43:鴉爪団戦、決着



■ディザイ 獅人族ライオネル 男

■40歳 鴉爪団 頭領



「なにぃ! 【黒の主】どもが来やがっただと!?」



 昨夜、襲撃に向かわせた強襲部隊は帰ってこねえ。

 で、朝になったら【黒の主】がメイド連中を引き連れて来やがったと。

 チイッ! しくじりやがったな!


 当然、迎撃するよう指示を出す。

 俺らが仕掛けた事も知られ、ここの場所も知られた。

 もう殺すしかねえからな。



「ロウイはどうした! どこに居る!」


「わ、分かりません! 今朝から姿が見えず……」


「くそっ! いいからヤツらをさっさと片付けろ!」


「は、はいっ!」



 副頭領のロウイも見当たらねえ。

 こんな時にどこほっつき歩いてやがる。


 しばらくして屋敷内も騒がしくなってきた。

 ツェンが居る限り問題はねえだろうが、いくら糞強い竜人族ドラグォールと言っても所詮は一人だ。

 抜けてくるかもしれねえ。


 現に怒声と悲鳴が混じり合ってやがる。

 最悪だ。たかが基人族ヒュームやら糞種族どもの為に……!

 うだうだ言ってもしょうがねえ、俺は俺で迎撃の準備をして―――



 ―――コンコンコン



 誰だ? こんな時だってのに悠長にノックなんざ……


 返事も待たずに扉を開け、入ってきたのは

 ハルバードを二本も持った多肢族リームズ……!



「てめえ! 【黒屋敷】のメイドか!」


「勝手に入室しご無礼を」



 メイドはそう言って、丁寧な礼をする。

 今この時に似つかわしくない、王侯貴族に対するような一礼だ。

 なんなんだ、こいつは……。



「わたくし、セイヤ・シンマ様の侍女、エメリーと申します。ディザイ様で宜しいでしょうか」


「ああ、用件は何だ。まさか俺を殺ろうってのか? それとも【黒の主】からこっちに鞍替えか?」



 そう聞いたものの、答えは分かってる。こいつの狙いは俺の首だ。

 しかし問題ない。

 相手は四腕の多肢族リームズ、戦闘力は皆無。

 仮に魔道具で強くなってても、獲物はハルバード、しかも二本。

 この狭い部屋で振り回すような武器じゃねえ。

 つまり扱いも分からず持っているに過ぎない。


 俺は両手に持つ短剣の握りを確認しつつ、机を回り込み、ヤツの前に出る。



「ご冗談を」


「そうかい、そりゃ残念―――だっ!」



 美人だから捕らえたい所だが仕方ねえ。

 速攻で決める。

 俺は言い終わりと同時にメイドに突貫。

 二本の短剣で斬りつける。



 ―――ザシュッ!!!



 !?



 何かの衝撃を受けて俺は一瞬のうちに床に這いつくばっていた。

 何が起きた!?

 立ち上がろうとするが、立てない。何故だ!?


 遅れて両肩から激痛が走る。



 ―――俺の両腕が……ない……!?



「ぐああああっっ!!!」



 痛みで転げ回りたい、立ち上がらないといけない。

 しかし腕がなく芋虫のように蠢くしか出来ない。

 チラリと視界に入ったメイドを見れば、左右のハルバードを振り下ろした姿。


 俺の速攻より速く、あの長物を振ったってのか!

 しかも一瞬で俺の両腕を斬り飛ばすような斬撃を……二本同時に……!



「ここへ来た用件は、単に頭領の貴方を倒すくらいしなければ足りない・・・・からですよ。先ほどご主人様の目の前で失態をしましてね。その帳尻合わせです」


「……!」


「それと少し、憂さ晴らし・・・・・も兼ねていますが」



 笑顔を恐ろしいと思ったことは初めてだ。

 そしておそらくこれが最後。


 メイドはゆっくりハルバードを持ち上げて俺に告げる。



「遺言を聞く趣味はありませんが、私から一言だけ」



 頭目がけて振り下ろされるハルバード。

 俺は何も出来ず―――そこで全てが黒く染まった。



「私は侍女・・であってメイド・・・ではありません」



■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男

■23歳 転生者



「ハッハッハ! すごいじゃないか! こりゃ本物だ!」


「そりゃどうもっ!」



 右ストレートを受け止めた左手で、そのまま押し返す。

 開いた右手に持っていた刀を鞘に納めた。



「ん? 剣はやめたのかい?」


「あんただって素手だろ? 合わせただけだよ」


「ハハッ! おもしれえっ!」



 なんかこいつからは悪意とか害意とかが感じられない。

 用心棒って言ってたから構成員ではないのだろう。【鴉爪団】とはほぼ無関係なんじゃないだろうか。

 他のヤツらと雰囲気が違いすぎる。


 正直、皆殺し前提で乗り込んだんだが、こいつは殺したくないな。

 理不尽に対して力で抵抗ってのと、ちょっと違う気がする。


 それに美人だし。巨乳だし。



「そおらっ!」



 完全な格闘スタイル。

 殴る蹴る……いや、ほとんど殴るばっかだけど、かなり強い。

 こりゃエメリーが吹き飛ばされるわけだ。


 速さはそこそこ、膂力はおそらく<カスタム>したイブキと同等か若干下くらい。

 竜人族ドラグォールってのはとんでもないな。

 <カスタム>なしでこの強さってのは反則すぎる。


 おまけに軽く何発は入れてみたけど、防御力がヤバイ。

 あの蒼い鱗のせいか?

 碌に装備もせずに殴り合いしてるだけの事はある。



「あんたホントに基人族ヒュームかい? あたしは初めて見るんだが、聞いた話しじゃどの種族より弱いはずだ」


「間違いなく基人族ヒュームだよ。少し強いだけの、な」


「少しか! これだけあたしの攻撃防いでてよく言うよ!」



 俺達は殴り合いをしながら会話する。

 俺は躱したり防御しながら、腹目がけて軽く入れてるだけだが。



「あんただって強いじゃないか。竜人族ドラグォールってのはみんなこんなに強いのか?」


「あたしは強い方だったさ。村を出てからも敵なしだ。そして今回も―――勝つ!」



 スピードが上がった。

 ジャブのような速度で砲丸が飛んでくるようなもんだ。



「悪いがそれはない」



 俺はそれを両手で完全に防ぐ。

 竜人族ドラグォールが初めて目を見開いた。


 伊達にみんなの主人をやってるわけじゃない。

 俺の<カスタム>はイブキより強く、ネネより速く、エメリーより器用になっている。

 全ては主人としての威厳・・の為だ。



「くそっ!」



 完全に力負けした竜人族ドラグォールが焦れた。

 連撃の最後にくるりと身体をひねる。


 回し蹴り?

 ……いや、尾撃か!

 鋼の鞭とか生ぬるいもんじゃない。

 それは鱗に覆われた筋肉の塊。しなる・・・竜の尾そのもの。


 最終手段にして最大火力であろう、それを俺は―――



 ―――ガッ!!!



「うそだろっ!?」



 ―――片手で受け止めた。


 そのままガラ空きの胴めがけて、渾身の蹴りを見舞う。


 ―――ドゴオオン!!!


 竜人族ドラグォールは″くの字″のまま真横に吹き飛び、屋敷の壁を壊して、瓦礫に埋もれた。

 ……そのまま出て来る様子はない。

 たらりと汗が流れる。



「……やり過ぎた……か?」



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