188:今後の予定が多すぎる件



■フロロ・クゥ 星面族メルティス 女

■25歳 セイヤの奴隷 半面



 【天庸】の襲撃からまだ数日といった頃、ラピスとユアがやって来て、未だ落ち着いてもいないある日。

 夕食の席で、ご主人様から話しがあった。



「一応、今後の予定を整理して伝えておくぞー」



 今まで色々と準備し、動いてきたのは【ゾリュトゥア教団】と【天庸】の対策が大きい。

 まぁ他にも祝賀会に向けての準備とかもあったのだが。

 それが一区切りとなった今、改めて行動指針を示そうと言うのだ。



「まず考えなくちゃいけないのは、魔導王国に行くことだ。出発はカオテッドの復興に目途が立ってからだから、だいたい一月後。メンバーは全員と考えている」



 これは【天庸】襲撃事件のその日の夜に、メルクリオがやって来て話していた内容だ。

 少し話すとこのような感じだ。





 メルクリオはヴェリオとの戦いの疲れもあるだろうに、その日は忙しく動いていた。当然だがな。


 本国への報告も行わねばならぬし、何よりヴェリオと【十剣】の死体の問題がある。

 【天庸】の死体はただの死体ではなく、魔導王国で行われた禁忌の錬金術の結晶のようなものだ。

 おいそれとカオテッドで処分するわけにもいかん。


 だからこそ氷魔法で腐敗を防ぎつつ、迅速かつ厳戒態勢で王都まで運ぼうとしていた。

 その後にメルクリオも王都に一時帰還するらしいのだが、我らにも魔導王国に来てくれないかと打診があったのだ。



「正式に魔導王国から礼をしたい。まだ報告はしていないけど、確実にそういう話しは出るだろう。父上……国王陛下から直々に賞されるはずだ」


「えっ、俺ただの組合員でしかも基人族ヒュームだぞ? 国王陛下から賞されるとか……むしろされちゃいけないんじゃないか?」


「魔導王国にとって【天庸】を壊滅させたというのはそれほど大きな事なんだよ。どれだけの魔法技術が使われ、どれだけの民が犠牲になったか。しかも今回のカオテッド襲撃の陣容を見る限り、それが王都に向けられたなら王都も壊滅していただろう。これは国を救ったとも言えるんだ。それだけの事を為したんだよ、セイヤたちは」



 そう言われるとそうなのだが、ご主人様としてはあまり乗り気ではなかった。

 我もそうだが国王に謁見とか、一般庶民には荷が重い。

 ご主人様は基人族ヒュームという事もあるから尚更だろう。


 しかしメルクリオの顔を立てる意味でも了承した。


 ご主人様は「どうせ一緒に行くのであれば【天庸】の死体もこのまま<インベントリ>で運んだほうがいいのでは?」と思ったらしいが、エメリーに止められた。


 メルクリオに「実は時間経過しない大容量のマジックバッグを持っている」というのは簡単だ。

 亀の甲羅の件もあったし、今更そう嘘をついた所で信憑性があろう。


 しかし魔導王国の王都まで持ち込んで<インベントリ>から出すのがマズイ。

 間違いなく魔導王国から目を付けられる。メルクリオも我々を保護しきれまい。



 という事で、大人しく【天庸】の死体はその日のうちに引き渡す事になった。


 改造されたワイバーンや風竜については、通常の魔物として扱われ、討伐した我々の好きにしていいという事にもなった。合成魔物キメラもだな。まぁもう寄付した後だったのだが。

 ただし【十剣】の装備していた武器などは念の為、死体と共に引き渡す。


 悪魔族ディーモンは風竜から引きはがした状態で渡した。

 もっともご主人様が戦っている時に斬り刻んだらしいから、ほとんど引きはがれた状態ではあったらしい。


 鳥人族ハルピュイのスィーリオが足に付けていた魔法剣などは貴重だったんだがのう。

 まぁ足に付いていたものをこちらで流用するのも気分が悪いが。

 ラセツやクナの武器も業物らしいが、それも引き渡した。触媒や魔道具などもな。


 ただしドミオの武器【魔剣グラシャラボラス】に関してはもらう。ここは譲れん、とご主人様も言い張った。



「それは問題ないよ。ヴェリオが作った魔道具はともかく、魔剣はヤツの研究には絡んでいないだろうしね。魔剣は人の手が加えられるものじゃないから。こちらが欲しいのはヴェリオが何を研究し、何を造り出したかという物証だ」



 という事らしい。気前が良いのう。

 しかしそうなると本当に合成魔物キメラを組合に寄付して良かったのか、とも思うが……後の祭りだな。



「まぁ褒章の一つだとでも……ああそうだ、セイヤ、国からの褒章は何がいい? 一応聞いておくよ」


「えっ、こっちで選べるのか?」


「普通だと金とか勲章とか、場合によっちゃ爵位もあると思うけど……どれもセイヤはいらないだろ?」


「うん。強いて言えば金だな。その中だと」



 ご主人様は国に縛られるのを良しとしない。爵位など以ての外だ。

 勲章をもらっても魔導王国の一員でもなければ付ける事もないだろうし、金にしても……言うまでもなかろう。


 メルクリオはこちらのそうした事情を分かっていて、ご主人様自身にならばどんな褒美が良いかと聞いてきたのだ。


 もちろんこちらの要求したものを国が出せるという保障はどこにもない。

 言うだけ言って、無理だったら諦めてくれと、そういう事のようだ。



 ご主人様はしばらく考え込み、やがて顔を上げた。



「二つある」


「おお、意外にも強欲だね。聞くだけ聞くよ」


「一つは、ウェルシア用の武器だ。風か水魔法用の強力な杖を探している」


「ご主人様っ!?」



 傍で聞いていたウェルシアが思わず口を挟んだ。

 それはそうだろう、国を救った褒章に自分用の武器と言われたのだから。

 恐縮という以外にない。



「ウェルシアの杖の強化はクラン全体での課題だ。目的だった【天庸】討伐が成ったとは言え、組合員として活動していく以上、このままでいいわけがない。だからクランとして優先させるべき第一がウェルシアの杖だって事だ。そう受け取ってくれ」


「ご主人様……ありがとうございます」


「なるほど。そういう事なら僕としても是非とも協力したい所だね。伝えてみよう」


「ただし、今の俺たちに合ったものだからな? 国宝級じゃないと見劣るからな? 【聖杖】レベルだぞ?」


「ハハハ……善処するよ……」



 今の我々の装備は新人たちを抜きにすれば、皆が国宝級に近いものを持っておるからのう。

 我の【震脈の杖】もアネモネの【暗黒魔導の杖】も準国宝級と言っても過言ではない性能だ。少なくとも貴族の家宝レベルには違いない。

 それに合わせるとなれば、それ相応の杖でなくてはな。



「もう一つは、ベルトチーネ男爵家の復活」


「ご主人様、それはっ!?」



 続けて言った二つ目の褒章に、再度ウェルシアが口を挟む。

 メルクリオは何とも険しい表情を浮かべていた。



「メルクリオ、ベルトチーネ家は事実上なくなっている扱いなんだろ?」


「……ロイズ・ベルトチーネ男爵が承継する前に亡くなった事で貴族位としては″停止″状態のはずだ。ただし法衣貴族であった家がなくなり、唯一の子であったウェルシア嬢が奴隷となった事で事実上、爵位ははく奪されたものと変わりない」


「奴隷であるならば貴族ではいられないという事か?」


「そういう事ではない。今まで魔導研究所の職員として国に貢献していたロイズ殿が亡くなった事で、貴族としての活動そのものが出来ない状態にあるという事だ」


「それは褒章として俺に爵位を与えても同じ事だろ? 貰ったところで俺が貴族活動なんかするわけがない。ただ俺が爵位を貰うのは嫌だが、ベルトチーネ家が魔導王国で宙ぶらりんの状態というのは落ち着かない。だから国から正式に「ベルトチーネ家は男爵家として存続している」と公言して欲しい」


「ご主人様……」



 メルクリオはウェルシアの現状に心を痛めていた。

 この場で「分かった」と言いたい所だが、第三王子という立場がそれを許さない。

 だから「杖の件と合わせて持ち帰る」とだけ言った。



 そうしてメルクリオとの話し合いが終わった後、ウェルシアは改めて頭を下げていた。



「わたくしの事ばかり気にかけて頂いて、本当にありがとうございました」


「さっきも言ったように、これは俺の望みでもあるし、クランとしての望みでもある。気軽にとは言えないがあまり気負わずに受け取ってくれ。まぁ本当に貰えれば、だけどな。言うだけ言ったけどダメでしたって事もありうるし」



 さて、どうなるかのう。

 これが通れば、国王がウェルシアに謝罪するのも同じ事。

 褒章を受け取るのが謁見の席だと言うならば、そう簡単に謝罪など出来まい。


 メルクリオもその辺りを考慮しているとは思うがのう、はてさてどうなるか……。





 と、言うのがメルクリオとの会談の内容だな。


 魔導王国へはすぐにでも……と言いたい所だが、カオテッドの復興が優先されておる。

 メルクリオとしては、第三王子という立場的にも魔導王国への資源を産出するカオテッドの一刻も早い復興を求めているようだ。


 区長と協力して復興に当たり、それが落ち着くまでは離れるわけにもいかないと。

 なので【天庸】の死体については先に送り出したらしい。

 あとは我らと【魔導の宝珠】で魔導王国へ行くだけだ。



「ただ魔導王国へ行く前に四階層の案内をしなければならない。これが約半月後」



 本部長は我らに同行して四階層の確認をするよう、メルクリオに頼んでおった。

 一番事情を知っていて、尚且つ本部長が話しを通しやすかったという事だろう。


 しかしメルクリオが魔導王国へと帰還するとなった。

 カオテッドに戻ってきてから探索でもいいが、時間が読めぬし、なるべく早く確認と検証を行いたいという組合側の思惑もある。


 第一、【魔導の宝珠】が王都に行って、カオテッドに帰ってくるという保障もない。


 メルクリオ自身は組合員として活動を続けたいらしいが、国としてそれを許すかと言われると首を傾げざるを得ない。

 目的であった【天庸】は壊滅したのだからな。すぐにでも国政を手伝えとも言われ兼ねん。



「本部長とも改めてその話しがあったが、やっぱり【魔導の宝珠】の今後を心配しているらしい。もしカオテッドに戻って来ないとすれば、俺たちが今度四階層を案内した所で、やっぱり俺たち以外に四階層を知る者がカオテッドに居ないという状況になってしまうと」



 せっかく案内して証明したのに、そのメルクリオたちがすぐに居なくなるとすれば、確かに問題だのう。



「だから俺たちと【魔導の宝珠】だけでなく、【風声】【震源崩壊】【獣の咆哮ビーストハウル】も一緒に連れて行ってくれないか、と言われた」



 はぁっ!? Aランククラン全てだと!?

 先んじてミーティアが疑問を口にする。



「ご、ご主人様、そうなると百人近くの団体で迷宮に行くという事ですか……?」


「いや、それはさすがに無理だ。一階層の洞穴ですでに動けなくなるだろ。だから各クランから選抜して六名ずつ出してはどうかと言われた。正確に言えば俺たちは案内する側だし、案内役の俺らがずっと戦うはめになるだろうから【黒屋敷】は六人でなくてもいいんだが、そこは他のクランに合わせたほうが動きやすいんじゃないかと、これは俺の意見だ」



 難しいところだな。Aランクが四組、最低でも二四人。こちらが十九人全員で行くと合計で四三人だ。


 一階層は当然だが、二階層の『砦』や三階層の『不死城』も身動きがとれなくなる。


 しかしリッチ以降の強敵を相手に六人だけで戦うというのも……まぁご主人様が居れば問題ない気もするが、間違いなく『亀』レベルとは戦えなくなるな。

 こういっては何だが足手まといが二四人も居て、六人だけでそこまで強敵とは戦えん。



「まぁこれは後々、もう一度話し合おう。本当にAランククラン四組が全て参加するのかも分からん。ただそういう話しがあるとだけ承知しておいてくれ」


『はい』


「その他にも迷宮でのCP稼ぎは最優先だし、新人教育やユアの錬金術関連でも動かなければならない。レベルアップもしないといけない。あとは屋敷の修繕やら改造やら買い出しもろもろ……とにかくやる事が多い」



 【天庸】という大目標を達成したにも関わらずこの忙しさよ。

 どうなっておるのだ。と誰にも文句は言えぬがな。

 我も庭を早い所何とかせねば……。



 皆がそうしてやる事の多さに頭を悩ませていると、ご主人様は追い打ちをかけてきた。



「ついでに言えば、鉱王国も気になっている」


「邪教……ですか?」


「ああ、カオテッドの【ゾリュトゥア教団】支部は潰したが、鉱王国にあるであろう本部が何も動かないとは思えない。カオテッドから本国の方へ伝わっているとは思うが、鉱王国内ではたして対処できるのか。もしくはまたカオテッドにちょっかいを出して来る、という事も考えられる」



 あー、【天庸】の影に隠れてすっかり忘れておったわ。あったのう、そんな教団も。


 カオテッドに居たのが男爵級悪魔族ディーモンだったらしいから、おそらく本部におるのはそれ以上か。

 うーん、鉱王国の戦力で対処出来るものなのか……何とも言えないのう。



「とまぁ、予定やら考えやらは沢山詰まっている状況だ。順々に一つ一つこなしていくから、みんなも宜しく頼む」


『はいっ』



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