛え上げた筋……」


 シャツの裾に手をかけた舟雲を見て、流介は慌てて「いや、それは結構です」と言った。


                  

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