第2話事情聴取

「さて、お互いに自己紹介から始めましょうか? わらわは、滝野夜霧たきのよぎりでございます。夜霧と呼んでくださってかまいませぬ」



「これは、ご丁寧にいたみいる。拙者は、簗田千歳やなだちとせ。千歳と呼んでくれ」


「拙者……何故に男言葉?」


「えーと……男社会で舐められないように?」


「そして、何故に疑問系……。まぁ良いです。で、千歳の失せ物とは? 貴女にとって、そんなにも大切な物なのですか??」


くしなんだ」


「櫛?」


「母の形見で……ね」


「そんなに大切な物を無くされたのですね。さぞ、心を痛めておいででしょう」

 自分のことのように共感する夜霧。


「うん。ここに住んでいた時に城を駆け回っているうちに無くしてしまってね。城内のどこかに落ちてると思うんだけど」


「城を駆け回って……」


「忍びの総領の娘たるもの、城を駆け回って修行しないとじゃない?」


「いや、わらわもやりますけど……」


「夜霧もやるんかい!」


「〝姫様ともあろうものが下忍の真似事など…〟と眉をひそめられますけどね」


「そうだよねぇ。でも、城を追放された今となっては〝働かざる者、食うべからず〟って言うんだ。 現金なもんだよ。下のやつらはさ!

 まぁ、拙者たちが追放された時に一緒についてきてくれた義理がたい奴らなんだけど」

 千歳が食い気味に共感した。


「へぇ……。下克上の世の中では、女も生きるすべを習得しておくもんですねぇ」


「本当に、それ!」


 ちなみに鷹山の一族を城主の座から追い落とした中心人物は家老格だった滝野の当主。つまりは、夜霧の父である。


「千歳は、わらわの父を恨んでおらぬのですか? 詳しいことは存じませんが……もしや、相当あくどいことをして貴女の父上を追放したのでは?」


「うーん……今の境遇はちょっと辛いけどさぁ。恨むとかは、ないかな? 拙者も詳しいことはわからないけど、追い落とされた父に落ち度がなかったとも思えないしさぁ。命があるだけもうけもの? そして、前以上にどーんと成り上がるのが戦国のならい? 男ならさ」


「貴女は、女ですけど……潔いというか格好いいというか」


「そうかな?」


 闇夜の中で胸を張る千歳。褒められて、とても嬉しそう。


「この城から追放した父の罪滅ぼしも兼ねてわらわが貴女の櫛を探しましょう。千歳と同じように城を駆け回って。どのように駆け回っていたか教えていただけます?」


「よしきた」


♠️

 そんな感じで、夜更けまで話込む2人。


「任務の報告はどこでやりましょう? 毎度、千歳がこの城に潜入するのは危険過ぎると思うのですが」


「一応、政敵の娘だからねぇ。捕まったらただでは済まないかも? うーん……」


「じゃあ、この城の裏山にある御神木で会いませんか? 次の満月が裏山の一番高いところで輝く時間に」


「裏山って、城外じゃない?」


「忍びの総領の娘たるもの、城から自在に抜け出せなくてどうしますか?」


「夜霧もやるねぇ」


「政敵の娘の部屋に堂々と忍び込んでくる千歳ほどでは」



「「くくく」」


「御神木の下で月見と洒落込みませんか? 草餅とお酒もくすねて持っていきます。御神木の下でくらい政敵の娘同士であることも姫であることも忘れて対等に気兼ねなく楽しみたいものです」


「深窓の姫君かと思っていたら、拙者ら気が合いそうだし。草餅と酒をくすねて来るのもいいね。楽しみにしてる!」

 千歳は、右手で夜霧の肩をがっしりと抱きしめる。夜霧も千歳を抱き返す。忍びの姫同士の友情が確立した瞬間である。


 こうして、2人は次の満月の夜に裏山の御神木の下で密かにあいびきする約束をしたのだった。

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