156:大地へと叩き落すは剣か術か



◎北東区(魔導国領):第七席 人蛇族ナーギィクナvsネネ、ドルチェ


■ネネ 闇朧族ダルクネス 女

■15歳 セイヤの奴隷



「<気配消却>」



 ドルチェはまだ到着しない。でも私はさっさと殺るよ。

 とりあえずあの人蛇族ナーギィは放っておいて、ワイバーンだ。

 今も衛兵団っぽい人たちと戦闘中。いや、蹂躙され中。



「くそっ! なんだこのワイバーンは!」

「デカさと言い、強さと言い普通じゃねえぞ!」



 混乱する衛兵はどうやらワイバーンにとってもカモらしい。

 降下しては襲って、また上昇を繰り返している。

 それは私にとっても好機だ。衛兵に感謝。



 破壊された建物にススッと昇り、降下してくるワイバーンに向けて飛びかかる。



「<毒撃>」


「ギャアアウ!!!」



 背中に飛び乗ると同時に首の根元に突き刺した。


 ん? 反応が鈍い。何度も<毒撃>でザクザクやる。

 いくらワイバーンの鱗が硬いって言っても、私のダガーは【炎岩竜の鱗】製のドラゴンダガー。

 皮膚を貫くのなんて容易い。だから何度も突き刺す。


 飛んで暴れるワイバーンに<カスタム>されたステータスを頼りにしがみつき、何度もザクザクやる。



 ……よし、毒った。オッケ。

 でもまだザクザクやる。もうどうせなら首を落とす勢いでザクザクやる。



「お、おい! ワイバーンが何か暴れてるぞ!?」

「背中に誰か乗ってないか?」

「は? いや、全然見えないが……」



 <気配消却>使うと意識から外れるらしい。相当注視するか高い察知能力がないと存在に気付かないとか。

 まあ、これも<カスタム>されてるおかげなんだけど。

 なるべくあの人蛇族ナーギィに気付かれないうちに殺したい。



 お、やっとドルチェ到着。がんば。



「はあっ、はあっ、そ、そこの【天庸】の人! 私が相手しますよっ!」


「ん? ほうほう、其方は【黒の主】のメイドか? まさかここに出張ってくるとは運が良い。てっきり妾は戦えんものだと勘繰っていたからのぅ」


「私は【黒屋敷】の侍女、ドルチェって言いますっ! 貴女は誰ですか!? 何席の人ですかっ!?」


「……なんか調子の狂う娘だのぅ。妾は第七席のクナだ。これで満足か? さっさと殺るぞ」



 言うや否や、クナって人はドルチェの身長より大きな鉈を横薙ぎに振ってきた。

 片手で軽々と。まるで短剣を振るうように。



 ―――ガキィィィィン!!!



「くぅっ!」


「ほお、さすがは噂に聞きし【黒の主】のメイドよ。ドルチェと言ったか、なかなかやるのう!」


「これでも防御力だけならクランで一番って言われてるんですっ! 全然効かないですよっ!」


「はははっ! そうかそうか! ならばどんどん行くとしよう! ほれほれ!」



 ……なんで自分から情報を公開していくのか。


 ……あとでドルチェはお仕置きしよう。



 でもあれ、本当に強いなー。ドルチェもいつまで防げるか分かんない。

 さっさとワイバーン倒さないとまずいね。もっとザクザクしよう。


 それまではドルチェ、がんば。





◎北西区(鉱王国領):第八席 鬼人族サイアンラセツvsイブキ、ジイナ


■ジイナ 鉱人族ドゥワルフ 女

■19歳 セイヤの奴隷



「おいおい、せっかく弱くしてやったのにむしろ強くなってんじゃねえか! やっぱりてめえも【黒の主】の強化を受けてやがんのか!」


「さあな。貴様が弱くなったのではないか、ラセツ?」


「ちっ! 角折れが調子づきやがって……! その剣だって普通じゃねえよな! 【黒の主】のメイドはミスリル武器じゃなかったのか!?」


「情報が古いな。組合員が武器を新調したって不思議じゃないだろうに」



 魔剣と特大剣、ガンガンと打ち合いながら器用に会話してる。

 どうやらイブキさんも頭に血が上って、などという事はないようだ。一安心。


 まだお互い全力ではないにしろ、ちゃんと戦えているのは、やはりトロールキングとの戦闘訓練が大きいのかもしれない。

 レベルアップや<カスタム>もそうだが、イブキさんの自信になっているのだろうと思う。



 しかしラセツがどんな奥の手を隠しているのかも読めない以上、私も早く駆けつける体勢を整えるべきだ。

 さっさとワイバーンを倒さないと。



「魔法部隊、撃ちこめーっ! 降りてきた所がチャンスだぞ!」

「わ、分かってはいますが! こちらの被害が……!」



 北西区の衛兵団も戦っている。さすがにラセツ相手にはすでにやられたらしいが、ワイバーンと戦っている部隊はまだ残っているようだ。

 でも、やはり苦戦はしているらしい。


 撃ってる魔法も弱いし、下りてきた所に剣や槍で攻撃しても、その武器はおそらく鋼鉄製だ。ミスリルでさえない。当然だけど。

 これでは大してダメージが入らないだろう。


 私もそれに交じって下りてきた所を叩くか……いや、やっぱりあれ・・を試してみよう。



 愛用の【鉱砕の魔法槌】、その柄尻にはリング状のアタッチメントを付けてある。機能を損なわない最低限の改造だ。

 そこにエメリーさん用に作成したミスリルの鎖をカチャリと接続。


 鎖を持って、ぐるぐると回れば、なんと私の【鉱砕の魔法槌】が対空用投擲武器に早変わり!

 これぞご主人様直伝! ハンマー投げだ!



「お、おい! 【黒屋敷】のメイドか……?」

「何やってんだ、ぐるぐる回って……!」

「なんか危険な匂いがする……引けえっ! 退却だ! 退却しろーっ!」



 ぐるぐる……うわっ、あ、これ、やばい、すごい、遠心力がっ!



 ―――ビューーーーン! ドゴオオン!!!



「ギュアアアアア!!!」



「おおっ! やった! ワイバーンを打ち落としたぞ!」

「あのメイド大丈夫か!? ハンマーと一緒に吹き飛んだぞ!?」

「ハンマーの重さを利用して自分も飛び込んだのか! さすがは【黒屋敷】だな!」



 いたたたた……ワイバーンと一緒に吹き飛んだ身体をどうにか持ち上げる。

 失敗した……手を離すタイミングを完全に見失った……ワイバーンに当たってラッキーだった……。


 あー気持ち悪い。まだぐるぐるしてる。おえっ。

 と、とりあえずワイバーンにとどめをささないと。



 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!



「ギュアアアアアアア……」


「ひ、ひでえ……容赦ねえな……」

「あの恐ろしかったワイバーンが……」

「さ、さすがは【黒屋敷】……だな……」



 ふう、これで大丈夫かな。

 あとは衛兵さんたちに任せて、私はイブキさんの所に行かないと……おえっ。





◎南東区(樹界国領):第九席 樹人族エルブスリリーシュvsミーティア、ポル


■ポル 菌人族ファンガス 女

■15歳 セイヤの奴隷



「ふっ! はあっ!」


「ちいっ! また腕を上げてるじゃない。どうなってんのよ、貴女たちは」



 ミーティア様とリリーシュという人は、短剣同士で素早い攻防を繰り広げています。

 一度戦っている者同士、余計な探りもないようです。

 でも、市街地戦の上に接近戦だから……ミーティア様、弓が使えなくて大変そうです。


 逆にミーティア様がワイバーンを相手取ったほうが一撃で終わると思うのですが……もう遅いですね。

 私があの人と一対一なんて多分無理ですし、私は私で頑張るです! ふんす!



 南東区の衛兵さんたちは樹人族エルブスの人がやはり多いらしく、風魔法と弓矢で遠距離攻撃してるみたいです。


 でもあんまり効果がないのか、ワイバーンは上昇降下を繰り返し、次々に衛兵さんたちを倒し、また建物を破壊していきます。

 それでも逃げずに攻撃しているのは偉いと思います。



「私も参加するですっ! 一緒にワイバーンを倒すですっ!」


「おおっ? メイド……【黒屋敷】か!? 南東区にまで救援に来てくれるとは!」

「助かる! ……しかし、菌人族ファンガスとは……大丈夫なのか?」

「何言ってんだ! 来てくれただけでも感謝しろ! それに【黒屋敷】だぞ!? Sランクだぞ!?」

「そ、そうだよな! ……しかし、手にしている武器は……なんだあの禍々しい……杖? 鍬?」

「鍬なわけないだろ! いい加減にしろ! 戦場に農工具を持ちだすヤツがいるか!」

「そ、そうだよな! ……しかし」



 なんかごちゃごちゃ言ってますけど、参戦しちゃって大丈夫ですよね?

 よーし、とりあえず空のワイバーンを皆さんと攻撃しないと。



氷の嵐アイスストーム! 岩の槍ロックランス! 氷の槍アイスランス!」


「ギュアアアア!!!」



「す、すげえ! なんだあの行使速度! あの威力! 半端じゃねえぞ!」

「さすが【黒屋敷】……! これが非戦闘系種族の菌人族ファンガスとは思えん……!」

「ほら見ろ! やっぱり杖じゃないか、あれ!」



 おっ、結構いいダメージ入ったみたいです。

 よろけて落ちてきますね! チャンスです!

 一気に大ダメージを与えるです!



「そぉい! そぉい! そぉい! そぉい!」


「ギュアアアアアアア!!!」



「す、すげえ! なんだあの攻撃! ワイバーンを耕してるぜ!」

「さすが【黒屋敷】……! これがさっき魔法を撃っていたメイドとは思えん……!」

「ほら見ろ! やっぱり鍬じゃないか、あれ!」



 騒いでないで手伝ってくれないんですかね、衛兵さんたち……。

 私一人じゃ大変なんですけど……。



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