女神様と征く!異世界救世譚〜願った特典は、女神様の眷属になることでした〜
すずまち
女神様の眷族に転生!
「リョウ君。起きてください」
どこからか声が聞こえる。俺の名前を呼ぶ声だ。
「早く起きてください! ねぼすけさん!」
ふわふわした、目眩に似たような感覚の中、ガシガシと体を揺らされている。なんとも乱暴なことだ。
……それにしても、なんでこんなに体がだるいんだ? 寝起きのような感覚だが、それでここまで重い眠気が襲ってくることなんて、あるのだろうか。
「ほーら! 起きてください! もう意識が戻ってるのはわかってるんですからね!」
少しだけ甘さを持つ、幼く感じる声が耳をくすぐる。……俺の知り合いにそんな声の人がいただろうか。思い返してみても全然思い当たらない。だとしたら、この声の持ち主はいったい誰なんだろう。
……俺に用事がある人だろうか? だとしたら、のんびり寝てる場合じゃなくないか?
ゆっくりと目を開ける。そこには、見たこともない程可憐な少女がこちらを覗き込んでいた。
「あ、やっと起きましたね」
淡い水色の髪に、瑠璃色の瞳。綺麗と言うより可愛らしいというのが大きく勝る顔立ち。そしてその美しい双眸が、こちらを心配そうにじっと見ていた。
「え……っと……?」
「意識はどうです? 気分が悪かったりしませんか?」
「ああ、さっきまですごく眠かったけど、今は……」
そう言うと、わかりやすく安心した表情を浮かべてホッと息をついた少女は、近くにあったふかふかなソファを指さした。
「座れそうならあちらに移動されてはどうでしょう? ここは床ですし、そのままだとつらいでしょう?」
「ああ、お気遣いありがとうございます。それじゃあ、失礼します」
明らかに見覚えのない空間。大きな机が一つ、ソファが向かい合うように二つ配置され、少しの小物が置いてある、あまりにシンプルな部屋。だが、それ以外には何もない。
ここは俺の部屋ではない。つまり、この少女のものなのだろう。最低限礼を失さぬように一言声をかけると、それに少女はくすっと笑った。
……もしかしたら緊張が見破られているのかもしれない。そうだとしたら恥ずかしい。女の子の部屋に入るなんて初めてなんだからしょうがないと思う。
「珍しいですね。突然こんなところに飛ばされて、普通はもっと慌てるものだと思いますが」
「もっと焦ったほうが良かったんでしょうか」
「そんなわけではありませんけどね。こちらの死者を案内する時は大慌てな方が結構いらっしゃったので」
「へえ、でもたしかに少しはびっくりしましたけど……」
「なんでなんでしょうね? ちなみに、残っている最後の記憶はどこなんですか?」
「んっと……普通にベッドで寝たところですかね」
「では、今のあなたが置かれている状況から話さなければなりませんね」
少女も向かいに置かれたソファに座って、真面目そうに話し始める。
「あまり引き伸ばしても、ということで結論から申し上げますが、あなたは亡くなりました」
「死んだ、ということですか?」
「そうです。朝起きたあなたは、学校に行く途中に脳出血で亡くなりました」
「はあ……心当たりはないですが」
「交通事故、ですね。朝の記憶がないようでしたので、一応お伝えしておくと、運転手の前方不注意で轢かれたあなたは頭を打ち、その時は意識もあったのですが、救急車で運ばれていくうちに意識を失ってそのまま……といった感じです」
気の毒そうに、俺の死因を告げてくる少女。"死んだ"と言われても、案外心は凪いでいるものだ。……もうちょっと焦っても良いものなんじゃ……と心配になってきた。
「大丈夫ですよ。今は少しだけ精神が落ち着く魔法を使っているので」
「魔法を?」
「はい。魔法です。あ、申し遅れました。私はアストラ。とある世界で女神をしています」
女神様は立ち上がって、美しいカーテシーを一つしてくれた。
「というわけで、私の管理する世界には魔法というものがあるのです。その一つをあなたに掛けた。そういうことですね」
「……魔法がある世界、ですか? 私の世界はそんなものなかったと思うんですが、なぜわざわざそんな世界の女神様が?」
「……そ、そのことなんですけど」
女神様は気まずそうな目をして、目をそらすが、やがて覚悟をしたかのように俺の手を取った。
「ぜひっ! 私の世界を救ってほしいのです!」
「救う?」
「えっと、私の世界には、人の他にたくさんの種族がいるのです。これまではその種族たちで小競り合いはありつつも平和に暮らしていたのですが……つい数年前に魔王が生まれてからは変わりました」
ぱっと、目の前に女神様が管理しているのであろう世界の景色が映る。くらい
「このように、魔王は魔族……それも魔王に絶対服従する魔族を作り出すことができる能力を持っています。それを使って世界をすべて征服するつもりなのです」
しかし、と間を置き、女神様は続ける。
「それ以外の種族も無策ではありません。軍を練成し、なんとか対応しようと頑張っていますが、このままでは……といった様相で……そこで!」
女神様は俺の手をぎゅっと強く握った。
「別の世界から来たあなたに、希望を託したいのです!」
「……はあ」
そんな事言われても……そんな気持ちだった。いや、異世界ってなんだ? ほんちうにそんな世界があるのか? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
でも、でもだ。もしこれが事実なんだとしたら、俺は憧れたこともある、魔法があるファンタジーな世界でもう一度人生を謳歌できるわけか。
「もちろん、行っていただくにあたり、なにかしらの特典はおつけします。どうですか? 私はあなたにあの世界を託したいん……」
「やります」
若干食い気味になってしまった。それはそうだろう。転生特典付きの異世界生活。それに心躍らないわけがない。
女神様はホッとしたように胸を撫でると、手元にあったタブレットのようなものを操作した。
「それでは、本当にいいのですね?」
「はい」
女神様は少し大げさにタブレットを押した。
「これで、あなたの転生は決まりました。それでは、次は特典ですね」
「特典って、どんなのがあるんですか?」
「基本、世界を大幅に変えてしまうようなものでもなければなんでも大丈夫ですよ。精霊と仲良くなる、魔法が完璧に扱えるようになる、剣術が完璧に扱えるようになるというのも問題ありません。……もっとも、精霊に関しては気にしなくてもいいと思いますけどね」
確かに、女神様からの提案は魅力的だ。でも、それではなんだか物足りないような気がする。
よく考えろ……俺が一番ほしい特典はなんだ?
……あ
「では、特典は……女神様の眷族になることで」
「はい。ではそのとおりに……ふぇ? もう一回お願いしてもいいですか?」
「女神様の、眷属にしてください」
「え? え? ほんとーにそれでいいんですか!?」
「もちろん」
「そんなことしても、私の加護が強くなるくらいしか効果ありませんよ!?」
「それでもいいんです」
断言すると、女神様は真っ赤にした顔のまま、ごほんと咳払いをして、その綺麗な双眸を私の目にしっかりと合わせた。
「わ、わかりました。その通りにしますね?」
女神様はゆっくり俺に近づいてくる。……それにしても、眷族になる手続きってどうするんだろうか。書類? それとも体に何かを刻むのだろうか。できれば痛くないほうがいいんだけど……
ちゅ
……え?
真っ赤な顔をした女神様は、ゆっくり俺の顔から離れていく。
「ふ、ふぁーすときす、なんですからね!」
呆然とする俺を、謎の光が包んでいく。その光が強くなればなるほど、意識が遠のいていく。とりあえず今のところ言えるのは、俺は女神様のファーストキスを奪ってしまったみたいです――
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