0-2 〝扉を潜し者、一切を捨てよ〟II

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 巨大な門扉に吸い込まれる様に消えた男――天童陽色は気付けば円形の神殿の様な空間に立っていた。

 舞台の奥には祭壇が設置され、その上に天秤が祀られている。

 外部には暗闇が広がり煌然と輝く星の光が点在。

 彼は周囲を睥睨し、視線を正面の祭壇に向け直す。

 すると空中に光が集まっていき、光り輝く巨大な未知の文言へと形を変えた。

 

『〝此処ハ審判ノ間〟』


『〝此ヨリ汝ニ問掛ヲ行ウ〟』


『〝十二ノ名モ無キ獣ノ問イニ答エヨ〟』


 輝く未知の言葉は次々と消えては新たに現れていく。

 そして最後の言葉が消えると、舞台から複数の巨大な光の珠が誕生した。

 その珠は円を描く様に配置されていき、一瞬の強き閃光を放つと――その場所には十二枚もの巨大な石板が誕生していた。


 【 歯長き獣 】

 【 角巨き獣 】

 【 牙鋭き獣 】

 【 耳長き獣 】

 【 空昇る獣 】

 【 地這う獣 】

 【 地駆る獣 】

 【 角丸き獣 】

 【 肢長き獣 】

 【 羽撃く獣 】

 【 尾長き獣 】

 【 鼻輝き獣 】


 石板の表面には其々異なる獣の姿が刻まれており、両目に当たる部分には色の異なる宝石が埋められていた。

 そして、そのうちの一つである正面に置かれた石板が円上から離れて目の前に現れる。

 それは【 歯長き獣 】であった。


『 Ⅰ 〝人ガ神カラ与エラレタ一番ノ武器ヲ述ベヨ〟』


 再び宙に文字が浮かび始めた。


 陽色は答える。


「――思考だ」


「人間は弱い。しかし、人は頭を使って考えることができる。これこそが、人間に与えられた武器だ」


 彼がそう答えると、石板は再び円上に戻った。

 そして、同時に新たな石板が円上から離れてヒイロの前に現れる。

 それは【 角巨き獣 】であった。


『 Ⅱ 〝長ク険シイ道ヲ進ム覚悟ノ有無ヲ答エヨ〟』


 そして、また新たに文字が浮かぶ。


 陽色は答える。


「――有る。どれほど困難でも必ず踏破してみせる」


 彼が答え終えると石板は戻り、また新たな石板が現れる。

 三番目は【 牙鋭き獣 】。


『 Ⅲ 〝他者ヲ信ジル可キカ疑ウ可キカ、正シイノハ何方カ答エヨ〟』


「――疑うのが正しい」


「信疑とは対の概念ではない。無為に信じる事、それ即ち思考放棄に当たり、真の信じるという行為は疑いの先にあるものである」


 四番目は【 耳長き獣 】。


『 Ⅳ 〝勇敢ト蛮勇ハ異ナル。戦イカラ逃走スル覚悟ノ有無ヲ答エヨ〟』


「――有る。それが、勝利に繋がるのならば」


 五番目は【 空昇る獣 】。


『 Ⅴ 〝弱者ト強者、何方ト戦ウ可キカ答エヨ〟』


「――強者だ」


「弱者との戦いでも得るものはあるだろう。しかし、強者との戦いはより多くを得ることが出来る。」


「それに何より、強者との方が面白い」


 六番目は【 地這う獣 】。


『 Ⅵ 〝秩序ト混沌、善ト悪、光ト闇。相反スル二ツノ性質ノ内、何方ヲ尊ブカ答エヨ〟』


「――どちらもだ」


「世界は釣り合って出来ている。秩序に傾けばその中から新たな混沌が誕生し、悪に傾けばさらに光が誕生する。世界はこうして成り立っている。故に、選ぶべきは中庸だ」


 七番目は【 地駆る獣 】。


『 Ⅶ 〝勝負ニ於イテ最モ大切ナ事ヲ述ベヨ〟』


「――勝つことだ」


「潔く負けを認めることよりも、見苦しくても勝つことに拘る。それが勝負の鉄則だ」


 八番目は【 角丸き獣 】。


『 Ⅷ 〝愛スル者ノ為ニ犠牲ヲ払エルカ否カ答エヨ〟』


「――払える。それが愛だから」


 九番目は【 肢長き獣 】。


『 Ⅸ 〝絶望ノ最中、再ビ立上ガル覚悟ノ有無ヲ答エヨ〟』


「――有る。例え絶望に打ちひしがれようとも、最後には必ず前を向いて見せる」


 十番目は【 羽撃く獣 】。


『 Ⅹ 〝籠ノ鳥ハ幸セカ否カ答エヨ〟』


「――不幸だ」


「勿論、外の世界が鳥にとって幸せとは限らない。ただ、自分が鳥ならば自由に空を飛びたい」


 十一番目は【 尾長き獣 】。


『 Ⅺ 〝剣ト盾、何方ヲ手ニ取ル可キカ答エヨ〟』


「――盾だ。剣も必要だが、死んだら終わりの世界では盾が最も重要となる」

 

 十二番目は【 鼻輝き獣 】。


『 Ⅻ 〝運ハ待ツモノカ拾ウモノカ、何方カ答エヨ〟』


「――運は拾うものだ。行動しなければ、幸運の女神は振り向かない」


 そして、最後の石板が円上に戻っていくと――。


『〝此ニテ審判ヲ終エル〟』


 再び宙に巨大な文字が浮かび出した。


『〝汝ニ祝福ヲ与エル〟』


 直後十二枚の石板から小さな光の珠が放出され、問いに答えた順に陽色の身体の中へと吸い込まれるように入っていく。

 そして、光の珠が体に吸収されると同時に頭の中に声が響いていく。


『――異界の言語を理解する能力を』

『――獣を惹きつける魅力を』

『――汝の現在地を知る道具を』

『――旅の幇助となる鳥瞰の視点を』

『――極みへと至る、無限の可能性を』

『――時の流れに逆らう不老の身体を』

『――時空を超えし汝に相応しい武器を』

『――苦難の道を歩む汝に相応しい装身具を』

『――受難に耐え凌ぐ不屈の精神を』

『――何人も侵すことのできない独立不羈の領域を』

『――鋼の如く強き肉体を』

『――運否天賦を否定する汝に相応しい法則を』


 連続して異なる声色の言葉が響いていった。

 そして、最後の光が身体の中へと消えていくと空中に再び文字が浮かび上がる。


『〝最後ニ、開放者デアル汝ニ神遺物ヲ授ケル〟』


 祭壇から小さな箱が光に包まれて、浮かび上がる。

 そしてそれは、再び彼の身体の中へと入っていった。


『〝此ニテ開放者ノ再構築ヲ開始スル〟』


 突如として、舞台に亀裂が入る。同時に空間全体が震動し始めた。亀裂は拡大していき、穴が広がっていく。

 そして――終には陽色の足場にも拡大し、彼は穴の中へと落ちていった。




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 穴の中は果てしない星々が煌めく宇宙的空間が広がっていた。

 そして、落下中の陽色の眼前に新たな文言が浮かび始めた。


『〝心体ノ破壊ヲ開始〟』


 突如、陽色の胸元から複数の光が放出される。それは十三個の小さな光の珠で、鎖や金属板、懐中時計、箱型のケース等が存在していた。

 続いて、彼の体から闇が広がっていく。

 広がった闇はやがて肉体を覆い隠し、肉体を闇へと変えていく。

 そして、一体化した闇は形を整えて球体の形を象った。


『〝精神、肉体、能力及ビ武装ヲ附与〟』


 体から放出された複数の光の珠もまた一点に集結し、一つの光の球体へと形を変えていく。

 そして、光と闇の球体は向かい合うように並び――融合されていく。


『〝異邦者ヒイロ・テンドウヲ再構築〟』


 相反する二つの球体は反発し、分離しようと暴れるが――やがてそれら二つは混じり合い銀色の球体へと変化を遂げた。


『〝再構築完了〟』


『〝異界デュオデシムヘ接続〟』


 突如宇宙的空間に巨大な門扉――【獄天ノ審判門】――が出現する。


『〝接続完了〟』


『〝【獄天ノ審判門】ヲ開門〟』


 門扉がゆっくりと開門していく。

 扉の先から、眩いばかりの光が洩れ出す。

 光は瞬く間に暗闇を塗り潰し、空間を侵蝕していく。


『〝開門完了〟』


『〝潜レ 開放者タル異邦者ヨ〟』

 

 そして、銀色の球体――天童陽色――は門扉を潜った。




『 ⅩⅢ 〝世界ヲ 解放セヨ〟』




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