4-17:わいわい楽しい竜狩りの時間
■セイヤ・シンマ
■23歳 転生者
プラムを引き取った後、その日は侍女のみんながプラムを歓迎するようにわちゃわちゃしただけで終わった。
人の営みなど父から話しに聞く程度の知識しかない。
プラム自身は時折上空から
それを少しずつ埋めるように侍女たちは話し教えていた。
逆にプラムの事も少しは聞いた。【輝帝竜】というのがどういった存在なのか、どういう暮らしをしていたのか。
生活としては竜そのものといった感じで、これから人の姿で過ごすのは苦労しそうだな、という印象。
そして竜の中にカースト制度のようなものがあると初めて知った。
あの風竜や火竜が下位竜に分類されているという事実だけでも驚愕に値する。
もちろんそういった話は族長とも共有した。
同じ竜神の眷属でもあるし理解しておくに越したことはない。
【輝帝竜】――プラムという喋れる竜の存在は
族長はプラムに対し、竜が人を襲わないよう【輝帝竜】が抑えていてくれている事を感謝していた。知らないうちにずっと助けられていたと。
本当はプラムではなく親父さんに言いたかったそうだが……まぁあの状況じゃ無理だな。
機会があれば竜神の神子同士、言葉を交わしたいと、そう伝えていた。
ともかくそんな事があったので、本来なら丸一日かけて模擬戦や訓練、そして親睦を深める意味で食事会なども用意していたのだが全て流れた。
族長はもちろん、ディアクォさんやリークァンさんも、混乱した住民の対応をしなければいけない。
【輝帝竜】の事も伝えないわけにはいかないが、何をどこまで伝えていいのかは話し合いをしてからだろう。
プラムの事なんか絶対言えないしな。人に化けられる竜が居るとか余計に混乱するに決まってる。
俺もカオテッドに帰ったら本部長に相談するか悩みどころだな。ある程度は内緒にしておいた方がいい気もする。
ただ【輝帝竜】の存在は知らせておいた方がいいと思う。公表するかは任せるけど。
それもおそらく魔物討伐組合とか各国とか、情報を共有した方がいいだろうし、そこら辺は本部長に丸投げだ。
で、里の皆さんはそんな感じで忙しいし、俺たちの予定も狂った。
じゃあどうしようかと相談した結果……翌日、普通に竜狩りに行く事にした。
里の話し合いは族長とかにお任せ。何かあれば帰って来た時に相談にのりますよと。
そんなわけでプラムを引き取った翌日、俺たちはぞろぞろとマツィーア連峰を登り始める。
「プラム、本当に竜狩っちゃっていいのか?」
「む? 別に構わんぞ? 竜神様も許可したのじゃろ?」
「そうだけどさ、お前も【輝帝竜】なんだし同じ竜を狩ったり食ったりされるのは嫌がるかなーと」
「うーむ、それは人の価値観なのかもしれぬが妾は特に何も思わん。普段から歯向かう竜など父が殺して喰らっていたからのう」
恐ろしいな、竜の世界は。いや魔物の世界全般なのかもしれんが。
オークキングとかオークを殺して食ってるんだろうか。……何となく食ってそうなイメージもある。
ともかくプラムを連れて竜狩りに行くのも問題ないという事で、今は同行している。
ちなみに『
歩き慣れていないだろうから大丈夫かなー幼女だしなーと思っていたが全く問題なく歩けるし、走れる。
というか身体能力は非常に高い。さすが竜だと思わされた。
見た目は六~七歳のツェン(白金バージョン)という感じで、クランで一番小さいパティよりもさらに小さい。角を含めれば超えるけど。
本当に子供や妹が出来たみたいで侍女たちは皆何かと構っている。
実際『無知で無垢な子供』って感じだしな。
まぁ口調とか実年齢とかは子供とかけ離れているんだけど。
そんなわけで今はふわふわ飛んでいる事が多く、時には俺やツェンの肩に乗ろうとしてくるので大人しく肩車してあげる。
こうなると余計に子供っぽくなるな。さすがにエメリーが怒りそうだが今は親元を離れたばかりだから勘弁してもらおう。寂しいだろうし。
プラムが自分から行く相手はやはり俺かツェンになるらしい。
ツェンも姉御肌な所があるから面倒を見るのも苦じゃないようだ。本当に姉妹に見える。実年齢は言うまい。
「と言うか、妾が一緒に行った方が竜狩りはしやすいと思うぞ」
「道案内の意味で?」
「いや、【輝帝竜】を殺そうとする馬鹿竜どもが勝手に来るじゃろうからな」
プラムが言うにはこうだ。
マツィーア連峰の竜は【輝帝竜】の絶対王政。しかし反政府的な思想を持つ竜、つまりはチンピラ竜が結構いるらしい。
【輝帝竜】によって人里を襲ったり、山脈から出る事を妨げられていると。だから殺して自由になろうと。
【輝帝竜】は竜神の神子であり、神の意思によって制限をかけているのだ。全ての竜の主神が竜神であるのに、【輝帝竜】を殺す事は神の否定も同じ。
それを分かっていないのか、馬鹿なチンピラ竜は【輝帝竜】に喧嘩を売ってくるらしい。当然プラムの親父さんに返り討ちだろうけど。
とにかく俺たちが竜の住処にある程度近づけば、向こうも「【輝帝竜】が居る」と分かるらしい。竜同士で察知できると。
それでも大人しくしているのは良い竜。これはやたらに狩るわけにはいかない。
逆に意気揚々と襲って来るような竜は率先して狩るべき。親父さんの統治も考えればその方が良いだろう。
なんとなく普段やってる山賊狩りと同じような気がしてきた。治安維持という名の宝集めって感じだな。
「ほれ、そうこう言ってるうちに来たぞ」
隣のプラムが前方の空を指差す。全然見えないんだけど。
「ネネ!」
「ん~~~~……ん! 居た! 五体?」
「うむ、ワイバーンの群れじゃな。やつらは馬鹿な上につるんでおるからのう」
淡々とプラムは言うがこれはすごいな。
ネネの察知範囲の広さはおそらく世界最大クラスのはず。それを竜限定とは言え上回るとは。
【輝帝竜】ってだけじゃないんだろうな。向こうも気付いたから来たんだろうし。
つまり亜竜であっても広範囲察知してくると。
竜狩りをしたい俺たちからすれば、確かにこれは有り難いかもしれん。
ちなみに襲って来たワイバーンは侍女たちが瞬殺した。
【天庸】のワイバーンみたいにヴェリオが強化しているわけでもなく、ペルメリーが操作しているわけでもない。
<カスタム>前のツェンでも倒せた、いわゆる普通のワイバーンだしな。
「いや、普通のワイバーンでも結構強いはずなんだけどなぁ……」
前方で斥候として警戒しているキャメロがそう呟く。
地上戦に持ち込めば今のお前でも多分タイマンで勝てるぞ。
■ツェン・スィ
■305歳 セイヤの奴隷
マツィーア連峰を登りつつの竜狩り。
あたしも戦いたい気持ちはあるが、ちょっと後回しになりそうだな。
里の近くであればあたしも山に入った事はあるし、少しは道案内が出来る。まぁどれほど登る事になるのかは分からないけど。
それ以上にプラムの相手をするのが多いんだよな。
なんか飛んで来てはあたしの肩に座ってくるし。
あたしには妹なんか居ないし――そもそも兄弟のいる
まぁ相手は里を守ってくれてる竜で、二千歳超えてるんだけどさ。マルより年上なのにすごく子供っぽい。
竜も種によって寿命とか違うんだろうけど、やっぱ【輝帝竜】ってのは長いんだろうな。おそらく
シャムが確か五千歳くらいだけど、プラムが五千歳になったとしてシャムほど成長してるとも思えねえし。
「ツェンよ。ご主人様がさっきからやってる<洗浄>というのは何じゃ?」
「生活魔法ってんだけど竜にはねえのか? あれで服とか綺麗にするんだよ。ご主人様は綺麗好きだから山道で土が靴に付くのが嫌なんだと」
「ほー、妾は使えんのかのう、その生活魔法というのは」
どうだろうな。<生活魔法>自体はスキルで、<洗浄>が魔法の扱いだろ?
そもそも竜が人のスキルを使えるのかが分からねえけど、察知とか人に化けたりとか魔法めいた事は出来るみたいだし。
多分、ご主人様が<カスタムウィンドウ>で確認するのが一番早い。あれは実際に使えなくても潜在的に使えそうなのも分かるって言うしな。
本人に分からなくてご主人様だけ分かるってのが、何とも『ご主人様用の神技』って感じがする。
プラムが奴隷になれば<カスタム>が出来るはずだ。……いや竜相手に使えれば、の話だが。
そんで奴隷にするにはカオテッドに戻ってからになるだろう。
途中の街の奴隷商館ではしないだろうな。なんせ今回は竜の奴隷化だから。まともに契約出来るのかも分からねえ。
そうなると多少なりとも事情を知ってて付き合いのあるティサリーンに頼んだほうがいい。
と言うか、実は今でも<カスタム>が出来るって可能性もある。ご主人様はまだ何も言ってないが。
奴隷契約を結ばなくても<カスタム>出来る場合があるらしい。
実際、エメリー、イブキ、サリュとか初期メンバーは契約前に<カスタム>出来たらしいし、リンネとかもそうらしいな。
何が原因なのかはご主人様も把握出来ていないようだ。
<カスタム>出来るって事は『ご主人様の持ち物』と判断されているんだろうけど、その判断基準が曖昧だと。
まぁ仮に今、プラムの<カスタム>が出来る状態だとしてもグレンとかがずっと居るこの状況だと無理だろうな。
やっぱり屋敷に帰って落ち着いてから、って感じになりそうな気がする。
プラムの場合、強化よりも先に『人としての生活』とか『人の姿での戦闘』を学ぶ感じになると思うし。
後回しになった所で【輝帝竜】の時間感覚からすれば一瞬なんだろうけどな。分からねえけど。
「おっ、馬鹿土竜がおったのう。右前方から来るぞ」
おおー、本当に竜が寄って来るんだな。こりゃ楽だ。
とりあえずご主人様に伝えて、と。
しかし土竜か……新種の属性竜ってのは狙い通りで有り難いんだけど。
最初はグレンが単騎でヤるって言ってたしな……。
あたしの番はいつ回ってくるのかねえ。
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