96:競売品大放出スペシャル!
■セイヤ・シンマ
■23歳 転生者
「ごめんなさい、ご主人様……」
「すまなかった、ご主人様」
オークションを終えて意気揚々と帰ってきてみればこれだ。
凹んだネネとツェンがお出迎え。
何があったと聞けば【天庸】がふらりとやって来て、軽く一戦したらしい。
突撃! 隣の……ってレベルじゃねえぞ。
「ラセツだと!?」
そりゃイブキもそうなる。
あれか? お前の同郷の人バカなのか?
襲撃でもなく調査でもなく暗殺でもないだろ、これ。
何、昼間に通りから真っすぐ正門へ、って。
んで俺の調査の前に侍女軍団の強化を調査しに、ちょっと攻撃しに来ましたってか? バカだろ。
逆に意表を突きすぎてるわ。
「ラセツと戦ってみてどうだった?」
「……私の速さに反応した。攻撃したのに掴まれた。力が強い」
「あたしもヤツも本気じゃなかったが、ありゃあたしやイブキよりパワーがあるかもしれないね。少なくとも普通の
やはり身体能力が異常に上がっている。
これはボルボラも
ただボルボラに土魔法があり、
「性格はどんなヤツだった?」
「自分に自信がある、他人を見下す、単細胞馬鹿」
「あたしも同じく」
「そこは昔と変わっていないかもしれません」
見たまんまの脳筋タイプか?
昔から一緒ってことは肉体的な改造はされていても精神的な改造はされていない?
いや、話しに聞くラセツならそもそも盟主ヴェリオの下につくのがおかしいタイプだ。
やはり何かしらの洗脳や改造がされていると思ったほうが良いか。
「んで、スィーリオとか言ったか、その
「「はい」」
「つまりチャンスってことだな」
「「チャンス?」」
ネネとツェンだけではない、皆がそろって首を傾げる。
「だってそうだろ? 組織の長が俺を狙ってるなら確実に向こうからやって来る。リベンジのチャンスは来る。おまけにそれまでの時間があるなら、その間に鍛えられるってことだ」
これがすぐに戦わなきゃいけない状況だとしたら、俺以外は一対一で戦えないって事になっちまう。
逆に俺の興味がなくてもう戦いませんよとなれば、居場所も分からないのだからリベンジの機会を失う。
リベンジしたいのはネネとツェンだけじゃない。
ウェルシアとミーティアもだ。
時間を置いてまた来ますというのは、こちらにとって好都合以外の何物でもない。
「とりあえず今回の件はメルクリオにも相談する。明日、ホームに行ってみよう」
『はい』
「それと【天庸】が来た時の為の備えは色々と考えなきゃいけないが、まずは皆鍛えないといけないな」
『はい』
「鍛える為には迷宮に潜るんだが、その前に、だ」
真剣な面持ちの侍女たちをぐるりと見回し、俺は笑顔を見せる。
「オークションの戦利品をくばるぞ~~~!!! イエ~~~~イ!!!」
『…………』
「ん? どうした? 武器やら何やらで戦力強化できる機会なんだぞ? せっかく競り勝ってきたんだし皆で喜ぼうじゃないか」
「いえ、その、【天庸】に襲撃されたインパクトが大きくてですね、素直に喜べないと言いますか……盛り上がれないと言いますか……」
何を言っているんだ。
時間を置いてまた来ます、の言質だけで大戦果だ。
何もしょげる必要はない。
どうせ迷宮で鍛えるのは予定に入ってたんだしな。
むしろ良くやったと言いたいくらいだ。
「だから気にせず喜べ! 戦利品を見せるぞ~~~!!! イエ~~~イ!!!」
『イ、イエ~~~イ!!!』
うんうん、いいよいいよ。
やっぱ俺たちが大金叩いて買いあげた戦果だからね。皆で共有しないと。
もうぶっちゃけ【天庸】とか【ゾリュトゥア教団】とかどうでもいいからね。
「えー、オークションは色々とありましたが、シークレットも含めて掘り出し物もありました。一応、皆に一つずつお土産があります! 拍手!」
『おおっ! パチパチパチ!』
「まず最初はお土産じゃなくて共有資産だけど【マジックテント】!」
「おお、買えたんですね!」
これはどの組合員も欲しがってたみたいで競争率が高かった。
一見すると普通のテントだけど、魔物避けの効果と、室内がマジックバッグみたいに広い空間になっている。
さすがに家が入るほどじゃないが、大部屋と変わらない。
ここの全員が雑魚寝できるくらいは十分にある優れものである。
「続いて一番多いスキルオーブ関連いくぞ! まずは俺用の<空跳>スキル!」
「おお、ご主人様が欲しがってたやつ!」
「続いてエメリー用に<投擲>スキル!」
「ありがとうございます」
「さらにー、ネネ用に<毒撃>スキル!」
「んーっ! ほ、欲しかったやつ! ありがとう、ございます!」
俺の<空跳>は所謂二段ジャンプ。
ステータス的にも戦い方としても【敏捷】特化だから、これがあれば立体的に動けそうだし欲しかったんだよね。
浪漫があるし。二段ジャンプとか。
エメリーの<投擲>は地味だけど非常に使える。
元々器用なエメリーはハルバ二刀流で近・中距離だけど、ナイフでも投げられれば遠距離も可能。
ますます器用貧乏になりそうだけど、それがエメリーらしいとも思える。
ネネの<毒撃>は攻撃に毒の状態異常を一定確率で付与するもの。
もしかしたら今後生えるかもしれないけど、ネネは未だにないから、余計に欲しがってた。
「次はー、ツェン用に<一点突破>スキル!」
「これ昨日話してたやつか! かぁ~今日これを持っていればっ!」
「それとー、ポル用に<逃げ足>スキル!」
「<逃げ足>? どんなスキルなのです?」
ツェンの<一点突破>は″突き″などの局所的な攻撃に対してダメージ補正が入るらしい。
さらに同じ個所を攻撃し続ける事でも、ダメージが増幅される。
体術メインのツェンなら剣士以上に有効に使えると思う。
ポルの<逃げ足>は事前相談せずに衝動買いした。
退却時に敏捷補正、速度上昇らしいんだが、これはポルが
前衛から後衛への素早い移動が可能になるじゃないかと。ひいてはパーティー戦闘がスムーズになる。
そういう説明をしたら納得してくれたらしい。
意外と喜んでくれた。
「続いてー、ドルチェ用で<不動の心得>スキル!」
「あーっ! ヒイノさんとどっちかって言ってたやつ! ありがとうございます!」
「最後にー、ウェルシア用で<魔力凝縮>スキル!」
「ありがとうございます……えっと魔力……凝縮ですか?」
<不動の心得>は所謂ノックバック耐性。
盾持ちのヒイノとどっちかで悩んだけど、ヒイノはバックラーで直剣メインなのに対し、ドルチェは中盾で槍メインだから、ノックバックを考えるならドルチェかな、と。
何気にメンバーで一番守りが堅いからね。
ウェルシアにあげた<魔力凝縮>は魔法使いメンバーなら誰でも良いかと一応買っておいたもの。
他にウェルシアに適したものがなかったからウェルシアにした。
効果は二つあって、一つは『一つの魔法に対して通常以上に魔力を込めることで威力を上げる』、つまり魔力ブースト。
二つ目は『魔法の効果範囲を狭めることで威力を上げる事が可能』。
つまり広範囲魔法を単体魔法にする事でブーストさせる。
「例えばゴブリン十体をまとめて倒せる
「そうなんだが、俺は魔法を圧縮・変形させるって事だと思ってる。ちょっとアイデアがあるから後で相談しよう」
「分かりました。ありがとうございます」
上手く使えばかなり有用なスキルだと思うんだよな。
ブーストに必要な魔力は<カスタム>で増やせるんだし。
まぁ相当な訓練が必要だとは思うけどね。
「さあ続いて、装飾品が二つ! まずはミーティアに【炎のアミュレットリング】!」
「まあ! ありがとうございます!」
「さらにー、ヒイノに【守護の腕輪】!」
「ありがとうございます!」
ミーティアの【炎のアミュレットリング】は火魔法の触媒だな。それの高ランクバージョン。
基本的に【神樹の長弓】での攻撃になるだろうし、それで火魔法を撃つ時はわざわざ弓から短杖に持ち替えて魔法を使っている現状。
これを弓を持ったまま魔法を使う為に、杖からアミュレットにしたわけだ。しかも指輪型。使いやすいと思う。
ヒイノの【守護の腕輪】は単純に防御力アップ。
うちのメンバーでは二人しかいない盾役だから、やっぱり防御力かな、と。
ヒイノもティナを守る為に守備に専念してるところあるし。
「じゃあ最後に武器配るぞー! まずはサリュ! 【聖杖アスクレピオス】!」
「うわあっ! 欲しかったやつ! ありがとうございます!」
「次にフロロ! 【震脈の杖】!」
「ありがたく頂く」
「次にアネモネ! 【暗黒魔導の杖】!」
「ふふふ……私なんぞにはもったいない……ありがとうございます……」
まずは杖三種。
【震脈の杖】と【暗黒魔導の杖】は、土と闇魔法特化の杖。
普通の店売りとは桁違いに性能が良いらしい。精度とか威力とか消費魔力とか。
【聖杖アスクレピオス】は迷宮産だが、上記の二つよりさらにランクが上。
並みの
今回のオークションでどうしても欲しかった武器の一つだな。
「次にティナ! 【風撃の魔法レイピア】!」
「わあーい! ご主人様ありがとう!」
「次にジイナ! 【鉱砕の魔法槌】!」
「まっ!? ままま魔法武器!? わ、私が……っ!」
どっちも【魔法剣】だな。ジイナは【魔法槌】だけど。
ミスリル武器に魔石と術式を組み込んで、魔法の使用も可能にした武器。
ティナは風魔法、ジイナは土魔法だな。
……ジイナ、目がヤバイ。
その鍛冶師の目、やめろ。怖い。
頬ずりするな。
「最後にー! もう本人装備しちゃってるけどー! イブキに【魔剣イフリート】! お値段40500だーっ!」
『おおおおおっ!!!』
「ありがとうございます、ご主人様。抱いて寝ます」
最後は一番狙ってた魔剣だな。
次点のサリュの【聖杖】でさえ二万もいってないからね、文字通り桁が違う。
「よよよ40500!? 家が買えます!」
「いや、村ごと買えるかも」
「私だったら怖くて使えませんね……」
「王宮の宝物庫とかにあるやつでしょう」
「イブキさん! ちょっと見せて下さい! ちょっとでいいから! ね!」←ジイナ
イブキはさっきからずっと抱きしめている。
本当に抱いて寝そうだ。
「イブキ、抱いて寝るの禁止な。間違えて魔力込めたら火事になるから」
「ええっ! そんな!」
「ティナとジイナもな。あと家でも庭でも使うの禁止。魔力込めるなら迷宮でする事」
「はぁーい」
「そんな殺生な! 私、我慢できません!」
ティナを見習え二人とも。
じゃなきゃ<インベントリ>に封印するぞ?
やたら使えないようにな。
そう言ったら渋々頷いた。
それでも隠れて使いそうなので、使ったら没収と言っておいた。
まじで屋敷でブッパされると困るからな。
自重してくれよ、本当に。
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