第50話
「レイスさん。領地も落ち着いたことですし、ルルティア学園に入学しませんか?」
昼下がりの穏やかな陽射しが、屋敷の広間を優しく照らしている中、俺の目の前にいたフィーリア第二王女は笑顔とともにそう言ってきた。
美しいはずのフィーリア様が、今は悪魔に見えてしまう。
ルルティア学園都市──それは、ゲーム本編の舞台となる巨大都市であり、各国の未来の英雄を育てる場だ。
その学園に通える生徒はそれはもう大変名誉なことなのだが……俺にとっては「関わりたくない場所ランキング第一位」でもある。
なぜこんな状況になってしまったのか。答えは簡単だ。
フィーリア王女は、俺が前回のスタンピードを解決してから、やたらと目にかけてくれている。領地運営に関しても、足りない人員などを手配してくれたりと困った時に力を貸してくれていた。
俺としても助かることばかりでよかったのだが、それがまさかここに繋がる伏線だとは思いもしていなかった。
しかし、俺はまだそこまで焦りはなかった。
すでに今年度の入学試験は終わっている。
つまり、入学するにしても来年の部になるわけだ。
学年が違えば、俺と原作主人公の接点もなくなるわけで、そうなれば俺の破滅フラグが生えることもなくなるだろう。
そもそも、一年後であればすでに、ゲーム本編は終わっているわけだしな。
「ルルティア学園ですか。確か、もう試験は終わっていますよね?」
「ええ、終わりましたわ」
「ということは来年の部でしょうか?」
確認は大事だからな。ここで、フィーリア様が頷けばそれでこの話は終了だ。
勝ちを確信し、内心で笑みを浮かべていると。
「推薦枠がありますので、今年の部でも入ることができるんです。ですので、どうでしょうか?」
俺の内心の笑顔が固まってしまった。
なにそれ!? 推薦枠!? 確かにゲーム本編でもそんな設定はあったな。
原作主人公とは全く関係なかったので気にもしていなかった。
内心焦りまくっていたが、俺は落ち着いた雰囲気を出して口を開いた。
「推薦枠、ですか」
「ええ。特別に成績優秀な者や、功績のある者に与えられる枠です。レイスさんにはぴったりでしょう?」
いやいやいや。
それは恐らく、スタンピードでの活躍のことを言っているんだろう。
……まさか、自分の破滅エンドを回避しようとした行動が、こんなところに響くとは思っていなかった。
内心めちゃくちゃ焦りながらも、表向きは務めて冷静に。こう言ったポーカーフェイスは、リョウで鍛えられている。
フィーリア王女からの申し出は名誉なことなわけで、表向け拒絶するのも失礼だ。
「とても名誉なことで嬉しいのですか、今は領地経営もありますし、自分ではなく他の方に推薦枠を使っていただいたほうがいいのではありませんか?」
やんわりとした拒否。社会人ならば察してくれるだろう程度の断りに対して、フィーリア王女は何やら感動した様子である。
「そう、謙遜なさらず」
ガチめの拒絶ですが?
反論の言葉を言う前に、フィーリア様が続ける。
「レイスさんであれば問題ないと父も話していましたから」
オーマイガー……。フィーリア王女だけならまだしも、国王までも言っているとなるとさすがにそれに反対するのは難しいぞ。
「なぜ、俺なんですか?」
「それについて話すには、学園都市での役割についてから話さないといけませんね」
フィーリア様は静かに椅子の背もたれに身を預けた。優雅に脚を組み、そのまま俺を見つめる。
学園都市の役割は知っている。
学園都市では未来の英雄とも呼べる戦士を育成する場だ。
各国の将来有望な人たちが集まり、互いに切磋琢磨していく……というのが一応の理由だ。
「ルルティア学園都市は、各国が共同出資し、未来の人材を育てるために作られた場所です。ご存じですね?」
「まあ、一応は」
ゲーム本編でもルルティア学園都市は主人公の拠点の一つとして、重要な場所だ。
だからこそ、関わりたくないのだが。
「ですが……学園都市は、単なる教育の場ではありません。各国が自国の戦力を誇示し、国際的な力関係を示す場でもあります」
……そのままそれが国力のアピール、というわけにはならないが、将来を担う若者が集まる場所で、力を示せないと……まあ、他国からは舐められることも増える。
そこに集まった人材が、数年後国の中枢へと入っていくわけだからな。
「要するに、学園内での成績が国の評価に多少は繋がるってことですよね?」
「ええ。その通りです」
ゲームでもあった要素と大きく違いはないだろう。
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