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悪帝との戦いの際に、解放軍のアジトに、一人の人間が尋ねて来た。
その人の体には、痣見たいのが出来ていた。調べたら、その痣は、毒によるもので、医学の知識のあったネールが、その知識を生かして、作り出して薬とユンヌお姉ちゃんの治癒術を合わせた結果、解毒が出来た。
しかし、その尋ねて来た人の村では、同じような症状が発生した者が多くいたそうだ。
解毒のために、解放軍で唯一、治癒術が扱えられるユンヌお姉ちゃんが、その村に向かうことになった。
その護衛に、僕とヴァルハルト、そして、アスラが、同行することになった。
それが、悲劇の始まりと、知らずに。
目的の村まで、山の中を進んでいく僕達。
僕は、街にある屋台で買った水飴菓子を舐めながら歩いている。
「おい! 熱血兄ちゃん! そんなに、急ぐことはないだろ! 帝国軍はいなくっても、危険種や魔物がいるかもしれないから、あまり離れないでくれ!」
僕達を置いて、先に進んでしまっているアスラを呼ぶヴァルハルト。
アスラは、一応、解放軍のリーダーを任せられているが、協調性がなさ過ぎて、皆を振り回している。
リーダーなら、気遣いもできる、シグマに任せるのが適切だと思うんだけど、既に所属していた解放軍の皆は、僕達八人の中で圧倒的な力を誇っていたアスラにリーダーを任せたかったらしい。協調性のない人をリーダーを任せて大丈夫なのかな?
今は、任務を成功させないと、多くの命が掛かっているんだ。頑張らないと。
それよりも……。
「ヴァルハルトさん! あの人はアスラね! 名前覚えとけよ!」
「おっ! そうだったな、僕っ子ちゃん」
「確かに、自分のことを僕って呼んでいるけど、僕の名前はアイラだよ、アイラ! いい加減、僕の名前も覚えろよ!」
もう何回も名乗っているのに、全然覚えようとしないんだよ! この人は!
ちなみに、自分のことを『僕』って、呼んでいるけど、八歳の女だよ。
「名前覚えるの苦手なんだよ」
「せめて、身近な僕らの名前ぐらい覚えろよ。もう少し、頭を働かせろよ! そんなんだから、頭の毛がなくなってきているんでしょ?」
そう、この人は、まだ、二十歳にすら、なってもいないのに、髪の毛薄いんだ。
きっと、髪の毛の薄さは、頭を働かせないから、人の名前を忘れるたびに、一本抜けていっているんだな。
「ぐっ! 心に刺さるな! 容赦ねぇな!」
「悔しかったら、覚えようとする、努力をしろよ! それに、お二人は顔見知りじゃなかったの? ユンヌお姉ちゃんとも顔見知りの様だけど。それで、何で未だに、アスラの名前を憶えていないの?」
「付き合い長いだろうか、短いだろうか、関係なく、俺は、人の名前を忘れるんだぜ」
「誇るなよ!」
十歳も満たない子供に、説教させるなよ。
ヴァルハルトは名前を覚えられない以外は、頼りになるにはなる。
だけど、その名前を覚えられないせいで、偵察の任務が失敗したんだから。確か、帝都に侵入する際、パートナーと仮名で呼び合うことになっていたんだけど、肝心のヴァルハルトは、その自分の仮名すら、忘れて、帝国兵に正体がバレて大変だったそうだ。
あれ以来、ヴァルハルトは潜入系の任務を任せられなくなったんだ。
「今度、僕の名前忘れたら、花占いに使う花の代わりに、ヴァルハルトの髪の毛でやるからな」
「それだけはやめてくれ! 泣けなしの髪の毛なんだ! なくなった日には、ショックで死ぬかもしれないぞ! それでもいいのか!?」
「知るか!」
「あれ? アイラちゃんと、ハルトくん、どうしたの? 仲良く話して?」
そこに、僕の年上の従姉妹のユンヌお姉ちゃんが声を掛けて来た。
「仲良くって、冗談言わないでよ。ユミルちゃん。俺は僕っ子ちゃんに、心を抉られていたんだよ」
「何で、ユミルお姉ちゃんの名前だけ覚えられるのよ!? おかしいだろ!」
「だって、簡単だろ?」
「僕の名前だって、簡単だろ!」
こいつの、覚えられない基準が分からない。僕とユンヌお姉ちゃんの、文字数は同じだろ。
ヴァルハルトは、唯一ユンヌお姉ちゃんの名前しか覚えていないんだ。まあ、その理由は何となく、分かるんだけど、だからと言って、僕らの名前を全く覚えられないのは、どうかと思うんだけど。
「うふふ。やっぱり、仲良しなんだね」
「ユンヌお姉ちゃん。これが、どう見たら、仲良く見えるのよ?」
呑気というよりか、天然というのか? ユンヌお姉ちゃんは、僕より十歳年上だけど、この通り、抜けているんだ。
そんな頼りなさそうな、自由人のユンヌお姉ちゃんだけど、美人で優しいんだよ。
それに、胸も大きいし。大きい……、僕が女の子でよかった。普通の揉ませてくれるから。
ユンヌお姉ちゃんは、僕の憧れの存在で、お姉ちゃんに頼られたいばかりに、女の子捨てて、男の子っぽい言動が増えた自分がいます。元々、僕は、男の子と間違えられる外見だったんだけどね。
「ちょ! ユンヌお姉ちゃん! 顔色が悪いよ!」
ユンヌお姉ちゃんの顔が青くなっていた。呼吸も荒いくなっている。
「はぁ、はぁ、ごめんなさい。はぁ、はぁ、はぁ」
ユンヌお姉ちゃんは生まれつき病弱な体なんだ。
ユンヌお姉ちゃんは勇能力は使えるんだけど、体が弱くって、魔術を使うと、その反動で体に普段が掛かるらしい。でも、何故だか、分からないんだけど、魔道具経由の魔術なら、その反動が来ないらしい。
魔道具は、魔石と呼ばれる石を付けた装飾品を身に着けることで、本来、魔術が使えない人でも、魔術が使えるらしい。始めから、勇能力を持っている僕は、魔道具を装備しなくっても、魔術が使える。
そう言えば、ユンヌお姉ちゃんは、勇能力経由で魔術を使ったら、どこからか、声が聞こえてくるっていたような。僕はそんなことはなかったけど、体に掛かる反動と関係あるのかな?
「おーい! 熱血兄ちゃん! ユンヌが辛そうだ! いったん休憩しよう!」
「そんなことしたら、日が暮れるだろ! それに、魔物に襲われるかもしれないし」
「だからこそだ。万全な状態にして置かないとだ。それに、この山奥に入っている限り、どの道、魔物に襲われるリスクが高い。ユンヌの体調がよくなるまで、休むのが先決だ」
「分かったよ! その間、俺は、その辺、見張って置くよ!」
「すまない」
先に行ったアスラに対して、ヴァルハルトとお互い聞こえるように大声で会話し、結果、休憩することに。
アスラは納得していないようだけど。
ユンヌお姉ちゃんは、木の陰に座り込んだ。
「ごめんなさい。急がないといけないのに……」
「いいんだ。確かに、村に広まった毒を解毒するには、ユンヌの力が必要だけど、だからといって、一人の人間に責任を負わせるのは違うと思うよ。ユンヌしかできないから、ユンヌを頼りにはしたいと思うけどね。仮に、ユンヌがここにいなければ、ユンヌなしで、自分達で、解毒を見つけないといけない。そうやって、人間が生きる術を見つけるために工夫するものじゃないのか?」
「ありがとうございます」
「……それにしても」
ヴァルハルトは遠くを見上げた。その先はアスラが走っていた先だったような。
「あいつも変わったな」
「そうなんですか?」
「何というか、昔から、猪突猛進な、ところは変わっていないんだけど、何か、向こう見ずが、さらに酷くなってきている気がするんだ」
「救世主と崇められて、浮かれているんじゃないか?」
「……そうだといいんだけど」
ボーーーーーン!!!
いきなり、爆発した音が響き渡った。
「何なんですか?」
「アスラの魔術だ! 敵襲か!? 」
「ああ! すまん、すまん、驚かしてしまった!」
アスラが僕達のいるところまで、歩いてきた。
「何していたんだ?」
「暇だったから、危険種だが、魔物だが、分からない奴を見かけたから、魔術をぶっ放した」
「何しているんだよ!? 向こうから襲撃してきたなら、止む思えないかもしれないが、なんで、お前から攻撃を仕掛けてきているんだよ!?」
さすがに呆れてしまう。さっき、『見張って置くよ』と言っていた人がやる行動ではない。何を考えているのか。
「ん!」
突然、ヴァルハルトが鋭い目つきをした。
「待って! 何か、来るぞ!」
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