魔王人生 第1章 第10話 最凶ノ魔王
その場にいた大天使たちは倒したはずの神代が放った名前を聞き戦慄する――
『カガーマ』
その名は、かつての大戦で魔族に裏切られ、天使族の連合軍をも相手にしながら、たった十人で戦争を終わらせた「
魔界の歴史からはその名は消され、知る者は数少なく、一部の者しか知らないほどの存在である。
そして一部の者たちは揃って同じことを言う――
――『最強』と
神代もといカガーマが放つ殺気は大天使も身を震わせるほどだった
「まさかっ!?・・・最悪ですね、一番恐れてた状況が今起きました!!」
先に話を切り出したのはウリエルだった
「ウリエルも分かるのか・・・・あれは、ヤバい!今まで戦ってきた中でも一番ヤバいっ・・・!!!」
ミカエルは声を震わせるながらも何とか喋ることができた
「・・・ガブちゃんは、大丈夫でしょうか?この圧迫感で身動きが取れません・・・」
ラファエルは倒れているガブリエルの方を見ながら話す
「っ・・・今は自分に集中しなさいラファエル、今いる大天使で彼を止めます!!」
―
ウリエルは羽が少し大きくなり、姿も神々しくなり、魔力を急激に高める―――
「本来の力を解放しても構いませんっ!!・・・全力の戦闘を許可します!」
本来、強敵を相手に使う能力ですが、それをやっても勝てる気がしない・・・!
ウリエルは目にも止まらぬ速さで、カガーマに剣撃を放つ
次に見た瞬間、カガーマはウリエルの剣の上に立ち、顔を蹴り飛ばす――
ドガッ!!!
ウリエルが蹴り飛ばされるも、カマエルは間髪入れずに、攻撃を入れ込む――
―
―
カマエルの放った「焔迅拳」は巧みに流され、腹部にカウンターを喰らう
ドゴッ!!!
カガーマは攻撃の手を止めず、そのまま蹴り飛ばし、壁に叩きつける
「――ぐはっ!?」
隙かさず背後から短剣を飛ばすも軽々とキャッチされてしまう
「なっ!?くっ!!!」
カガーマは次々と飛んでくる短剣を素手で捌き、指の間に挟んでいた
「・・・面白い芸当だな、魔力をこの短剣と同期し、空中で自由自在に動かす・・・まぁ元々は俺の技術だがな――」
次の瞬間、ガブリエルの右腕と左脚に短剣が刺さっていた
「痛っ!!」
カガーマはラファエル達の方へゆっくりと歩いて行く
「貴様らは向かってこないのか?」
「っ・・・!」
ラファエルは恐怖のあまり言葉が出ず立ち尽くしていた
「・・・はぁ~戦う気が無いやつには興味がない・・・消えろ――」
その刹那に起きた出来事は瞬きも許されない速さでラファエルとの間合いを詰め、蹴りを入れようとしていた
ガァァァンッ!!!!!
「っ!・・・・少しは骨のあるやつが出てきたかっ!!」
そこに現れたのは遠くで見ていた狐嶺とベルだった、間一髪でカガーマの攻撃を止めた狐嶺は振り払う
「・・・あなた達は逃げなさいっ!ここから先は私達が相手するわ!」
身の毛がよだつ程の魔力と殺気・・・そしてこの圧迫感。
間違いない、あの時出会ったあの人・・・でも何かおかしい。
カガーマはゆっくり歩きながら狐嶺の方へ向かう
「ほう・・・妖狐・・・いや天使の気配もある・・・それにその武器――」
ギャインッ!!
次の瞬間、ベルの剣撃がカガーマに直撃する・・・が
「・・・まあまあだな」
ベルは目を離した訳でもないのに、気づけば背後を取られていた――
「もう少し広い所で戦ろう――」
カガーマはベルの左腕を掴み、1200m先の街の方へ投げ飛ばす
「――うわっ!?」
気づけば、はるか上空まで飛ばされるベル
次の瞬間、カガーマが蹴りを入れるところを見るも、反応できずビルに叩きつけられ、建物を壊しながら落下していく
カガーマは他の建物の屋上に着地し、崩れる建物を見ながら笑う
「クハハハッ!!やるじゃねぇか・・・蹴りを入れた後、建物に当たる瞬間、斬撃を入れて衝撃を和らげたか!――」
フォンッ!!!
狐嶺が気配を殺して、カガーマを斬ったと思ったが、空振ってしまう
「くっ!?なんて速さ・・・」
カガーマは崩したビルの瓦礫の山の上に立ち、狐嶺とベルを見下ろしていた
「――まぁ、かつての大天使程ではないがな」
話す中、カガーマの目の端で捉えたのは銃弾だった
ドガァァァンッ!!!
強い衝撃と共に砂煙が上がり、互いの姿が隠れる
「・・・妙な視線はこれか」
俺の気配察知の外から攻撃してきたな。
―
―
狐嶺は砂煙の中からカガーマに攻撃を仕掛ける――
キンッ!!
―
カガーマは先程まで武器を持っていなかったが、魔力で黒い刀を作り出し、攻撃を防いでいた
「なっ!?」
狐嶺は斬撃を防がれ、驚きの顔を隠せなかった
「ふむ・・・「
するとカガーマは一瞬で狐嶺の間合いを詰め、右脚で蹴り飛ばす
ドゴォッ!!
「――ぐぁっ!?」
この状態でも・・・!
狐嶺は蹴りの威力で建物を次々と壊しながら飛ばされる
「はぁぁぁああッ!」
― レスト流剣術 トライデント・スラスト ―
ギギギィィンッ!!!
ベルが放った3連撃は全て防がれるが、次の技に踏み切る――――
― レスト流剣術 ジスト・レグ ―
ドガガガガガガガガガァァンッ!!!!
放った剣撃は、脅威の10連撃、カガーマも少し体勢を崩し、距離を取る
「驚いたな、たかが人間と天使が混じっただけと思ったが・・・詫びよう、貴様を見くびっていた・・・だが、それができるのはお前だけじゃない」
―
ベルは魔力を高め、急加速し、カガーマの間合いに入る――
「このまま決めますッ!!!」
― レスト流剣術 ルーズ・ロギレス ―
「――フッ」
― レスト流剣術 ルーズ・ロギレス ―
「なっ!?」
私と同じ技っ?!
さっきの・・・剣術を数回見ただけで、真似をしたなんて・・・
轟音と共にカガーマはベルの技を相殺する
「この程度で驚いてもらっては困るな――」
―
カガーマは手を広げ、ベルの腹部にめり込ませる
「がぁっ!?・・・ゴホッ!」
ベルは少し血を吐きながらも剣を振り、カガーマから離れる
「この「頸刹拳」はな、こいつの持つ技術で、内部を破壊する技、まだ戦い足りないから手加減したが、内臓が迫り上がって動くのが精一杯ってところだな」
「ハァ・・・ハァ・・・くっ!」
息を整えないと・・・
ベルは腹部を抑えながら、剣を地面に突いて何とか立ち上がる
―
ドガァァァンッ!!!
攻撃を仕掛けたのは狐嶺だった、強い衝撃と同時に地面を斬り裂く
「はぁぁあぁあああッ!!!!」
狐嶺は、鬼気迫る勢い、目にも止まらぬ速さで剣撃を繰り出す――
だが、カガーマはいとも簡単に剣撃をいなす
「なかなかのモノだな、だが――」
キンッ!!!
カガーマは、風鐘の放つ銃撃を残心刀で弾く
「――鬱陶しいな・・・先に片付けるか」
次の瞬間、狐嶺を残心刀で斬り飛ばし、両腕を交える
「っ!・・・あれは!――――」
―
強い衝撃と共に狐嶺とベルは吹き飛ばされ、風鐘がいた場所に光線が放たれる
ドガァァァァンッ!!!
「・・・風・・鐘っ」
狐嶺の声も飲み込むほどの衝撃音が辺り一帯に鳴り響く
「・・・っ」
何とか・・・「空間転移」が間に合った。
複雑な撃ち方をしたのに・・・何で・・・いる場所分かるの?
「・・・っ!」
ザンッ!!
風鐘は飛んできた斬撃を避け、銃を構え直す
「貴様が先程から、鉄屑のようなモノを飛ばしているのか」
「・・・!」
前に戦った・・・彼?
・・・いや・・・何か違う・・・
風鐘は心の中で戸惑いながらも銃口をカガーマに向ける
「先程は仕留め損ねたが、この距離なら容易――」
ドンッ!!!
風鐘はスナイパーライフルで至近距離のカガーマを撃つ・・・が
左手で銃弾を握り潰していた
「・・・っ?!」
「・・・ハエが止まるような遅さだな、こんなもので俺を倒せるとでも?」
カガーマは歩きながら残心刀を出し、距離を詰める
「・・・・っ!」
ドンッ!!!
キンッ!
風鐘は再び撃つも、カガーマは斬り飛ばす
「はぁ~・・・その程度のものしかないのか?」
「・・・」
もう・・・至近距離で撃っても・・・ダメ。
だったら・・・!
「もう・・・出し惜しみは・・・しない・・・!」
急激に魔力が高まったな・・・上空からか?
「クックックッ・・・アハハハッ!・・・見せてみろっ!!!」
「ふぅ~・・・・・起動・・・
ドガァァンッ!!
突然、目の前に強い衝撃が起こり、砂煙が上がる
「ハァ・・・ハァ・・・大丈夫、風鐘・・・」
カガーマと風鐘の間に立っていたのは狐嶺の姿だった
「何とか間に合った・・・あなたはすぐに別の場所へ――」
ドゴッ!!!
狐嶺は腹部にカガーマの裏拳を喰らい、吹き飛ばされる
「面白いものを見れると思ったが、邪魔が入ったな」
倒れている狐嶺の姿を見て、風鐘はフラッシュバックを起こしパニックに陥る
「フゥウ・・・ハァッ・・・ハッ・・・」
だめ・・・また、同じ――
次の瞬間、風鐘は空間転移で天使たちの拠点に移動していた
「・・・逃げたか」
カガーマはいつの間にか、倒れて込んでいるベルの近くにいた
「・・・っ!?」
いつの間に・・・まだ回復仕切っていないのに・・・
「はぁ・・・拍子抜けだな、これがあの時の戦場であれば貴様ら・・・もう終わっているぞ?」
ベルは何とか立ち上がり、剣を構える
「ハァ・・・ハァ・・・舐めないで・・・ください・・・私達だって!!」
すると、カガーマの後ろから足音が聞こえ振り返ると、肩を抑えながら歩いて来たのは、狐嶺だった
「・・・私達にはやらなければならないことがあるの・・・あなたの力が必要なの」
狐嶺は壁に手を付きながら、カガーマに近付く
「・・・はぁ?」
カガーマは狐嶺の言葉が理解できなかった
「俺の『力』?」
「・・・そうよっ・・・あなたの力が必要なの」
狐嶺がそう言うと、ベルもカガーマの説得する
「今・・・この世界も、天界も魔界も、どの世界も「災害」の被害が絶えない・・・そして「神災」が・・・近いうちに・・・あなたはその「神災」に対抗できる唯一の存在なんですよ・・・だから!」
するとカガーマは残心刀を消し、頭を抑えて笑い始めた
「クックックッ・・・アハハハハッ!・・・世界が?被害が絶えない?「神災」が起こる?・・・一体俺と何の関係がある?・・・・どいつもこいつも力を求め、そして身に余るほどの力を得て、自滅して逝った、貴様らは同じようなことをしないとどう証明する?」
ベルは言葉が詰まり、言い返すことができなかった
狐嶺はそれでも説得を続ける
「・・・もう私達には時間も人も力も足りない・・・だからこそあなたに頼みたいの・・・」
カガーマは歩き笑いながら話した
「フハハハッ!!自分勝手だな、やはり昔と変わらん」
「・・・」
カガーマは瓦礫の山に登りそこで話を続けた
「俺は協力しない・・・・・・だが俺ではなくこいつ自身に頼めばいい、今いる俺はただの亡霊に過ぎない・・・さて、談笑の時間は終わりだ」
カガーマはベルや狐嶺を見下ろしながら魔力を高め始める
「俺も俺で今やることがある、貴様らに構っている時間はあまり無い」
「でも――」
狐嶺がカガーマを静止しようと話しかけた瞬間、突如地面から攻撃を受ける
「――がはっ!?」
「はぁ・・・何度も言わせるな」
カガーマはその場を離れるように歩き続ける
「くっ・・・ここで諦めるに訳にはいかないんですよっ!!」
ベルは力を振り絞ってカガーマに攻撃を入れる
― レスト流剣術 ジスト・レグ ―
目に止まらぬ速さでカガーマに10連撃を放つも、結界のようなもので弾かれる
「――なっ!?」
止められた!!
いや・・・弾かれた??
魔法の類?
カガーマは歩きを止め、ベルたちの方に振り返る
「・・・まだ、貴様らは俺を止められると思っているのか?
・・・どうやら一度痛い目を見ないと分からんようだな・・・いいだろう、ちょっとした礼だ、俺の「力」を少し見せてやる――――」
その時、数多くの天使兵と戦いを面白半分で見ていた人々は、現場を目撃しており
後に全員が口を揃えて証言した。
――『何かが起きた』
決して「見えなかった」訳では無い、気づけば終わっていた。
唯一その映像を記録していたガブリエルはそのことを説明していた。
『カガーマは、自分の力を見せると言い放ったとき、左腕が微かに動いていたっス、でも次の瞬間、狐嶺様とベル様は倒れ込んでいたんスよ・・・何度も映像を確認したっス・・・正直言うと、「何が起きたか分からない」って言うのが結果っスね・・・でも「アレ」がカガーマの力、『最強』と言われるのも分かるっスね・・・』
カガーマの攻撃を受け、意識を失ってしまった狐嶺とベル、その場所は先程まで激しい戦闘で轟音を鳴らしていたとは思えないほど静かだった
「かろうじて生きてるのか、それとも俺の力が弱まったのか、あるいは・・・」
カガーマは狐嶺とベルを見た後、そのまま東へ歩いていった
「さて、少し猶予があるな・・・できればあの場所に行きたいが――っ!」
カガーマは何かに気付き、歩みを止める
「フッ、どうやら時間切れらしいな・・・精々「自分の弱さ」を噛み締めるん・・だ・・・な」
カガーマもとい神代は眠るように倒れ込み意識を失った
第11話に続く――――
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