第17話 畏怖城の残光3-⑵
ウィルソンが一礼して席に戻ると、間を置かず日笠が「では続いて拙僧の推理を披露させて頂こう」と手を挙げた。
「佐井氏が誰にどうやって殺されたかはさておき、私は「小熊の先を大熊が行く その遥か先、道の上に十三の棺桶あり」という、この暗号について推理してみたいと思います」
流介は日笠の自信に満ちた物言いに、思わず身を乗り出した。本当にあの暗号を解くことができるのだろうか。
「ひとことで言うとこの「暗号」は元から書かれていた物ではなく、佐井さんが自分で書きこんだものだと思います」
「えっ?」
「古地図の方は本物で、古地図が好きな佐井さんがどこからか入手したのでしょう。そして中身を解読してもらうべく、古本屋に持ちこんだのです」
「しかし何も、わざわざ地図に暗号のような言葉を書きこまなくても……」
「たまたま紙が手元になかったのでしょう。思い付きを覚書のように書く癖のあった佐井さんが、古地図の余白――多分島か何かの地図で余白が多かったのでしょう――につい書いてしまったというわけです」
「暗号でないなら、なんなんです?」
「芝居の台本のような物……とでもいいましょうか、すなわち興業で披露する動物芸の案ではないかと思われます」
「動物芸の台本……」
「まず「小熊の先を大熊が行く」でありますが、これは親子の熊を現していると考えられます。たとえば芸の台本としてこんな物語はどうでしょう。ある男が疫病にかかり、村で十三番目の死者になりかけていた。村人は魔除けの風習として男の手足を縛り、生きているうちに樽に入れてしまう。ところが熊が二頭も近づいてきたので、村人たちは樽をひっくり返したまま逃げてしまった」
「その樽には、佐井さんが入っているわけですね」
「そうです。熊の親子は樽を散々樽を玩具にして遊んだ後、上に乗って壊してしまう。すると男の姿は綺麗に消えている、というわけです」
「消えている?奇術のような芸というわけですか」
「そんなところです。熊が去った後、佐井さんは樽の下に掘ってあった穴から縄抜けした姿で現れる。観客が笑ったところで芸が終了――とまあこういう筋書きだったのではないでしょうか」
「なるほど、奇術と曲芸を兼ねた見世物と言うわけですね。その練習中に亡くなってしまったと。辻褄は合いますね」
「かなり荒い中身になってしまいましたが、私の推理は以上です」
日笠は自説を披露し終えると、深々と一礼した。燕尾服を着た僧侶が手を合わせてお辞儀をするという光景は、この会ならではだろう。
「最後はあたくしですね。あたくしは少し違った、やはり血なまぐさい事件はあったという体で推理を進めさせていただきます」
ウメが声を低めて言うと、テーブルを囲む一同がしんとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます