第18話 畏怖城の残光3-⑶
「この悲劇の発端は、一人の女性をめぐる二人の人物の恋のさや当てにありました」
ウメがそう前置くと、一同から「おお」というさざめきが起こった。
「その女性とは江島小梢さん。芸と芸を繋ぐ間を埋めるため、神楽の腕を見込まれて臨時に雇われた踊り子さんです。彼女に思いを寄せていたのは亡くなられた佐井さん、そして龍の腕輪をしているという綱渡り芸の男性、猿渡龍男さんです」
「まさか猿渡さんが佐井さんを……」
「お待ちください。私たちがわかっているのは佐井さんが亡くなられ、猿渡さんと小梢さんが消えたという事実のみです。あまり考えたくはありませんが、佐井さんにしつこく付きまとわれた小梢さんがつい……ということも考えられます。この場合は駆け落ちということになるのかもしれません」
「とにかく、二人のうちのどちらかに殺されたということですね?」
「はい、残念ながら。猿渡さんが犯人の場合、逃げた猿渡さんの行方を小梢さんが追っていったということも考えられます。この場合は佐井さんと小梢さんが恋仲だったということになります」
「三人で直談判のような話し合いをしている最中に感情が高ぶって……という事故のような殺人だった可能性もありますね」
「はい。むしろその可能性が最も高いように思われます。どちらが先に手を出したのかまではわかりかねますが……」
「それで大樽に入れてほったらかしたと……ううむ、色恋が絡むとかくの如く奇怪な事件になってしまうのか」
「あたくしは暗号に関してはさっぱりでございます。ですが死体を大樽に入れる際にたまたま古地図を見た犯人が持って行ったのであれば、やはり宝のありかを示した言葉なのかもしれません。あたくしのお話は以上でございます」
ドレス姿のウメが頭を下げると、日笠とウィルソンが同時に「素晴らしい」と拍手をした。
「それでは、本日の解答を決めたいと思います。最も優れていると思われる説を披露された方を指で示してください。自分だと思われる方は手を上に上げて下さい。お願いします」
ウメが審査を促すと日笠とウィルソンがウメを指し、ウメも何と手を真上に上げた。
「では満場一致で……少々、お恥ずかしいですがあたくしの説を今回の解答とさせていただきます」
テーブルを囲む一同から拍手が起こると、流介は多彩な推理に感心しつつ何とも言えない微妙な気分になった。
――みなさん、見事な推理だが……肝心の暗号がさっぱり解読されてないじゃないか。
これはいよいよあの男を頼らざるを得ないな、と流介はこっそりため息をついた。
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