1-4

 ネールが最善を尽くしてくれた結果、ユンヌお姉ちゃんは、幸い命に別状はなかった。


 だけど、体の弱いユンヌお姉ちゃんの体は、さらに弱くなり、後数年の寿命と言われてしまった。体が弱くっても、今まで、何年しか生きられないって、言われたこともなかったのに。




 事件が起きた、その夜。僕は一人、もう、生気感じられない程ふらふらしながら、外を徘徊していた。


 現実を受け入れられていない。ユンヌお姉ちゃんが、後数年の命何て……。


「どうして、こんなことに……? もしかしたら、僕の魔術が強力だったら、壁が壊れることはなかったのかな?」


そう呟いたら瞬間。


『そうだ。お前は、もっと、強くなる必要がある』


 どこからか、声が聞こえた。この辺には、僕以外、誰もいないのに。


「誰だ!? どこにいる!?」

『もっと強ければ、守れていたかもしれないのに、おしかったな』

「答えろ! 誰なんだ!? そこに、どこにいる!?」


 よくよく、声を聞いて見れば、僕の声質と同じだ。だけど、僕は口を開いていない。じゃあ誰だよ?


『僕は君だ』

「意味がわからないこと言っているんじゃないよ!」

『察しが悪いな……。まあよい』

「よくねぇよ!」

『それよりも、貴様の持つ力を、極めれば、強くなれる』

「いいから、話を聞け! 本当に、どこにいるんだよ!?」


 急に話を変えやがって! 声が聞こえるから、近くにはいるはずなのに……。


『改めて、聞く。悔しだろ? 自分の力不足で、大事な人を守られないことを』

「ぐぅ! 何で、そのことを知っているんだよ?」

『守れなかった』


 確かに、悔しい。悔しいが。


「何で、テメェーは、人の心を抉るようなことを言うんだよ! 何が目的だ!?」


 段々、自分の口調が荒くなってきている気がする。


『何、お前の力になりたいと思っていただけだ』

「力になる? テメェーが? 何のつもりだ?」

『今回の件、誰が、招いた?』

「答えろって、言っているだろ!」

『いやいや。後悔しても、ユンヌの体は元には戻らない』

「嫌みかよ! 人を気にしていることを!」

『まあ、待て。ユンヌが酷い目にあわせた、元凶がいるだろ?』

「……アスラのことか?」

『あいつのせいで、ユンヌを殺された様なものではないか?』

「ユンヌお姉ちゃんはまだ死んでいない!! 勝手に殺すな!!」

『だが、次期に死ぬだろ?』

「ぐぅう」

『あの男の愚行が招いたことだろ? そんな男を許していいのか?』


 僕は、一生、アスラを憎むが、復讐は望んでいない。


「バカらしい! あの男がやったことは、許さないが、復讐に何の意味がある? ただの自己満足だろ」

『おいおい。そんなんでいいのか?』

「付き合っていられない! どこから、声を掛けているのかは、知らないけど、これ以上僕に関わるな!」


 僕は、耳を塞ぎながら、その場から離れようとした。


『そうはいかないよ。強くなる見込みのある子をそのまま、放置するなんて、宝の餅ぐさりだからね』

「! 何で、まだ、あんたの声が聞こえるんだよ!」


 ふと、この声がどこから来ているのか悟った。


「まさか! 僕の頭の中に声を掛けていたのか!?」

『そうだ。お前の心の中から話しかけているんだ。なんせ、僕はお前自身だからだ』

「どういうことだ?」

『そのままの意味だよ。鏡に写っている自分と思えばいい。そう、実は、復讐を望んでいると』

「だから、違うって、言っているだろ!」

『嘘を吐かなくっていい。なんせ、僕は君。分かるんだよ、君の心が』

「いい加減にしろよ! 僕が違うって、言っているんだから、違うんだよ!」

『嘘を付かなくっていい。もう一層、認めて、楽になりなよ』


 何度も、何度も、強く否定はするが、その都度、幻聴は復讐に対して肯定し続ける。


 どこに行っても、耳を塞いでも、幻聴は、僕の心に復讐を促すことをやめなかった。


 幻聴に対して、強く否定するってことは、もしかしたら、アスラに対しての復讐心を持っているんじゃないかと思い始めている。


 だけど、それでも……。


「違うって言っているんだよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





 この幻聴は、二十年間、僕を苦しみ続けた。力は強くなってきてはいるが、それに引き換えに、人情が薄れてきていることを実感してきている。さらに、それと同時にアスラに対しての憎しみが増してきて、のちに、生まれてくるアスラの娘を見ているだけで憎しみがますようになった。本人と関係ないとしてでも。そう考えると、僕が一番醜い心を持っているかもしれない。


 この幻聴の正体は、二十年後に知ることとなった。それまで、僕はこの呪縛を背負って生きていた。


 カチュアに出会うまで、ずっと。


 彼女がいなければ、僕は、仇の娘にして、僕の親友を殺す結果を生んでいたかもしれないから。




エピソード1 狂い始めた歯車 完

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蒼炎のカチュア・外伝 黒桐涼風 @azalea734

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