1-2
ドッスン!!!
僕達の目の前に、何かが落ちて来た。それも、一つ二つ……、いや、一匹、二匹じゃない! パッと見、十匹の……。
「ビックリした! これは……、デカい蜘蛛!」
僕達の目の前に現れた蜘蛛は、体の大きいヴァルハルトよりも、さらに大きな体をしていた。
大人になった僕は虫が苦手だったけど、この頃の僕は、虫は平気な方だったんだ。でも、結果、昔の頃の虫が苦手になった記憶があるんだか、いつ頃だっけ?
「あいつら、魔物図鑑とかに載っていないな」
ヴァルハルトは、名前こそ憶えないが、目で見た姿形を覚えることはできる。後は、武器の名前とか、性能とか。
だから、魔物の名前こそ憶えられていないが、生体などは頭に入っているらしい。
僕も、その魔物図鑑を呼んだことあるけど、魔物の名前の付け方が、壊滅すぎる。もう少し、危機感を感じられる名前の付け方が出来なかったのかな?
「熱血兄ちゃん! 奴らの生態が分からない以上、無闇に攻撃をしたら、危険だ! 少しでも、異変を感じたら、引くぞ!」
確かに、ヴァルハルトの言う通りだ。魔物を未知だ。口からビームを吐く狼もいたぐらいだから。
しかし、肝心のアスラはというと……。
「よし! 行くぜ!」
「おい! 待て!」
アスラが突っ走って、剣で蜘蛛の魔物に攻撃を仕掛けた。
カキーーーン!!
しかし、蜘蛛の魔物の体には通らなかった。
魔物の体は硬く、その上、生命力が高いから、傷を負わせても、中々倒れてくれない。しぶとい奴らだ。持久戦に持ち込むと、僕達が不利になってしまう。
それなのに……。
「くっ! あいつめ!」
「どうするんですか?」
「一旦、お前とユンヌを安全なところまで、避難させる。生態は分からない以上、無闇に戦うのは得策ではない。熱血兄ちゃんには悪いが、ここは、あいつの粘り強さを信じるしかない。俺はユンヌ達の安全の確保を優先する!」
ふっと、ヴァルハルトが下唇を噛んでいるのが見えた。苦痛の決断だったんだね。
「あの鋭く尖った足には、気をつけろ! それと、蜘蛛は糸を吐く種類も考慮したい。後は、奴らの走るスピードだ。場合によっては、逃げらないかもしれない」
ドッスン! ドッスン!
一体の蜘蛛がこっちへ向かってきた。
「く! 来やがったか! それに思っていたよりも早いかもしれない! 止む思えない! 僕っ子ちゃんは鎖系統の魔術で、あの蜘蛛の動きを封じるんだ! その間、俺が前に出る!」
「分かった!」
蜘蛛の魔物の前足二本が、僕達目掛けて、突き刺そうとしてきた。あの鋭く尖った足に、突き刺されたら、一溜りもない。
カキーーーン!!!
ヴァルハルトは、大剣を取り出して、蜘蛛の魔物の攻撃を受け止めた。
あの大きな蜘蛛を押さえているなんて。ヴァルハルトは勇能力を持ち合わせていないため、固有能力の一つの身体強化が使えないけど、それでも、力負けしないなんて。
元々、ヴァルハルトは、鍛えられた体をしてはいたんだ。それでも、全く体を鍛えてもいない、勇能力の持ち主には、力負けしてしまう。理不尽過ぎる。
あ! そんなことよりも、ヴァルハルトを援護しないと。
ここは、僕の得意魔術である、地の魔術で。ヴァルハルトを巻き込まないで、蜘蛛の魔物の動きを封じるなら、鎖しかない。
チャンスを見極めて……。
「今だ!」
地面から生えて来た数本の鎖が蜘蛛の魔物の体を縛り付けた。
「ナイスだ!」
ヴァルハルトは、手の平から、火の魔術である、火炎放射を放出させた。
一般的な魔術は、詠唱が必要で、発動するのに、時間が掛るのに、ヴァルハルトは、蜘蛛の魔物を拘束した、直ぐに発動させた。恐らく、蜘蛛の魔物の攻撃を受け止めながら、詠唱をしていたんだな。準備がいい。
だが、蜘蛛の魔物は火に包まれているが、まだ動いている。
「やはり、燃やしただけじゃ、だめか。……なら!」
燃える蜘蛛の魔物周辺から、炎の渦が発生した。そして、それが蜘蛛の魔物を閉じ込めた。蜘蛛の魔物は炎の渦から、脱出しようとするが、炎の渦の勢いが、激し過ぎて、出れなくなっている。やがて、蜘蛛の魔物は動かなくなっていった。
「どうやら、魔法攻撃には、弱いみたいだ」
「じゃあ、魔法で攻めれば……」
「そうだな……ん?」
ヴァルハルトは、燃え行く、蜘蛛の魔物を凝視している。どうしたのかな?
そう言えば、アスラはどうなっているんだ?
「こいつら、硬すぎる!」
アスラは蜘蛛の魔物らに囲まれていた。蜘蛛の魔物の死体がない限り、まだ倒し切れていないみたいだ。
魔物の体は、勇能力の身体強化でパワーアップしても、倒せない種類もいるから、この蜘蛛の魔物もその類か。
「こうなったら、奥の手だ!」
アスラの装備している剣が燃え始めた。さらに、アスラの全身が光り出した。
もしかして、アスラは、大技を決めようとしている?
以前、見たことがあるんだけど、確か、勇能力の内一つの能力である、身体強化で、己の体を強化、つまり、速く走れたり、力持ちになったりする。それ強化された身体を生かして、剣を振るうと斬撃を飛ばせるようになる。さらに、その斬撃に火の魔術を付着させる大技。この技で、一気に数千の部隊を巻き込むことが可能だ。
てか、こんな、山奥に使うなよ! 周りの、木に燃え移るだろ! やめさせないと!
「熱血兄ちゃん! そいつらを攻撃したらだめだ! 引くぞ!」
あれ? 周りに火が燃え移るよりも、ヴァルハルトは、あの蜘蛛に攻撃することを制止しているみたいだけど、何か、あの蜘蛛に攻撃してはいけない理由があるのか?
「何いっているんだ! こいつらを野放しにはできない!」
「いいから聞け!!」
「くらえ!!」
「だめだ! そいつらの体はーーーーーー!!!」
ヴァルハルトが、蜘蛛の魔物を攻撃してはいけない理由が分かった。
だけど、アスラは攻撃を止めなかった、聞こえないのか? もし、ヴァルハルトが言っていたことが本当なら、大変なのでは?
「これでも喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ヴァルハルトの必死の制止の叫び声を聞き入れず、アスラは、蜘蛛の魔物に攻撃を繰り出した。
僕達を襲った、蜘蛛の魔物の名前がのちに、サクラングモと呼ばれるようになった。それは、悪帝との戦いが終わった後に、倒し方には注意が必要な魔物として、世に知らされることとなった。
もう二度と、同じ過ちを出さないために。
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