189:新人二名の初探索
■ラピス・アクアマリン
■145歳 セイヤの奴隷 アクアマロウ海王国 第一王女
「おーい、さっさと行こうぜー」
「ツェン、お前は今日は斥候役なんだぞ? 先行してどうする」
「わぁーってるって」
「ただでさえラピスとユアの迷宮初探索なんだからな。ゆっくり行くぞ」
「はーい」
侍女教育と訓練場での練習を終え、侍女服も揃ったところでやっと迷宮に入れる。
やっぱ屋敷に籠っているより私はこっちの方が良いわね。
「だだだ大丈夫でしょうか、わた、私なんかが迷宮で魔物と戦うだなんて……」
「大丈夫です。ユアさんは付いてくるだけで終わっちゃうと思うです」
「最初からマラソンとかしなければいいでござるが……」
でもユアはダメそう。訓練場だと魔法も慣れてきたみたいだけどね。
杖を握りしめてオドオドしている表情は良し。
そんなユアに付いて慰めているポルとマルも可愛くて良し。
メンバーはイブキ、ツェン、ポル、マル、ユア、私。
決めたのはご主人様なんだけど、私たちが初探索だから戦闘リーダーのイブキに指揮と指南を、ツェンは今後を見据えてアタッカーだけでなく<気配感知><聴覚強化>による斥候役としてもやれるよう指示がされた。
マルはユアが潜る際にはなるべく一緒に潜るよう指示が出た。これは安全性だけでなく、【体力】不足が懸念される為、なるべくこまめに回復するようにとの事だ。怪我とかしていなくても。
まぁ体力は回復しても精神的な疲労はとれないし、ユアはそっちの方が心配だけどね。
ポルは逆に私となるべく一緒に入るように、との事だ。
どういう事かと思ったら、魔法にせよ近接攻撃にせよ、ポルを参考にしてくれと。
ポルが私の先生だなんて、あらぁ~可愛いわねぇ、頭ボフボフしたくなるわ。
背中の
「―――と、迷宮はこんな感じになってるわけだ。硬くなる必要はないが、油断はしないようにな」
「はい」「は、はいっ!」
「お、前方右からゴブリン二体来るぞー。倒していいか?」
「引き付けてから倒してくれ。―――と、こうして斥候役が魔物の襲来を教えてくれる。それに対してどう戦っていくかはその都度変わるが、いつでも戦える心構えだけはしておいてくれ。今回は最初だからツェンに倒させる」
便利ねえ<気配感知>。私は<水中感知>しかないから地上の魔物はよく分からないわ。
ツェンの言った通りにゴブリン二体が通路から顔を出し、こちらに気付くと棍棒を振り上げ襲い掛かってきた。
ぐぎゃぐぎゃと奇声を上げながら迫る様子に隣のユアの悲鳴が響く。「ひぃぃぃぃっ!」と。
しかしあっという間にゴブリンは殴られ、吹き飛ばされた。
いくらゴブリン相手とは言え、ツェンはろくに構えもせず、速すぎる攻撃で倒した。歯牙にもかけないとはこの事だ。
やはりこのクランは誰もがおかしい。可愛い子も多いけど。
それから迷宮に関する知識を教えてもらいつつ徐々に進む。
もちろんユアを慣れさせながらだ。
魔物が出るたびに悲鳴を上げて縮こまるので、本当に大丈夫だろうかと心配になる。
「ユア、行けそうか?」
「ははははいぃ……すみませんすみません……」
「こりゃダメそうだぞ、イブキ」
「そうだな。無理はさせたくないが、付いてくるだけでも大変となるとレベルアップさえも見込めん。どうしたものか」
「やっぱショック療法と成功体験じゃないか? やれば出来るんだからやらせるしかねえだろ」
「なんかジイナの時を思い出すな。そこまでする気はないが、とりあえず一体相手から始めよう」
どうやら結論が出たらしい。
しばらく進み、ゴブリン一体が出てきた時。
「ユア! <
「ええっ!?」
「落ち着いて杖を向けるです。まだ距離はあるから大丈夫です」
「は、はいっ!」
わざとゴブリンとユアの間に道を開けた。なるほど、無理にでも攻撃させるのか。
可愛いポルが冷静に指示してるから、ユアもそこまでパニックにはなっていない。
「フ、<
「外したです。もう一回です。よく狙って、ゴブリンがもうすぐ来るですよ」
「は、はいぃっ! <
それはゴブリンへと命中し、焼かれたゴブリンは倒れて絶命した。死体が光となって消えていく。
「た、倒せたぁ……私が……」
「よーし、よくやった! 一回外したものの二回目は見事だったぞ!」
「なんだよ、普通に使えるじゃねーか。発動もまぁまぁ早いし、ちゃんと狙えるし」
「ユアさん、良かったでござる!」
「あ、ありがとうございます!」
なるほどショック療法と成功体験か。
戦闘自体が初めてのユアは魔物そのものが怖いから委縮してしまう。
一度無理にでも戦って、魔物は倒せると理解させれば必要以上に怖がらないと。
まあそれでも元々の怖がりはどうしようもないんでしょうけどね。
もう少し慣れれば少なくとも付いてくるだけは問題なくなりそうかしら。
ユアはそんな風に徐々に慣れていく感じ。
一方で私は戦術指南と言うか、ポルに色々とアドバイスを受けながら魔法を試している。
というか迷宮って初めて入ったけど、こんなに魔物が出るものなのね。
これはこれで楽しいけど、パーティー戦闘はやはり難しい。
「三体来たです。こうなると前衛組は基本的に端の魔物を倒すようにしてるです。真ん中は後衛に任せているです」
「じゃあ私は真ん中を狙えばいいの?」
「ツェンさんとイブキさんが動き出してから撃ったほうが良いです。条件が変わって前衛の狙いが端の魔物じゃなくなる事もあるです。先に撃っちゃうと狙いがかぶって味方に当てちゃうかもしれないです」
深いわね……パーティー戦闘……。頭使うわー。
「ツェンさんはラピスさんの魔法より速く動くので、かぶるのに注意しないと本当に当てちゃうです。まぁ当たってもツェンさんなら大丈夫でしょうが」
「えっ、魔法より速いの?」
「ツェンさんはまだマシです。ご主人様とネネちゃんとティナちゃんは本当に速いです。撃った時には戦闘が終わってる時もしょっちゅうです」
そんななの……? いや模擬戦見てて速いのは知ってるけど、魔法より速く動くとか……。
じゃあその動きを予測して狙いを決めるって事かしら。これは大変ねぇ。
「ラピスさんは背が高いからまだ狙いやすいと思いますけど、私とかサリュちゃんとか大変です。前衛組は背の高い人が多いですし、前方の魔物を狙うどころか見るだけでも大変です。シャムさんとか時々翼がバサッってなるから全く見えなくなるです」
「ううぅ、お姉様が申し訳ないでござる……」
後衛もただ魔法を撃っていればいいってわけじゃないのね……。
パーティー戦闘って厄介だわぁ。
ちなみにお手本としてポルの戦いぶりも見せてもらった。
先生として意気込むポルはとても可愛い。しかし構える
「<
「!?」
それは私の得意な水魔法なのに、私より発動が速く、速度があり、威力もあった。
狙いも的確。顔面のど真ん中に当て、首から上を消し去っている。
ただ魔法を一発見ただけで、私との差を感じる。しかしこれだけでは終わらない。
「行くです! そぉい! <逃げ足>! <
ダッシュで近づき、
そこから距離を離すまでは異常に速く、続けざまに撃つ広範囲魔法がこれまたスムーズで速い。
五体いたゴブリンの群れが一瞬で消えた。
魔法も近接も、その繋ぎ、連携、動きも、どれをとっても私より上。
「ふぁ~~~、ポルちゃんすごい! そんなに戦えるなんて!」
「えへへ~」
ユアは単純に可愛いポルが単独で戦った事を称賛していたが、私はそれどころではなかった。
なるほど、確かにポルは私の先生役だ。
私も一人旅で数々の魔物を倒してきた自負があったけど、このクランでは下も下だった。
改めてとんでもない場所に身を置く事になったと感じてしまう。
これが【勇者】の仲間たち。これが【黒屋敷】というSランククラン。
ははっ! 上等じゃない! 面白くなってきたわ!
ここで戦っていれば私も同じように強くなれるって事でしょう!
やってやるわよ!
その後、魔物部屋という所にも連れて行かれた。
「ななな何よ、ここは!?」
「ひぃぃぃっ!!!」
最初はこんな感じでただ見ているだけだった。
四人が楽しそうに蹂躙するのを固まったまま見ていた。
「マ、マルは大丈夫なの? こんなの……」
「私も最初は何もできなかったでござる。本当に怖くてもう迷宮に入りたくないって思ってたでござる」
「マルちゃん……」
「でもさすがに慣れると言うか、私でも全然倒せるって分かったって言うか、自信がついたでござる。ご主人様のおかげでござるけど」
「ラピスさんもユアさんも、今夜ご主人様から<カスタム>されると思うです。多分レベル上がってるですし。そしたらまた訓練場で魔法を撃ってみるといいです。強くなるのが分かるですから」
「そ、そうでしょうか……」
「たった一日で? 実感できるほどの成長が出来るものなの?」
「ラピスさんは最初からレベルがある程度高かったらしいですから、あとは<カスタム>次第ですけど、ユアさんはすぐに分かるはずです。具体的には威力と魔力量が」
まぁスキルを<カスタム>された時点で異常だったけどねぇ。
一日戦っただけ、しかもほとんど後ろで見ていただけで強くなると言われても……懐疑的な目になっちゃうわよ。
とまぁそんな感じで結局は三か所も魔物部屋を回るはめになった。初日だと言うのに。
私も途中から攻撃に加わったけど、どうしても恐怖が残ってしまったわ。
ユアに関しては精神的疲労がピークを迎えたのか、怖いを通り越して、笑っていたわね。
「あはははは」って。こっちもこっちで怖かったわ。
これで本当に強くなれるのかしら。
精神的には鍛えられそうだけど。
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