44:幼女の見た殲滅戦
■ティナ
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
その日、私はご主人様とお母さんと全員で南西区に行きました。
【鴉爪団】という悪い人たちを倒しにいくそうです。
お母さんのお店に酷いことをした
だから倒さないといけないってご主人様は言いました。
あの時は、みんな投げた人は気絶させるだけだったのに、私が投げた人だけ大怪我をしていました。
ご主人様は笑って許してくれましたが、私は悲しかったです。
せっかくご主人様に<カスタム>してもらったのに、自分の身体を使いこなせないなんて、そんなの私だけだから。
だからこれからもっと頑張って、ご主人様のお役に立てるように、お母さんを守れるようになりたいと思いました。
え? 怪我をさせた事が悲しいんじゃないのかって?
絡んで来たら投げて気絶させろってみんなに言われてるんですけど、何かおかしいんですか?
南西区に入った私たちは汚らしい裏道を通って、目的地へと進みます。
南西区に住んでいた私でも知らないところはあるんだなぁと思いました。
ごみや糞尿やボロボロの人が寝ていたり、匂いもすごいです。
綺麗好きのご主人様は嫌がるだろうなーと顔を覗いて見たら案の定、しかめっ面でした。
ご主人様が嫌がるのだったらお掃除した方がいいのでしょうか。
私は毎日お屋敷のお掃除も訓練も迷宮も頑張っているので、それくらいは出来ます。
道を歩いていても悪い人たちは絡んできます。
今日は投げるだけじゃなく、殺して進むそうです。
ゴブリンみたいにザクッって斬られて、ピューッって赤い血がまき散り、すかさずご主人様が<インベントリ>で死体を消します。
私は迷宮以上に素早いご主人様のフォローの動きに少し感動しました。
思わず「おおー」と言ってしまいました。
「ティナ、大丈夫? 無理そうだったら目を瞑っていなさい。手を握っててあげるから」
お母さんはそう言いますが、私が見逃すわけがありません。
イブキお姉ちゃんやエメリーお姉ちゃん、みんなが最低限の動きで倒し、それをご主人様が最速でフォローする。
迷宮でも見られないような動きです。
とっても参考になります。
え? 殺すのを見るのは大丈夫なのかって?
山賊とか悪い人はご主人様の許可があるなら殺すべきってみんなに言われてるんですけど、何かおかしいんですか?
出来れば私も参加したいくらいです。
せっかく迷宮で魔物をいい感じで切れるようになってきたのだから、悪い人相手でも戦ってみたいです。
でもお母さんはなぜか止めますし、少し悲しそうな顔をするのでやりません。
そうしてとあるお屋敷に着きました。
ご主人様のお屋敷より小さいですけど、お庭も広いし、二階建てで宿屋さんみたいです。
ご主人様たちは門の中に入っていきましたが、私はお母さんとサリュお姉ちゃんとネネお姉ちゃんとお留守番だそうです。
一緒に行きたかったですが、見張りをしてくれと言われました。
「ヒイノとティナは<危険察知>を意識してて……私は逃げるやつを<気配察知>するから……」
「分かりました」「はいっ」
ネネお姉ちゃんにそう言われました。
これも訓練ってことですね! 頑張ります!
サリュお姉ちゃんは庭にいる悪い人たちに魔法を撃つので忙しそうです。
よくよく集中すると私たちに向けて悪意みたいなものを向けている人たちがいます。
迷宮の魔物みたいですが、遠いのか隠れているのか分かりづらいです。
この人たちを倒せばいいのでしょうか。
「お母さん、あの人たちどうすればいいの? 倒すの?」
「向かってきたら倒すけど、私が行くからティナは行かないでいいのよ」
じゃあひたすら察知を意識する訓練にします。
ネネお姉ちゃんはすごい速さで行ったり来たりを繰り返しています。
その度にお土産のように悪い人を担いできて、庭に投げています。
しばらく待っているとお屋敷に入ったミーティアお姉さんから呼ばれました。
もう全部倒したから集合だそうです。
私たちは四人でお屋敷に入ると、エントランスではご主人様が<インベントリ>で片付けていました。
「ティナ、大丈夫だったか?」
「はいっ」
「よし、良かった良かった」
頭を撫でてくれました。
とても優しい手で思わず耳がピコピコします。
「これで一応は片付いた。残党は多少いるだろうが力は削いだはずだ。他の闇組織もいるだろうから完全に安心はできないが、一段落ってとこだろう」
「ありがとうございます、ご主人様」
お母さんがご主人様にお礼を言いました。
お店の件を含めて私たちに関わらせてしまったからご主人様が【鴉爪団】に狙われてしまった。
お母さんはそう言います。
ご主人様は「それがなくても目を付けられていた」と仰います。
私にはどっちが正解か分かりません。
そこにエメリーお姉ちゃんやイブキお姉ちゃんが集まってきました。
「ご主人様、幹部のロウイという男だけが不明です。他の幹部は全員始末しました」
「そうか。まあ全員がアジトにいるとは思ってなかったがな」
「申し訳ありません。頭領の男を生かして居場所を吐かせるべきでした」
「謝ることはない。頭領相手にエメリー一人で戦ったんだろ? むしろ褒められるべきだ」
「ありがとうございます」
あちこちに死体が残っている状態という事で、ご主人様は回収しに回るそうです。
私たちは全員、物資の回収をするように言われました。
一纏めにしたところでご主人様が回収するそうです。
「あと書類関係をチェックしておいてくれ。不正やら何やら出て来るだろうからな」
「ご主人様、ヤツはどうしますか」
イブキお姉ちゃんが指さす先には壊れた壁に埋もれた女の人が寝ていました。
あとで聞いたら
エメリーお姉ちゃんも負けそうな人で、結局ご主人様が倒したそうです。すごい。
「あー、あいつは構成員じゃなくてただの用心棒だったらしいからな。あのまま捨てておく。
「かしこまりました」
その後、ご主人様がお屋敷とお庭の死体を回収して、私たちは食料や衣類、装備品、お金、宝石などを集めていきました。
なんでも山賊とかを倒すと、こうして売れそうなものとか、使えそうなものを全部貰うのが正しいそうです。
初めて知りました。勉強になります。
私も頑張って集めました。
エメリーお姉ちゃんとミーティアお姉ちゃんは『不正の書類』というものを集めていたそうです。
私にはよく分かりませんでしたが、【鴉爪団】の人たちは衛兵さんや商業組合の人、区長さんとも繋がっていたとかで、どこに渡そうかと相談していました。
結局、お母さんの意見で、街で評判の良かった衛兵隊長さんに匿名で渡そうとなったそうです。
その日はお屋敷に帰って、迷宮にも行かず過ごしました。
お母さんは少し嬉しそうにパンを焼いていました。
私もお手伝いしました。
そして翌朝の事です。
朝食を食べている時に大声が聞こえました。
「頼もーーーっ!」
何事かとみんなで庭に出ると、門の前には青い髪で背の高い女の人が立っていました。
あの人は……もしかして昨日の
「あ、いたっ! 【黒の主】! あたしも奴隷にしてくれ!」
ご主人様は頭を抱えています。
何がどうなってんだ、と呟く声が聞こえました。
えっと、仲間が増えるってことですよね?
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