1-10 〝現在地〟

 『〝ヒイロ・テンドウの生体情報を確認〟』

 『〝起動開始〟』


 金属板の表面に表示された文字を繁々と見つめる。

 そして表示された文字が消えて、表面の画面が切り替わる。

 するとそこには、閑散とした部屋の一室を背景にマークの異なるアイコンが三つ並んでいた。

 それはまるで、タブレット端末のホーム画面を想起させる物であった。


「おぉ……っ。凄い……けど、何でタブレット?」


 画面には其々マークの異なるアイコンが等間隔に三つ並んでいる。

 「天秤」のアイコンに「地図」のアイコン、そして「鎖ベルト」のアイコンの三種類。


 一先ず天秤のアイコンをタッチしてみる。

 すると――。



∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞


[ステータス]


 名前:天童陽色(ヒイロ・テンドウ)

 種族:異邦人

 年齢:20

 職業:――

 属性:時空

 位階:Ⅳ


[身体]


 位階:Ⅳ

 体力:D35

 膂力:E23

 耐久:A61

 器用:D40

 俊敏:E27


[精魂]


 位階:Ⅳ

 精神:A70

 魔力:E23

 魅力:C45

 幸運:E21


[エクストラスキル]


 固有スキル:〈獄天門ノ開放者〉

 禁手スキル:〈恒久ノ静謐ナル心域サンクチュアリ

       〈極致ノ求道者〉

       〈虚実空間ノ把握〉

       〈業ノ法則カルマシステム

       〈死生女神ノ血統因子ソフィーリア・ブラッド


[ノーマルスキル]



∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞



 画面が切り替わり、自身の能力値が表示された。

 ステータスという文字からして、まるで自分がゲームの世界に入り込んだみたいだ。

 それに文字は日本語だ。

 自分専用にカスタマイズされているのか?

 それとも、この世界にも日本語があるのかもしれない。

 何はともあれ、早速自身のデータを一通り見ていくが、よく分からない点が多い。

 詳細は出ないのかと「異邦人」の文字をダブルタップすると、その文字から吹き出しが出た。

 吹き出しの中には説明文が載っている。


 ※異邦人:獄天門を通過して異なる国、世界、次元から訪れた者。この世界の普人族とは特性が異なる。


 へぇ、あの門扉は獄天門っていうのか………。

 まぁ、この世界の住人と異なるのは当然と言えば当然か。

 序でに「獄天門」もダブルタップしてみる。


 ※獄天門(【獄天の審判門】):獄界と天界の異端者「――――」と「――――」の両名が両界の狭間に創造した審判の間へと繋がる門扉。


 成程、全く分からない。獄界と天界とは何ぞや、と何度もタップを試すが詳細は出なかった。

 異端者の名前も空欄になっている。

 あの門扉は未だ明かせぬ秘密があるという事だろうか。


 次の職業に関してだが、ここも空欄だ。

 「職業」を調べても詳細は出てこない。

 恐らく、向こうの世界で言う職業とは異なるのだと思われる。

 例えば、戦士や魔法使い、僧侶、拳闘士、遊び人等々。

 いつかは自分も何らかの職業に就くのか?


「……ギャンブラーになる気がしてならない」


 次に属性だが……これは魔法の属性か?

 火属性とか水属性とか言う魔法属性の事なのだろうか。

 それでそれが俺の場合時空属性、と。

 違う世界から来たから、この属性になったのかもしれないな。

 まぁ、魔法の習得方法も分からない現状では宝の持ち腐れとなってしまうが。

 

 次に位階だが……、これはランクという意味で捉えればいいのか?

 もっと分かりやすく言えばレベルか。

 それで、肉体と精魂にも位階の表示があると言う事は総合的な評価でⅣと言う訳か。

 個別に確認していくと、どれも基本的に低い数値だ。

 例外は耐久力と精神力に魅力の三つ。

 これには、祝福の力が関係しているのだろう。


 『獣を惹きつける魅力』が魅力を上昇させ、『受難に耐え凌ぐ不屈の精神』が精神力を、『鋼の如く強き肉体』が耐久力を強化したのだと思われる。膂力に変化が無いのは残念だが。


 さて、気になるスキルを調べようか。

 だが、その前に先ずはノーマルスキルの説明から。


 ※ノーマルスキル(スキル):訓練や学習、経験によって習熟した場合に発現される技能や特殊な条件を満たす事で獲得が可能となる特殊能力、生まれ持って有していた異能力などの総称。

 能力進化は無い。但し、上位スキルや下位スキルは存在する。

 【世界記憶庫】には無数のスキルが登録されており、初めて発現したスキルもまた登録される。


 成程。現状は一つも入手出来ていないが、経験を積めば何かしらのスキルを獲得可能、と。

 序でに、【世界記憶庫】も調べる。


 ※【世界記憶庫】:創世神「――――」が持つとされる、元始からの総ての事象、知識、想念が記録されている世界記憶の記録庫。


 ふむ。簡単に言えば、この世界の全てが調べられる図書館かな。それを創世神が所有していると。

 名前が伏せられてるのは、知られていないからか?

 それとも、口にするのを禁じられている?

 まぁ、畏れ多いと言うのもあると思うが。


 続いて、エクストラスキルを調べる。


 ※エクストラスキル:ノーマルスキルとは異なり、新たな能力の解放、能力の進化が可能となるスキル。

 神々の祝福や呪いなどを有する場合や特殊な外的要因によって肉体に影響を受けた場合に獲得可能な非常に稀少なスキル。


 そうか、やはりあの祝福は特別な物だったか。

 それが現状六個も取得出来ているというのは、喜ぶべき事なのだろう。

 まぁ、もしかしたら数十個のスキルを所持している人物なんてザラにいるかもしれないけど。


 さて、漸く所持スキルの確認が出来るな。

 〈獄天門ノ開放者〉をタップ――。



∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞


[獲得スキル一覧]


〈獄天門ノ開放者〉

・天童陽色独自スキル

・【獄天ノ審判門】を開放し、獲得

・複数の能力と時空属性を与える

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈多言語理解〉―【世界記憶庫】に登録された「共同体の用いる言語体系」を言語中枢に保存。

 多種多様な言語を理解し、会話が可能となる。

・〈懐獣伝心〉―獣が好意を抱く匂い(フェロモン)を体から発する。

 知能の高い獣と念話が可能となる。

・〈不老長寿〉―加齢による肉体の衰えが無くなる。

・〈武装召喚〉―体内の亜空間領域から以下のリンクアイテムを召喚、送還が可能となる。

【獄天門ノ装審鎖】

【古代ノ械誅時計】

【多機能型情報板】

【十二枚ノ神授跡板】


∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞



 ――おっ、画面が切り替わった!


 スキルに関しては吹き出しでは無く、別ページに飛ぶことができるようだ。

 さらに、スワイプをすると前のページに戻ることも出来た。

 改めて、このアイテムの凄さを再認識する。


 早速、スキル説明文を読んでいく。

 固有スキルで複数の能力を有し、能力の進化と追加も行われるかもしれないと記されている。

 そして、能力は〈多言語理解〉に〈懐獣伝心〉、〈不老長寿〉、〈武装召喚〉の四つだ。

 どれも有能そうな能力ではあるが……、この中で一番有難いのは〈多言語理解〉だろう。

 言葉を知らずに異世界に放り出されるのは余りにもハードだ。

 無かったらどうなるのだろう。想像するだけで恐ろしい。


 二つ目の〈懐獣伝心〉だが、これはいつか役に立つのか?

 小動物なら歓迎だが、大型のモンスターなんかに懐かれるのは勘弁だ。


 三つ目は〈不老長寿〉。

 まだ若い二十歳の年齢だから今一つピンとこないが、将来的にはこの能力に感謝する日が来るのだろうか。

 また、注意すべきは不死ではないという点だ。

 死ぬ時は誰しも死ぬ。そういう含蓄がある能力なのかもしれない。


 そして、最後に〈武装召喚〉の能力。

 この能力に表示されているアイテムは全て今身に付けている物のことだろう。

 【獄天門ノ装審鎖】が鎖ベルトで、【古代ノ械誅時計】が懐中時計、【多機能型情報板】がこのタブレットで、【十二枚ノ神授跡板】が十二枚の石板を表していると思われる。

 このアイテム群の詳細は非常に気になるが……、後で調べるとしよう。リンクアイテムという名称も。

 今は先に残りのスキルを調べる。

 


∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞


〈恒久ノ静謐ナル心域〉

・禁手スキル

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈絶対防御〉―本人の精神世界への洗脳や破壊、汚染攻撃を防ぎ、浄化を施す。


〈極致ノ求道者〉

・禁手スキル

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈点滴穿石〉―武芸、魔技等の成長限界を撤廃し、修錬を重ねる度に上達する。


〈虚実空間ノ把握〉

・禁手スキル

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈空間把握〉―周囲五〇m以内にある地形、建造物、生物の認識が可能となる。

・〈自動地図制作〉―【多機能型情報板】と連携し、地図の制作が可能となる。


〈業ノ法則〉

・禁手スキル

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈前因後果〉―善行を積むと幸運値が上昇し、悪行を積むと幸運値が低下する。

 善悪の判定は状況によって変化する。


〈死生女神ノ血統因子〉

・禁手スキル

・〈恒久ノ静謐ナル心域〉によって、死生女神ソフィーリアを含むその他多数の血統因子から作成された魔病毒を完全破壊する事が出来なかった為、死生女神の血統因子の一部の残滓を体内に宿したことから獲得

・本人の成長により新たな能力を獲得可能

・能力進化の可能性有り

[能力]

・〈再生〉―即死や重傷を除いた肉体の傷を自動で再生する。


∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞



 成程。〈恒久ノ静謐ナル心域〉、〈極致ノ求道者〉、〈虚実空間ノ把握〉、〈業ノ法則〉、〈死生女神ノ血統因子〉の合計五つの禁手スキルを現在所持しているのか。

 内容から察するに、『何人も侵すことのできない独立不羈の領域』=〈恒久ノ静謐ナル心域〉、『極みへと至る、無限の可能性』=〈極致ノ求道者〉、『旅の幇助となる鳥瞰の視点』=〈虚実空間ノ把握〉、『運否天賦を否定する汝に相応しい法則』=〈業ノ法則〉の四つが其々の祝福に対応したスキルとなっていると思われる。


 ところで、祝福で得た能力の内、〈獄天門ノ開放者〉に含まれた能力と個別でスキルとなった能力の違いは何だろうか。

 既出のスキルが存在していたかどうかの違いか?

 だが、〈多言語理解〉のような能力は既にスキルとして存在している気もするが。

 いや、それ以前に四つの禁手スキルが既出だと考えるのは早計か。俺の取得によって初めて登録されたのかもしれない。

 それとも能力としてのランク、か?

 禁手スキルに比べて、固有スキルは自分だけの能力であるから希少性はこちらに含まれる能力の方が高い。

 しかし、能力としての強さで見てみると禁手スキルの四つは圧倒的に上だ。

 文字通り、禁じ手に相応しい能力ではある。

 そう考えると……。

 スキルが既出か否かを別にすれば、強力な能力はスキルに振り分けられ、強力とまでは言えない能力若しくは希少性の高い能力は固有スキルに一本化されたと考えるのが自然か。

 まぁ、スキルかどうかはこの世界の意思とも言えるシステムが判定することだから、自分があーだこーだ言うべきことではないのかもしれないが。


 さて、そろそろスキルを確認していこう。

 まずは〈恒久ノ静謐ナル心域〉だ。

 能力は〈絶対防御〉。

 精神に対する攻撃を防ぐとあるが、恐らくゲームでは定番の魅了や錯乱、狂化、洗脳といった術を無効化する力があるのだろう。

 ただ、全ての精神攻撃を防ぐかは不明だ。絶対と名乗っているからには全てを無効にして欲しいものだが。

 

 次は〈極致ノ求道者〉。

 能力は〈点滴穿石〉。

 この能力は一言で言えば、鍛えれば鍛えるほど強くなるってことだろう。武術でも、魔法でも何でも。

 限界値が無いのは有り難い。いくらでも強くなり得るということだ。

 レベルがカンストすると、途端に満足してしまう性分だったからな。


 三つ目は〈虚実空間ノ把握〉。

 能力は〈空間把握〉と〈自動地図制作〉。

 〈空間把握〉は脳裏に地図のような物が浮かび上がるってことか?

 確認してみよう。

 〈空間把握〉を意識して……。


 ――〈空間把握〉を発動。


 すると、瞬時に脳裏に映像が浮かび上がる。


 おおっ…………分かる、分かるぞ。これは、もしかして自分か?

 聖火台の炎に照らされて、自分と思われる人の頭部が見える。

 視線を上げて天井を眺めると、映像に自分の顔が映った。

 まるで、鳥のように上空から俯瞰して見ている感じだ。何処に何があるのかがはっきり認識できる。

 あ……そう言えば、能力詳細には周囲五〇m以内の範囲は認識可能と記されていた。

 この視点の高さは一〇mも無い。もっと高く出来るのか?

 そう考えて、ズームアウトを意識すると次第に視点が高くなっていく。

 教会の屋根を突き抜けて、外からの教会の姿がぼんやりと見えた。


「――あれ?」


 だが、外は真っ暗の世界。当然何も見えない筈。


「そうか……、鳥の目だから人間の目と違って暗闇を視認出来るのか」


 一般的には鳥の目とはニワトリの目のことを指していて、暗い所での視認が難しいという意味であるが、実際の多くの鳥は夜間での視認は可能である、と以前本で読んだ記憶がある。

 勿論、昼間のように明るく視認出来る訳ではないが、僅かにでも物を認識出来るようになったのは大きな前進であろう。

 現状では、一番有り難い能力だ。


 ――〈空間把握〉を解除。


 次に〈自動地図制作〉を試してみる。

 「【多機能型情報板】と連携し、地図を制作可能」と記されているから、このタブレットを用いて地図を表示することが出来ると思われるが……。


「――あ、地図のアプリか」


 ホーム画面には、「地図」のアイコンが表示されていた筈。

 ホーム画面に戻りたいが……、使い方が分からない。

 試しに画面下からスワイプしてみる。

 すると、画面が縮小する様に消えてホーム画面に戻った。

 これは……、完全にタブレットだな。

 俺の記憶から作ったと言われても不思議ではない。

 そんな感想を抱きつつ、俺は「地図」のアプリアイコンをタッチした。


 画面が切り替わり、鈍色の雲のようなものが蠢く、霞がかった画面が表示される。


「……うん? これは……、どうすればいいんだ?」


 とりあえず画面をタッチするも特に変化は無い。


 ……あ、もしかして。


 ――〈自動地図制作〉を発動。


 その瞬間、再び指先から何かを吸われた感覚が生じた。そして――


 ――『〝〈虚実空間ノ把握〉の発動を感知〟』

 ――『〝【多機能型情報石板】への反映を開始します〟』

 ――『〝反映完了〟』

 ――『〝以後、自動で反映処理を行います〟』


 画面に未知の文字が表示された。

 そしてその文字が瞬時に消失すると、鈍色の雲のようなものが蠢く霞がかった画面から、霧が晴れるように新たに教会らしき間取り図が表れた。


「…………凄い。まさに地図だ」


 教会から墓地の周辺までが地図として表示されている。

 また、その範囲外は未だに霞がかかっている。


「これは……、俺が能力を解放してから通った場所の周囲五〇m以内を表してるのか?」


 そして、画面中央には青丸とそれを中心に周囲が薄青色で表示されていた。


「青丸が俺で、この薄い青色のエリアが周囲五〇m以内ってことか」


 それは記憶にある、地図アプリの機能に酷似したものであった。

 試しに歩いてみる。

 すると、地図上の青丸も移動した。


「いや、凄いなこれは。GPS搭載か?」


 人工衛星的な構造物があるのだろうか。

 まぁ、原理がどうかなんて今更か。魔法的な力が働いているに違いない。

 他に出来ることは何だろうか、と画面を弄ってスライドさせてみると――地図を動かすことに成功する。

 さらに、ピンチインやピンチアウトを行うと地図の縮小や拡大にも対応していた。


「何でも出来るんだなこのアプリは。……あ、これってどこまで縮小出来るんだ?」


 試しに、地図を更に縮小していくと――。


「――ブッ!!」


 周囲に宇宙空間が広がる、全面を雲に包まれた地球の様な球体にまで縮小することが出来た。


「いや……、ここまで表示出来るのか」


 高性能にも程がある。

 まぁ、この世界が惑星だということを確認出来たのは良かったが。

 地球平面説のような世界で無くて良かった。本当に。

 世界の果てなんて、想像するだけで恐ろしい。

 さて、とりあえず元に戻そう。当分、この球体図から地図を確認することは無いだろうしな。


「まぁ、若干この地図を完成させたい気持ちにはなったけど」


 ……広大にも程があるが。

 一先ずこれで〈虚実空間ノ把握〉の確認は終了だ。


 四つ目は〈業ノ法則〉。

 能力は〈前因後果〉。

 説明欄を読むも、この能力は扱いに困りそうだ。

 善悪の行動によって幸運値が変動するのは兎も角、その判定が状況によって変化するのでは安易に行動することすら憚られることになってしまう。

 この「状況によって変化」とは、つまり簡単に言えば正しい行為が常に善行とは限らないという意味であろう。

 正しいと思った行動が実際は誰かを傷つける結果に終わってしまったというのは往々にして良くある話だ。

 問題は、善と悪を簡単に二分には出来ない事だ。

 どうやって判定するのか、その基準すらも分からないがこの世に完全な正義は存在しないのだ。

 善行の陰で誰かは傷付き、悪行の陰で誰かは喜んでいる。

 必ず比較衡量する事となるだろう。

 

「…………いや、めんどくさ」


 思わず思索に耽ってしまった。

 まぁ、結局のところ判断をシステムが決めるのならば自分にはどうすることも出来ないのだから、気にせず自分は自分の正しいと思うことをすればいいのだ。

 それでいこう。

 元々幸運値は低いのだから。

 大切なのは、最大多数の最大幸福が常に正しいとは限らないという事だけ。

 これを肝に銘じておけば、自分の判断にブレることはないだろう。


 最後は〈死生女神ノ血統因子〉。

 能力は〈再生〉。

 軽度の傷を癒す能力だ。

 〈恒久ノ静謐ナル心域〉の能力のお陰でこのスキルを獲得出来たようなので、偶然の産物と捉えるべきであろう。

 それにしても、魔病毒か……。

 化物に喰われたことによって体内に侵入したということは、化物達は感染していたということだ。

 恐らくウイルスのようなものがこの国を汚染して、人間を化物に変化させたのだろう。闇で覆うと同時に。

 恐ろしい術だ。全く。

 民族浄化に至る手段を戦争の為に用いたのだ。

 死生女神ソフィーリア、か。

 敵国を利用したのか、それとも利用されたのかは不明だが……。

 名前は覚えておくとしよう。

 

 さて、残りはアイテムだけだ。

 再びステータス画面を開き、そこから[獲得スキル一覧]に飛んで【獄天門ノ装審鎖】をタップする。

 


∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞


[リンクアイテム一覧]


【獄天門ノ装審鎖】

・不壊アイテム

・リンクアイテムの装備が可能となる

・現在、以下の三点のアイテムを装備可能

 【古代ノ械誅時計】【多機能型情報石板】【十二枚ノ神授跡板】


【古代ノ械誅時計】

・不壊アイテム

・様々な機能を有する

[機能一覧]

・時計―現在地の時刻を表示する。起動、修正には太陽光が必要。

・羅針盤―契約者の望む場所へと導く事が可能。

・武器化―長剣、短剣に変化可能。


【多機能型情報石板】

・不壊アイテム

・リンクアイテムと連携し、様々な機能を解放出来る

[機能一覧]

・ステータス―契約者のステータスを表示する事が可能。

・アイテムカスタマイズ―リンクアイテムの装備位置を変更する事が可能。

・ワールドマップ―〈虚実空間ノ把握〉と連携して、地図を表示する事が可能。


【十二枚ノ神授跡板】

・神遺物

・―――――――――


∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞†∞∞∞



 画面が切り替わり、[リンクアイテム一覧]が開かれた。

 早速、リンクアイテムを調べてみる。


 ※リンクアイテム:精魂で結ばれたアイテム。契約者以外には使用不可。不壊の性質を持つ。体内の亜空間領域から召喚、送還が可能となる。


 成程……。瞬時に召喚でき、盗難の心配もないアイテムか。最早、体の一部と言ってもいいだろう。

 だが、契約はどうやって行うのだろうか?

 魔法? それに、アイテムならどれでも可能なのだろうか?

 契約の仕方は記載されていないから現状では不明だが、いずれ誰かに教えてもらわなければ。


 さて、そろそろアイテムを確認しようか。

 先ずは【獄天門ノ装審鎖】。

 リンクアイテムをこのベルトに装備可能で、今は三つ装備している。

 瞬時にアイテムを再装備できるから、便利なアイテムには違いない。


 次に【古代ノ械誅時計】。

 機能は時計に羅針盤、そして武器化だ。

 武器化……どうやら、祝福の『時空を超えし汝に相応しい武器』とはこの懐中時計のことだったようだ。

 試してみないと分からないが、これで漸く武器を入手する事が出来た。

 格闘経験の無い自分には唯一の攻撃手段だ。

 今後、長い付き合いとなるだろう。

 当然ながら、時計機能も付いている。

 太陽光が必要とあるが……、今のところはどうしようもない。なんせ真っ暗なのだから。

 そして、もう一つの機能である羅針盤だが……。

 これは例えば、東京駅と言った具体的な場所だけで無く、綺麗な湖といった抽象的な場所にも導く事が可能ということだろうか……。

 仮にそうだとしたら、この時計はとてつもない能力を有していることになる。

 今後の命運を左右する大切なアイテムとなるであろう。


 三つ目は【多機能型情報石板】。

 現在このタブレットで出来ることはステータスの確認に、アイテムの装備設定、地図の表示の三点だ。

 この世界の住民にとってステータスという概念や確認方法が存在しているのかは分からないが、ゲームに慣れ親しんだ平成生まれにはステータスを確認出来るというのは心が躍る展開なのだ。

 他にも、アイテム装備の設定に地図の作成と遊び心が詰まったアイテムとなっている。

 端的に言って、最高のアイテムだ。『汝の現在地を知る道具』とはよく言ったもの。

 今後もまた、新たな機能が追加されるかもしれないので非常に楽しみだ。


 最後に【十二枚ノ神授跡板】。

 詳細は不明。現状はこのアイテムの名称だけしか分からない。

 神遺物であるからには、それ相応の力を持っていそうだが……。

 いつかこのアイテムが、俺の助けとなる時が訪れるのかもしれないな。


 よし。こんなもんかな。

 他に確認しておくことは、アイテムの装備設定についてだけだ。これは恐らく、ホーム画面にある「鎖ベルト」のアプリアイコンで詳細が確認出来るのだろう。

 スワイプしてホーム画面に戻り、「鎖ベルト」のアイコンをタッチすると――画面が切り替わって、「鎖ベルト」の精巧な絵が現れる。

 続いて【古代ノ械誅時計】、【多機能型情報石板】、【十二枚ノ神授跡板】も出現し、ベルトに装備される。

 その装備位置は現実の装備位置と同じであった。

 しかし、これ以降画面に変化は表れない。

 どうやって変更するのだろうか?


「こういう時は大抵……」

 

 試しに懐中時計をドラッグしてみると、自由に動かす事に成功する。

 そして、ベルトの左側に移動させタブレットの横にドロップすると――瞬時に、現実の懐中時計がベルトの左の位置に装着された。

 画面の懐中時計もまた、その位置に移動して配置されている。


「……最早完全にタブレットだな、これは」


 まぁ、便利だしこっちの方が手慣れてる。深くは考えないでおこう。

 懐中時計の位置を元に戻し、操作を終える。

 これでタブレットの確認は全て終了だ。

 画面を消そうと思うのだが……、スリープするにはどうしたらいいんだ、と思考すると――。


 ――瞬時に画面が元の石板に戻った。


 おお、相変わらず便利だ。

 さて、後は懐中時計の機能を確かめたいのだが……。

 流石に眠たくなってきた。どうやらワインの酔いが回ってきたようだ。


 よし、とりあえず休むか。

 目覚めたら、懐中時計の羅針盤と武器化を試した後に教会を出発だ。

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