56:口減らしの菌人
■ポル
■15歳 セイヤの奴隷
私の村は小さな村です。それでも仲良く平和に暮らしていたです。
村で作るキノコは
それは村だけでなく樹界国の特産にもなって、だから王様からも一目置かれるというか、良くして貰ってたです。
ある日、王都で政変が起きたそうです。
王様は退位し、王子様が王様になりました。
大司教様も変わったそうです。
そして『神樹の巫女』様も……。
『神樹の巫女』ミーティア様は国中、そして村でも人気者でした。
神樹様と森、そして国のみんなを大事にしてました。
とても優しくてとても美しい、そんな噂は村にまで聞こえてきたです。
これから国はどうなるんだろう、そう不安に思っていた矢先です。
明らかな種族差別。
税を払えない集落が出て来て、代わりに奴隷として王都へ連れて行かれたそうです。
さらに森の木々を伐り始めました。
樹界国の
何でも新しい『神樹の巫女』様の神託だそうです。
樹神ユグド様がそんな神託するわけないです!
噂では森を伐るだけでは飽き足らず、神樹様も伐るつもりみたいです。
絶対おかしい! 神託で神樹様を伐るわけがないです!
何が『神樹の巫女』ですか! ミーティア様と全然違うです!
しかしそれは新王様の号令の元、樹界国全土に命じられたこと。
国命で森を、神樹を伐るだなんて……。
種族差別も重税も全部王命です。
いったい樹界国に何が起こったのか、私にはもう分からないです。
私の村はキノコの蓄えがあったから何とか税は払えたです。
でもそれも今だけです。
だから成人したばかりの私が奴隷になってお金を工面したです。
このままじゃ村がなくなるです。
みんなで王都に連れ去られるだけです。
私は村のみんなを守りたい。だから私は……。
奴隷商に連れられて辿り着いた先は【ティサリーン商館】という所でした。
着いて早々、女主人のティサリーンさんは言ったです。
「貴女が
村の口減らしってことは、最初に言ってあったのに、なんで詳しく教えてくれなんて言うのでしょうか。
分からないけど、私はこれまでの事を全部話したです。
誰かに聞いて欲しかったのかもしれません。
なんでこんな目に会わなければならないのか。
なんで急に国は変わってしまったのか。
そして奴隷となってしまった不安と恐怖。
泣きながら全部言いました。
ティサリーンさんは私の頭をボフボフと撫でながら言いました。
「大丈夫。貴女を買う人はすでに決まっています。その方は奴隷にもとても優しい御方。絶対に貴女を酷い目に会わせたりしない御方ですわよ。奴隷商の私が自信をもって断言できますわ」
その言葉に少しだけ救われました。
でも奴隷になるのはやっぱり怖いし、村も心配です。
気持ちは前向きにはなれないです。
買う人が決まってると言われたとおり、すぐにその日は来ました。
でも何で決まってるのでしょうか。
私はその人に会ったこともないのに。
そんな疑問を持ったまま案内されて、待っていたのは
綺麗な服を着ているので偉い人かもしれないです。
私は本当にこの人たちが買うのか、本当に酷いことされないのか、ずっと不安でいたです。
でも驚きがありました。
そのメイドさんたちの中にミーティア様がいたのです。
『神樹の巫女』だった、あのミーティア様が。
国を森を守って下さっていたミーティア様に会えた喜び。
どうして居なくなってしまったのかという憤り。
自分でもよく分からない感情で一杯になって泣いてしまったのです。
そして
なぜミーティア様がご主人様についてここに居るのか。
なぜ私は買われることが決まっていたのか。
左手に刻まれた奴隷紋を見て分かったのです。
全ては【創世の女神ウェヌサリーゼ】様の思し召し。
私がここへ来てミーティア様にお伝えするのが運命だったのです。
私は商館を出て、ご主人様のお屋敷に向かいました。
着くまでの間、ミーティア様は私の手を握って、お話しして下さいました。
私のお話しも聞いて下さいました。
「よく頑張りましたね。貴女は村を守った。辛かったでしょうがもう大丈夫ですよ」
そんな暖かい言葉をかけて下さり、また泣いたのです。
でも握ったミーティア様の手はきつく、苦しんでいる事が分かりました。
ミーティア様も悲しんでいる。
それがとても伝わってきたのです。
国が荒れている。
多種族が虐げられ、森が減らされ、神樹までもが伐られようとしている。
罪人となり国を放逐されても、ミーティア様は『神樹の巫女』。
何も思わないはずがないです。
悲しみ、怒り、焦り、もどかしさ。
ミーティア様から感じるそれは、私も全く同じ気持ちで。
だから私もギュッと握り返したのです。
泣きたいけど泣かないミーティア様。
だから私も泣かないように我慢したです。
前を歩くご主人様が振り返らずに言いました。
「ミーティア、帰ったら作戦会議開くぞ。エメリー、先に行って全員集めさせろ」
「「はいっ」」
その声はとても低く、とても恐ろしく、とても頼りがいがありました。
どんな表情をしているかは分かりません。
でも、手が白くなるくらい握っているのが分かりました。
ああ、この人は……
『その方は奴隷にもとても優しい御方。絶対に貴女を酷い目に会わせたりしない御方ですわよ』
ティサリーンさんに言われた言葉を思い出します。
私は左手の奴隷紋を見ました。
するとなぜか少し安心できました。
女神様が守ってくれる。使徒様が、ご主人様がなんとかしてくれる。
そう思えたのです。
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