第51話
国ごとの戦力が模擬戦や交流試合で表され、その結果が国際的な立ち位置に影響を及ぼす。とはいえ、俺がプレイしていた時は「イベントの一つ」として軽く流していた記憶がある。
国の評価をあげれば、国からの支援が増えて、ゲームの難易度が簡単になる程度の認識だ。
「ですから、レイスさんに、参加してほしいのです」
「俺が参加しなければならない理由があるのですか? 他にも、優秀な生徒はいるのではないですか?」
「……それが実は、メルトフィア王国の評価が年々下がっているんですよ」
……まあ、そうだよな。
ゲーム本編でも、俺たちが所属するこの国は評価が低い。
だからメルトフィア王国の一人として、原作主人公は国の評価を上げていくのも一つの目的だ。
「学園での模擬戦は年に何度か行われるのですが……メルトフィア王国はもうずっと最下位のままです」
「……それは、なんというか。大変、ですね」
もちろん、知ってはいるのだが苦しそうな表情で言われるものだから、俺も似たような反応をとりあえずは返しておいた。
メルトフィア王国はガチで弱いんです。でも、「今年入るはずの原作主人公がいるから大丈夫ですよ!」とは言えないよな。
「正直なところ、困っています。模擬戦で国力の全てを測定するわけではないとしても、連続で何度も負け続けているとなると……さすがに評価に関わりますから」
そりゃ、王国としては……頭が痛い問題だろうな。
「入学して一ヵ月後に行われる大規模模擬戦。そこに是非とも……メルトフィア王国の若き最強を送りたい。それが父の願いです」
「なるほど……」
めっちゃ、期待されてるじゃん……。
「というわけで、お願いしてもいいですか?」
「フィーリア王女が参加しても……良いのではないですか?」
フィーリア王女だってなかなかの腕前だ。ゲーム本編に出ているわけではないので、どこまで勝ち進めるか分からないけど、良いところまでいけるのでは?
あるいは、原作主人公がどうせいるのだし、なんとかなるよ、と拒絶したい。
「私は……ダメだそうです」
「なぜですか?」
「父が心配だから! と」
……親バカめ。
「……今年の入学者に、有望そうな人はいなかったのですか?」
「面白い人はいましたが……どうでしょうか? 少なくとも、スタンピードを一人で抑え、凶悪な魔物を退けられるほどの力はないかと思います」
……それが、基準になってしまうのか。
頑張りすぎたのか、俺は。
「だからこそ、レイスさんに入学していただきたいのです。スタンピードを収めた英雄であり、ヴァリドール領を守り抜いたレイスさんならば、国の代表として相応しい、というわけです」
フィーリア王女がじっとこちらを見てくる。
原作主人公と関わる機会が増えれば、それだけ俺の破滅フラグが生える可能性があるわけで、いかにして回避するかを考えていく。
ただ、難しい。
領地の管理は……ほぼ部下に任せきりだ。もしも用事があるなら、その時だけ領に戻ればいいだろう。
……他貴族との交流と色々あるわけだが、正直言えば面倒だ。
それらは、学園に入学するからといえば回避可能だよな。
……前向きに考えてみようか?
ゲーム本編では、レイスくんが原作主人公に突っかかっていったから、バッドエンド直
行したわけだが……今の俺は冷静だ。
自らそんなことをするわけがない。原作主人公にだって、目をつけられることもないだろう。
……大丈夫、か?
前向きに考えるなら、聖地巡礼ができるようなものだしな。
……うん。せっかく好きなゲーム世界に転生したわけなんだから、多少はこの世界を楽しみたい気持ちもある。
「メルトフィア王国の未来がかかっているのです。あなたの活躍が国を救うかもしれません」
……それに、王家に恩を売っておいて損もないだろう。
俺は破滅フラグを回避したい気持ちはもちろんあるが、将来ラクして生活するための基盤作りだってしたい。
「……分かりました。他でもないフィーリア王女の頼みですし、ぜひ力になりたいと思います。推薦枠で入学すればいいんですね?」
「はい。レイスさんならきっと素晴らしい結果を出してくださるでしょう」
フィーリア様はにっこりと微笑んだ。
……笑顔が眩しい。フィーリア様はいいよなぁ、もう、破滅フラグを回避してるんだから……。
俺も、笑顔を返してはいたが、たぶん引き攣ったものになっていたはずだ。
話は以上のようで、それからは軽く雑談を行い、フィーリア様は屋敷を去っていった。
フィーリア様が帰った後、俺は自室へと移動して、しばらく学園のことについて考えていた。
ぽかぽかとした暖かな部屋の中ではあったが、俺の心には不安の陰が表れていた。
「……学園かぁ」
一人つぶやきながら、ソファに身を沈める。
ルルティア学園都市──原作の舞台であり、破滅フラグがゴロゴロ転がる場所だ。
今思い返せば、ゲーム自体がわりとバッドエンドも多めだしな。ゲームやっているときは、すぐにコンティニューができたので気にもしていなかった。
……行けば確実にゲーム本編のイベントに巻き込まれることになる。
模擬戦や交流戦、貴族派閥のゴタゴタ。あとは、世界を恐怖に陥れようとしているゲームでの敵役である魔族たちと関わっていくことになるだろう。
彼らは中ボスだったりラスボスだったり……どこかしらで、俺の前に立ちはだかる。
一歩間違えれば、命の危険もあるんだよな……。
「断る選択肢があれば良かったんだけどな」
前向きに考えようとはしたが、それでもため息を吐きたくなる部分もある。
国王まで絡んでいる以上、俺が断ると印象は良くないだろう。
ヴァリドー家の今後を考えれば、この選択は間違いではないはずだ。
むしろ、ここで無理に断れば王家との関係も悪化する可能性がある。そちらの方が、この先の人生で問題だ。
なので、今はどうにか穏便に学園生活を送る方法を考えるべきだろう。
そんなことを考えていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。
「レイス? 話は終わったの?」
聞き慣れた柔らかな声が、静かな部屋に響いた。
リームだ。
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