定番の薬草収集
ひときわ大きな鐘の音が、ごーん、ごーん、ごーんと三回鳴った。そういえば、この街の鐘には意味があるとか、受付嬢が言っていたような気がする。
「んぅ……?」
俺はもう既に起きていたのだが、アストラ様はさっきの鐘で起きたのか、寝ぼけ眼をこすり、少しだけはだけた服装をのそのそと整えていた。
……衣服の隙間からきれいな肌が覗く。この世のものとは思えない綺麗さに、思わず目線が向かってしまいそうになるが、理性でそれを抑え込んだ。
「おはよう。アストラ様」
「おはよ、りょうくん……」
ふわ、と欠伸をして、ベッドから降り、一つ伸びをして見せる。そうすると、だいぶ目が開いてきている様に思えた。
……いちいち、することがこんなにかわいいのはなんでなんだろうか。
「よし、これで目が覚めました。昨日受付さんがギルドが開いた時には三回鐘が鳴ると言っていましたね。行きますか?」
「そうだな。早く行ったほうが、依頼に掛けられる時間も増えるし、いい依頼も残ってるかもしれないし」
「じゃあ私は引っ込みますね。忙しくなければ話せると思いますので、疑問があればいつでも言ってくださいね」
そう言うとアストラ様はすっと戻っていってしまった。
窓を開けて、外の空気を吸う。まだ早朝であることもあるし、自然豊かな町であることもあるだろう、清々しいきれいな空気が肺を満たした。
「さて、出るか……」
資金もないし、服もない。昨日と全く同じ服で寝ていたし、荷物もない。俺はそのままドアを開けた。
●●●
すぐ近くに位置するギルドは、まだ空いたばかりだと言うのに、そこそこの賑やかさがあった。やはり俺と同じように、朝のほうがいい依頼が残っているらしく、それを狙いに来ている様だ。
「おお、昨日も来てた新人か」
後ろの方から掲示板を眺めていると、身軽そうな軽装に身を包み、腰に短剣を差したいかにも冒険者という風貌をした、中年のおじさんが話しかけてきた。
「ど、どうも?」
「あはは、そんなに緊張するな。初めての依頼だろうと思って、初心者向けの依頼でも教えてやろうと思ってな」
「……弱い魔物の退治とかですか? 一応そういったのを探していたのですが……」
「いやいや。おまえはまだ装備が整っていないだろう。そのままじゃ、その辺りのうさぎすら捕まえられないさ」
「じゃあ一体何を?」
「薬草集めか、町の警備だ。薬草集めは安全だし、町の警備は貸出の武器があるからな。俺が新人のときは薬草集めをしていたな。このあたりの地形も覚えられるし。ただ、給料は警備の方が高い」
これはいいことを聞いた。そのままなら実力に見合わない依頼を受けて失敗していたかもしれない。
ちなみに、初心者向けの寮は、家賃が格安だ。どちらの依頼でも払える上、余るだろう。そう考えると、どちらの依頼でも問題ないように思える。
しかし、昨日は何も食べなかったというのもあるので、今日は流石に食事も取らなければいけない。そうすると薬草の方はあまり金が残らないかもしれない。
「なるほど……どちらがおすすめです?」
「まあ、この先のことを考えると薬草集めがいいだろう。お前らはこれから本格的に冒険者になるのか? それとも、とりあえず冒険者になって、そのうちまともな職につくのか?」
「これからも冒険者としてやっていきます」
「それなら決まりだな。これからもっと都会に移動するにしても、はじめはこの場所でやっていくことになるだろう。だったら地の利というのを集めておけ。武器はいつか手に入るから、焦る必要もないだろう。それに、長く冒険者をやっていくなら探索の経験を積んでおくことは大切だからな」
「これあたりが良いと思うぞ」と、近くにあった依頼書を剥がし、手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「ああ、いいんだよ。俺にも新人のときは助けてくれた先輩がいたもんだからよ。あれがなければ俺はここまで続けられてないかもしれない」
おじさんは自分でも噛みしめるように言うと、「それじゃあ、頑張れよ」と手を振って去っていった。いい人だったな。
――ふむふむ。たしかに、結構良さそうな内容ですね
(アストラ様……そうですね)
やはり先輩が選んだものということもあり、町から近場かつ、いい感じの報酬が書かれている。これなら俺でも大丈夫だろう。
受付嬢にその紙を見せると、受諾したことになる。昨日と同じ受付嬢に、「深入りしないこと」「危ないと思ったらすぐに戻ること」「横取りはしないこと」の三つのマナーに付いての説明を軽く受け、薬草の見本の紙をもらい、ギルドを出発した。
ギルドがある大通り沿いを歩く事数十分。街の外へつながる門の側に立つ門番に冒険者カードを見せる。
「ああ、初心者か。気をつけて行ってこいよ? あと、最近はこのあたりじゃ出ないような強い魔物もたまに出るらしい。おそらく薬草採集をするようなところでは出ないと思うが、気をつけてくれ」
……あ。思わずアストラ様が言っていたことを思い出す。魔王の影響で、強い魔物が出てきているとかだったような。
これ、多分今あったらまずいタイプの魔物だ。俺はまだ武器の一つも持っていないのだから。
「ちなみに、どんな魔物なんですか?」
「ああ……オーガだよ。それもそこそこの大きさのな」
「オーガ、ですか。わかりました。それに出会ったらすぐに逃げてきます」
「ああ。死んだら元も子もないんだ。本当に気をつけるんだぞ」
流石に、大きなオーガに喧嘩を売る度胸はない。無いとは思うが、もし会ってしまったときは、すぐに逃げよう。じゃないと死んだら元も子もないというのが現実になってしまう。
――本当に、気をつけましょうね。流石に今の状態では負ける可能性も無きにしもあらず、というくらいはあるので
(無きにしもあらず? 確実に死ぬと思いますよ)
門番にお礼を言って、手を振りながら外へ出る。案外、地理で習った海外の草原と景色は変わらない。ただ一面に草が広がっていて、遥か無効には山々も見える。そして城壁沿いに進んでいけば、浅い森がある。あそこが今回の目的地だ。
(案外普通なんだな)
――逆に普通じゃないほうが困ります……私は色々力がありますが、リョウ君は武器もないじゃないですか。危ない目には会ってほしくないですよ
長い草原を、道に沿って歩く。風が気持ち良いのはどの世界も共通なんだなと思いつつ、ひたすら長い道を歩いている。
(アストラ様。もうなんか、日本で過ごしていたときの一週間分くらい歩いた気がします)
――それくらいあるかもしれませんね。この世界、馬車はありますし、魔法での移動手段もありますけど、自転車や車、ましてや電車なんてありませんからね
(ちなみにアストラ様は体力とかどうなんですか?)
――これでも私は女神ですから、体力的なものもかなり多い方です。もちろん疲れることもありますけど、これくらいの距離では……という感じですね
言い方的に、俺よりは少なくとも動けるんだろうなあ……こうなると、少しはトレーニングとかしたほうがいいか? 流石に見た目年下な女神様に体力で負けるのは少し悔しい。それに、外聞的にも少しよろしくない気がする。
――ああ、でもトレーニングとかはしないほうがいいと思いますよ
(体力はあったほうがいいんじゃないんですか?)
――過ごしていればわかりますよ。私と同じ感じで、自然と体力が着いていくはずです
どういうことだろうか。あ、異世界で生活していくうえで、生活するだけで体力がそれに合わせて上がっていくという話だろうか。
(まあ、それならアストラ様の言う通りに待ってみますかね)
と、雑談をしていると、初心者や町の住人も入りやすいように少し整備された森の入口に着いた。
女神様と征く!異世界救世譚〜願った特典は、女神様の眷属になることでした〜 すずまち @suzumachi__
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