58:居残りブートキャンプさせられ系少女
■イブキ
■19歳 セイヤの奴隷
「ああああ! なんであたしを連れていってくれないんだご主人様はよぉ!」
「いつまでもグダグダ言うな、ツェン。皆、納得しての事だろう?」
「そうだけどさぁ……」
「我々も仕事を与えられているんだ。そっちに専念するぞ」
「はぁーい……」
昨日、ご主人様が樹界国への攻め入りを決めた。
ミーティアとポルだけではない、神樹と樹界国を救うための戦争だ。
女神の使徒であるご主人様が行う戦争―――つまりこれは『聖戦』だ。
当然、皆付いて行くと言った。
ツェンではないが私も一緒に行きたいと言った。
しかしご主人様は「連れて行くのは最小限にする」と言う。
理由はいくつもある。
まず樹界国へ行く為に必須のメンバーは、ご主人様とミーティア。
そして村の様子が気になるポルが仲介役として選ばれた。
しかし寄れるようならば寄りたいと考えているようだ。
そしてその際にポルが居た方が話しが早い。
速度重視の作戦の為、移動手段は「足」になる。
馬より走ったほうが速いからだ。
つまり<ステータスカスタム>でCPを【敏捷】【体力】に振りまくった上で、休憩も最小限に走りまくる。
極限のマラソンをした上での戦争という無茶をする。
ポルはご主人様が背負っていくらしい。
つまりミーティアの速度に合わせて樹界国を進むことになる。
となると、ミーティアの速度以下の者は連れていけない。
この時点で私やツェン、フロロ、ジイナ、ヒイノは構想から外れる。
ヒイノが無理ならばティナも連れていくわけにはいかないだろう。
結局はネネが選ばれた。
これは対象の暗殺も考慮しての人選だ。
足の速さもご主人様に次ぐので全く問題ない。
他のメンバーには二つの指示が下った。
一つは屋敷の管理・警備。
ご主人様不在を狙って屋敷を荒らす者が居てもおかしくない。
仮に我々が全員で樹界国に長期間行くとなれば、確実に留守を狙われるだろう。
【鴉爪団】の件もあるのだから尚更だ。
だからこそ屋敷を守ってくれとのお達しだ。
もう一つは迷宮へ行きCPを稼ぐこと。
二階層の探索と【鴉爪団】の一件で豊富にあったわけだが、ジイナの加入時に強化に使い、さらに鍛冶場を作ったことでかなり減った。
そして樹界国へ行くミーティア、ネネ、ポルの強化が急務である。
特にポルは樹界国へと向かいがてらに魔物を倒しレベルを上げつつ強化をしていかなくてはならない。
ご主人様たちの安全性と不測の事態に備えてCPの確保は重要だ。
だから居残り組で迷宮へと潜る必要があるわけだ。
屋敷組と迷宮組、これを残った八人でローテーションしながら行う。
ネネがいない今、屋敷を警備するにも迷宮を探索するにも察知系スキルの重要性は増している。
足が速く回復が出来るサリュが樹界国へと行かないのもそういった理由だ。
我々としては回復役をご主人様のそばに付けたい所なのだが、ご主人様の意向なのだから止むを得まい。
「ネネちゃん大丈夫かなぁ、昨日の夜から走りっぱなしなのかなぁ」
「そ、そんなに走るのか? いや、そんなこと可能なのか? まさか……」
今はCP稼ぎとジイナのレベル上げも兼ねて迷宮に来ている。
面子は私、ツェン、サリュ、ジイナだ。
ステータスを弄るのは離れていても問題ないらしく、ご主人様がステータスをチェックしながら余ったCPをジイナに振るという事だ。
一人だけレベルの低いジイナを放置するわけにはいかないと、念の為レベルを上げておくよう仰せつかっている。
本来ならばジイナはポルと共に後からレベル上げの予定だったらしいが、こうなっては仕方ない。
先行して上げられるものは上げておこうという事だ。
ちなみにジイナの武器、ハンマーは店売りのものを買ってきた。
昨日は会議の後、買い物を含めて入念な準備を行った。
ジイナのハンマーだけでなく、ポルの杖も買った。
「ぶ、武器ですか? わ、私……鍬がいいです……」
さすがに却下したらしい。
使い慣れているのは分かるが、とりあえず<カスタム>した土・水魔法を使わせるという事で杖になった。
とは言え、ご主人様もポルの意思は尊重したいらしく
「ジイナ、今度ミスリルで鍬作ってみてくれ」
「ミ、ミスリルで!? く、鍬を……!?」
ジイナはまるで虚空を見つめるような遠い目をしていたが、まだ当分先の話しだろう。
鍬を持って迷宮に入る侍女となるとますます奇異の目で見られそうだが……。
どんな風に戦うのか少し見たい気もする。魔物を耕すのかなぁ。
そんなわけでジイナは新人として覚えることが多い現状にも関わらず、鍛治やレベル上げをしなければならない身。
私もなるべく協力してフォローしていきたいと思っている。
差し当たっては効率よくレベル上げを行い、効率よくCPを稼ぎ、少しでも鍛治や侍女教育の時間を稼いでやる事が肝要。
つまりは魔物部屋マラソンだ。
「えっ、ま、魔物部屋? いや、私も詳しくはないのだが、魔物部屋とは確か、部屋を覆い尽くすほどの魔物の群れが出るという……迷宮でも屈指の
「そうだ、だからこそ短時間で経験値もCPも稼げるというわけだ」
「ついでに金も稼げるし憂さ晴らしにもなるぜ!」
「大丈夫ですよジイナさんっ! ジイナさんは私が守りますからっ!」
「えっ」
最初は不安だろう。誰だってそうだ。
しかし私やツェン、サリュがいればジイナの出番はないだろうし、危険が及ぶことも考えにくい。
ジイナには大船に乗ったつもりでいてもらいたい。
「えっと、その、マ、″マラソン″というのは……」
「ん? ああ、言葉足らずだったか。つまりは効率の良い魔物部屋をさらに効率よく利用する為に、何か所かの魔物部屋をぐるぐると何周かするわけだな」
「!?」
「おーい、さっさと行こうぜー!」
「ああ、ツェン今行く。さあジイナも行こうか」
「ハ、ハイ……」
また虚空を見つめるような目をしているな、クセなのだろうか。
それとも治したばかりの目の調子が悪いのかもしれない。
ならば私が守ってやらねばなるまい。
安心してくれ、ジイナ。
ジイナには指一本触れさせず、このマラソン、完走してみせよう!
■フロロ・クゥ
■25歳 セイヤの奴隷 半面
「やはりやりおったか……あれは鬼畜だからのう……」
「はい……すごかったです……」
迷宮組が帰ってきたと思ったらジイナが真っ白に燃え尽きておった。
案の定と言っても良いかもしれん。
戦闘経験のまるでないジイナを
我の最初の頃と同じだな。
いや、十年間組合で占いを続け、迷宮と魔物部屋の事を聞き及んでいた我に比べてジイナは何も知らない身。
我以上に衝撃を受けたのやも知れぬ。
「いいなぁ、私も行きたかった」
「ティナはお屋敷を守るお役目があったでしょう? 今度行けるのだから我が儘言うんじゃありません」
「はぁい」
何も知らずに最初から嬉々とマラソンしていたのはティナくらいではなかろうか。
ヒイノと微笑ましい母娘会話をしておるが、内容が物騒すぎる。
だいたい、ここの連中はどいつもこいつも常識が欠けておる。
ご主人様が一番常識がないからそうなってしまうのかもしれんがな。
朱に交われば何とやら。
いや、異世界人のご主人様に常識など言うのもおかしな話しか。
我とて魔物部屋マラソンには苦い思い出しかない。
なぜ危険な魔物部屋を行ったり来たりせねばならん。
広い大迷宮をどれだけ走れというのだ。
せめて魔物部屋を巡るのも一周にして欲しい。
何周も回ると疲れる。精神的に疲れる。
我は
か弱い
まぁ走るのは別に疲れんし、魔法を連発するのも問題はないが、精神的に疲れるのは堪えるのだ。
「フロロさん……貴女も十分
「なん……だと……!?」
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