57:放逐された罪人の決意
■セイヤ・シンマ
■23歳 転生者
全員が揃った食堂でミーティアとポルの話しを聞いた。
ミーティアの事情、ポルの事情、樹界国の事情、俺もよく把握できてなかった部分もあるからな。
最初こそポルという新しい仲間に喜んでいた皆だったが、話しているうちに暗く重い雰囲気になる。
あのツェンでさえ険しい表情をする始末だ。
ミーティアが放逐される前から樹界国の体制は変わっていた。
両親、つまり王と妃は幽閉され、兄であるフューグリスが新王となっている。
大司教も幽閉、ズールというフューグリスの息のかかった者に変わった。
特にフューグリスは他種族の奴隷を
その後、ミーティアは放逐され、姉のユーフィスが『神樹の巫女』に就任。これはポルからの情報。
大司教にしても『神樹の巫女』にしても【樹神ユグド】の神託を受けた『神樹の巫女』及び大司教によって世代交代される物であり、現在はどちらも神託を受けての交代ではない。
つまり勝手に名乗っているだけの詐欺師だ。
ここからは全てポルの話しだ。
偽巫女ユーフィスは神託と称して樹界国の森林伐採を指示。
同時に新王フューグリスは他種族の集落に対して重税を課し、払えない種族を潰し、奴隷にしているという。
双方とも大司教のズールが支持している事で、政教一体のゴミ体制が出来上がっている。
そして極めつけが【樹神ユグド】の依代たる神樹の伐採計画。
おそらく偽巫女ユーフィスが森林伐採を仕掛けたのも、このための布石だと思われる。
目的は神樹を、【樹神ユグド】の信仰を奪い、偽巫女が神に頼らず民を動かせるようにする為ではないかと予想している。
要は神託を受けられない偽物の巫女という現状に納得してないんじゃないかと。
巫女を名乗り続ける為には『神』が邪魔なのではないかと。
神樹を伐るなんて信仰篤い神殿連中は納得するのか、と思ったが、トップの大司教が「偽巫女の神託は正しい。自分も神託受けたから間違いない」と言ってしまえば、逆らえないものらしい。
ミーティアが焦燥しているのはここだ。
国政がダメで国民が厳しい状況に置かれていても、国外追放の上、『日陰の樹人』となった今では何もできない。
しかし神樹が伐られるというのは神殺しも同じ。
巫女どうこう、罪人どうこうの前に信仰する一人として止めなければならないと。
「ゴミ国家だな……」
「返す言葉もありません……」
別にミーティアに言ったわけではないんだがな。現体制のことだから。
ともかく国を動かしているトップの三名。
兄王フューグリス、巫女ユーフィス、大司教ズール。
こいつらを何とかしないと樹界国が終わるし、神樹も終わるってことか。
「……おそらく宰相のゲルルドもです。彼も兄と姉に協力し、国を動かせるトップの一人です」
「宰相ね。それも代替わりか?」
「いえ、父王の頃からの宰相位です。兄に取り入ったのか、元から兄と繋がっていたのかは分かりませんが、父が幽閉されて以降もゲルルドは宰相位に収まったままのはずです」
じゃあ前王は元から埋伏の毒状態だったってことか?
前王が見誤っていたのか、宰相の腹芸が上手かったのか、それとも……。
まぁそれは置いておこう。
つまりはトップの四人をどうにかしないと好転しないと。
とりあえず意見を聞いてみるか。
「ポル、お前はもう俺の奴隷であり仲間だ。俺は出来る限り協力するつもりでいる」
「は、はいっ! ありがとうございますですぅっ……うぅっ……」
「泣くのは後にしてくれ。それでポルはどうしたい? どういう結果を望むんだ?」
「ぅぅ……わ……私は、村を、みんなを守りたいですっ」
まぁそうだろうな。
ぶっちゃけ村
それでポルの村は潰されることなく、兄王の奴隷になることもない。
しかしそれでは解決しないだろう。
「ミーティアは? お前はどうしたい?」
「私は……」
沈痛な面持ちはずっと変わらない。
見ているだけでこっちが辛くなるほどだ。
しかし、しっかりとこちらを見つめはっきりと言った。
「私は国を、神樹を守りたいです」
「そうか」
「『日陰の樹人』であり『神樹の巫女』でもなくなった私がこんな事を言うのはおかしいのかもしれません。……しかし私は……それでも私は樹界国の
……『女神の使徒』と呼ぶのは勘弁して欲しいが、こんな雰囲気で言えるはずもなく。
俺はミーティアに頷き返し、皆を見回す。
「俺はミーティアの主人だ。迎えたばかりだがポルの主人でもあるし、ここに居る全員の主人でもある。奴隷の言葉を汲みとるのも主人の務め。悲しませず笑わせるのが主人の務め。願い・要望を聞くのも主人の務めだ。―――エメリー、イブキ、こんな主人は
「ご立派な考えかと存じます」
「【アイロス】にとって異質でも我々にとっては最高の主人であるかと」
「おそらくこんな馬鹿な考えを持つ主人などこの世界に居ないだろう。―――奴隷の為にたった数人で
「ご主人様……っ! それでは……!」
ミーティアの瞳に光が灯る。
俺はその目を見て言った。
「ミーティア、覚悟はあるのか? 「守る」という事を免罪符にして手を汚し、国を乱す覚悟はあるのか?」
「……!」
「お前の言う「守る」という行為、これは戦争と同じだ。場合によっては肉親を殺すことになる。国民にも被害が出るかもしれん。ただ新王に従うだけの罪なき国民を殺すことになるかもしれん。少なからず国が混乱するのは間違いない。それでもやるという覚悟はあるのか?」
「!?」
元凶を何とかしないと国と神樹を守るなんて無理だ。
説得なんて無理だろう。こちらは
どうしたって力づくになる。
元より俺のやり方は″理不尽に対する力による抵抗″だからな。
衛兵などを誰も殺さず、トップの四人を殺さずに捕らえて万事解決なんていくわけがない。
仮に誰も殺さずに済んだところで、待っているのは国の混乱だ。
新しくなったばかりの体制が崩されるんだからな。
万人が望む結末などありえない。
それでもいいのか?
ミーティアはそれでも
ミーティアは逡巡した後、深々と頭を下げた。
その角度、姿勢、手の位置、見事なまでに
「どうぞお力添えをよろしくお願いいたします、ご主人様」
「分かった」
俺は改めて皆を見回して告げた。
「これから樹界国に向けての出撃準備をする。目的は樹界国新体制の崩壊。神樹と森、そして国民の保護だ。悪いが馬鹿な主人の我が儘に付き合ってもらうぞ」
『はいっ!』
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