第31話 畏怖城の残光6-⑵
「ここで行き止まりですね。でも……」
天馬がそう言って目を落としたあたりには、明らかに人が火を燃やしたと思われる枝の燃えかすがあった。
「この行き止まりの壁にくっついてる巨大な根が、うまいぐあいに椅子になるな。ここに腰かけてこう、火の番を……」
流介が壁に押しつけられるように横たわっている太い植物に腰かけると、天馬が「ちょっと待ってください飛田さん。この根、気になりませんか?」と言った。
「根が気になる?」
「一間、左から出て右に吸い込まれているように見えますが、はたしてそうでしょうか」
「どういうことだい」
「地中に潜っている部分と、見えている部分が繋がっていないとしたらどうでしょう」
「繋がっていない?」
「ちょっと右側の端に手をかけて見て下さい。僕は左に行きます」
天馬はそう言うと、前屈みになって根の左端に手をかけた。
「いち、にのさんで手前に引いてみて下さい」
「壁に潜りこんでいる根をかい?意味ないと思うけどなあ」
「いいから行きますよ。いち、にの……」
「さん」で流介たちが手に力を込める、と驚いたことに長い根の一部だと思っていた部分が手前に動いた。
「な……下の方は塞がっていないぞ天馬君」
行き止まりの壁からくっついていた根をどけると、ちょうど根のあった部分に高さ二尺ほどの隙間がまるで抜け穴のように現れた。
「考えましたね。おそらくこの向こう側が「本当の」隠れ場所だと思います」
「まさか、この下を這ってくぐるつもりじゃないだろうね」
流介がおそるおそる尋ねると、天馬は「立って行くには僕らの背は高すぎます」と真面目な顔で言い放った。
「しょうがない、今度は僕が先に行くよ天馬君。高いところは苦手だが、狭い場所ならなんとか行ける」
「そうしてもらえますか。狭い場所は苦手でなので、助かります」
流介は頷くと、腹ばいになって岩壁の下に開いているわずかな隙間に身体を押しこんだ。
――こりゃあ息苦しい。途中でつかえたら一生、誰にも見つからないままだろうな。
狭い隙間をじりじりと這い進んで行くと突然、向こうに開けた場所が見え始めた。
「……んっ?なんだあれば」
細い隙間からわずかにのぞく白っぽい物体に、流介は思わず声を上げた。二本の細い棒のようなそれは、近づいて行くうちに人間の足であることがはっきりとわかった。
「――あっ」
「きゃあっ!」
隙間から顔を出した流介の目線と、奥の空間でうずくまっていた人物の目線がぶつかり悲鳴が洞穴内にこだました。
「江島……小梢さん」
「えっ?」
三畳間ほどの空間にうずくまっていたのは、曲芸団で美しい舞を披露していた江島小梢だった。
「あなたは……?」
小梢が目を見開いたまま問いを投げかけると、流介の後ろで「飛田さん、とりあえず出てくれませんか。狭すぎてどうにかなりそうです」と天馬の声がした。
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