初ギルド!
気がつくと、路地に立っていた。暗く、少しだけジメッとしているが、だからといって衛生状態が特別悪そうな印象は抱かない。
左右の建物を見ている。木の柱に石や土の壁。これこそファンタジーと言った様子のデザインの建物がいくつも建っていた。
「ふう……」
とりあえず大きく深呼吸をする。今の俺の姿は着心地が悪いシャツのようなものと、重い皮のズボンだけだ。どうやら生前のものはこちらに来る前に没収されてしまっているらしい。
――とりあえず、成功しているみたいですね。どうですか? 体調は問題ありませんか?
突如として頭の中に響いたのは、女神様の声。
「女神様? どうして……?」
――ふふ……あなたは眷属なんですから、私の声が聞けるのは当たり前でしょう? それより、せっかく眷族になったんですから、女神様なんてよそよそしい呼び方はよしてください!
「アストラ……様?」
――むう……様付けですか……まあ今はそれでいいですよっー! リョウくん!
アストラ様は不満そうに……それでいてすこし楽しそうに言う。なんともかわいらしい女神様だ。こう言うと失礼かもしれないが、中学の時の懐いてきていた後輩を思い出す。
「それで、今降り立っているわけですが、最初は何をすればいいんですかね」
気を取り直して、女神様に聞いてみる。王道なら、ギルドとかに行ってみるのがいいんだろうが……
「ギルドに関してなら、冒険者、商人、農民が分けられているはずです。もちろん絶対に所属しなければならない訳では無いと思いますが、互助組織的な一面でだけなく、身分証明や、依頼を受けることによる収入にも繋がりそうなので……」
「入っておいたほうがいい、ですよね……ちなみに、女神様はどうするのがいいと思いますか? 冒険者だか、商人だか、農民だか。どれもしたことがないからどうすればいいか分からないんですけど」
俺は現代日本からやってきた上、まだ高校生だった。冒険者はもちろん、商売も農民も体験したことはない。いや、なんか農民は大変らしいとは聞いているけれども。もちろん商人だって同じことだろう。簡単に稼げるものなんて、そう多くないこと位は知っている。
――ううん、そうですね……とりあえず冒険者がいいとは思います。なるにあたっての条件も特にないですし、カードを発行してもらえば、身分証明になります。その、このままだと多分このままだと衛兵さんに捕まったりするかもしれないので
「なるほど……今の俺は身分証明書を持っていない怪しい子どもってことですか。じゃあ、そのギルドとやらに行ってみます」
とりあえず路地を抜け、大通りに出る。大通りとは言うが、土を踏み固めて作られた道が少しだけ広めに続いているだけだ。それが思った以上に歩きやすいのが驚くところなのだが。
――ギルドは、たしか一番大きな建物なのですぐわかるはずです。そのまま進んでいきましょう
「……思ったよりずっと歩きやすいですね」
――まあそうでしょうね。舗装されていないとはいえ、色々な人が通るでしょうし、踏み慣らされて固くなっています。それに、あっちを見てください。馬車もいますし、でこぼこだと危ないでしょう? ですから余計にでしょうね
そんなもんか。ファンタジーな世界を見て、まともな道もないものだと覚悟していたから、少し拍子抜けだ。
道の周りには、木骨造の家が沢山建っている。こういうテーマパークに来たみたいだ。ただ、その扉から出てくる人々も皆、中世らしい服を着ているのだから、この世界が本当に存在しているのだという証拠でもある。
ああ、間違いなく俺はこの世界に転生したんだな。
よく見れば、大通り沿いだからか、店らしきものも多い。宿屋、肉屋、野菜屋、材木屋。それに、雑貨屋。それだけではない。日本では見ることがなかった、店先に武器が置かれている店や、防具を道で売っている商人なんかもいる。
通行する人々も、良く見れば普通の町人らしい格好をしている人たち以外に、物々しい武器を持った人や、見たこと無い程の大男、頑強そうな鎧に体を覆った人がチラホラ出てきた。なるほど。これがファンタジー世界というやつか。
俺も、一時期はこういうのに憧れた。どうせなれないと諦めていたが、今はその憧れに手が届きそうになっている。これから俺はこの世界で、ゲームの中のキャラクターのように、壮大な冒険をしていくのだろうか。そう思うと、少し気が高ぶってくる。
――あれがギルドじゃないですか? たしかに大きいですね……
ギルドはかなり大きく、少し離れたここからも見える。近づきながら見てみると、なにかがあった時用の避難場所にもなっているのか、他の家々よりも頑丈そうな作りになっていた。
入り口はひっきりなしに厳つい見た目の人たちが出入りし、そうでなかったとしても、戦い慣れてそうな人たちが多くを占めていた。もちろん、普通の俺と体つきが変わらない冒険者も少しはいたのだが。
ゆっくりと重厚な扉を開けると、そこにはにぎやかなテーブル席と受付、大きな掲示板が目を引く、空間が広がっていた。天井からは暗い明かりが落ち、おしゃれな雰囲気を醸し出している。
取り合えずは受付だということで、カウンターに並ぶと、回転率が早いのか、想像より早めに順番が回ってきた。
「今日はいかがされましたか? 依頼の募集、受付、加入証明カードの発行まで、様々行っております」
「ギルドに加入したいんですけど、お願いできますか?」
「わかりました! 加入とカードの発行ですね? 十歳は超えていらっしゃるみたいですし、すぐにお作りします! ではこちらで記入をお願いします」
渡された書類には、年齢と名前だけ書く欄があった。これだけでいいのだろうか。
……この世界的には、名字というのはどう考えたほうがいいのか。
――一応、名字はあってもなくてもいいと思いますよ。ちょっとだけ、面倒なことがあるかもしれませんが……その名字はリョウ君にとって、あっちの世界の形見みたいなものでしょう?
確かに。でもまあ、せっかく異世界で一からやっていくわけだし、名字はここで捨てよう。
これは一つの覚悟みたいなものだ。さっきの店で武器を見た時、傷だらけで笑いながら歩く冒険者を見た時、実際は想像みたいに甘くない世界なんだって、なんとなくわかった。
リョウ、十六歳とだけ書いた紙を渡すと、受付さんは手早くそれを機械に入力し、カードを発行した。
「はい、こちらがカードです。様々な場所での冒険者ギルド会員の証明と、身分証明書にもなりますので、常に携帯するようにしてください」
「ありがとうございます。ちなみに、後ろのいろいろな情報ってどう見ればいいんです?」
「それではご説明させていただきます。今このカードはまだ、最下位ランクのブロンズランクです。これから、依頼の達成状況や討伐対象のランクによって、少しずつランクが上がっていきます。ランクを上げることができそうな時はこちらからお声掛けしますね! 依頼のご説明は……受けるときがいいですね。その時にまたご説明いたします。それではこれから、冒険者としてがんばってくださいね!」
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