第33話
計画通りに武器の新調ができたので、俺は内心で小躍りをしていた。
「それじゃあ、もうここでやることも終わったし、一度家に戻るか」
「……うん……お願い」
ヴィリアスは連続で鍛冶を行ったからか、なんだか疲れた様子だ。
……とりあえず、ここまで無理に付き合ってもらったわけだし、家に送り返さないとな。
俺はすぐに空間魔法を展開し、ヴィリアスの家へと移動する。
ダンジョンの独特の空気から解放されると、体がなんだか軽くなる気がする。それはヴィリアスとイナーシアも同じだったようで、あくびまじりに体を伸ばしていた。
それが終わったところで、ヴィリアスがぽつりとつぶやいた。
「……私、また武器を作れるみたい」
「みたいだな。これから店でも開くのか?」
ヴィリアスの鍛冶としての腕を活かすなら、それが一番だろう。
しかし、ヴィリアスは迷った様子で視線を下げる。
「……でも、いきなり店を持っても……売れるかどうか分からない」
「ヴィリアスの腕なら大丈夫だとは思うが。ミスリルの加工もできるんだしな」
……そもそも、ゲーム本編ではミスリルの加工ができる鍛冶師自体が極端に少なかった。
この大陸にいる人にはヴィリアスとあと数名程度しかいないわけなので、ミスリルの加工ができるだけでも需要はあるだろう。
特に、ヴァリドール近くにちょうど鉱山として使えるダンジョンもあるんだからな。
「そもそも……私は接客は苦手」
「……なるほど」
「……それにここは……ヴァリドー家の領内。どうせ店を持つなら、別の場所がいい」
……あーね。
ヴィリアスの言葉に、イナーシアも頷いた。
「まあ、ヴァリドールで商売するのは大変よね。ほんと、ヴァリドー家が最悪だし」
……すんません。
「……うん。私の師匠の時代はそこまで影響なかったけど、今は……税が酷いから」
……すんません、ほんとに。
ただ、このままヴィリアスに街を離れられると困ってしまう。
少なくとも、ゲーム本編では復興中のヴァリドールにヴィリアスはいたわけだしな。
第一……俺が気軽に買い物に来るとしても、ヴァリドールにいてくれた方が助かる。
何とかして彼女を繋ぎとめることはできないだろうか……。
しばらく必死に考えた俺は、ある秘策を口にする。
「それなら……レイス・ヴァリドーのもとを訪れてみたらどうだ?」
「……誰?」
「ヴァリドー家の三男だ。俺が個人的に彼に魔法の指導を行っているが、彼は他のヴァリドー家とは少し違う」
じ、自分でこれを言うのは少し恥ずかしい思いがあった。
しかし……兵士たちの武器を改善するためのいい機会でもある。
……あとは、ザンゲルたちにうまく話をして、どうにかお金を捻出できれば……それが一番だ。
「……レイス・ヴァリドー」
ヴィリアスがぽつりとその名前を口にすると、イナーシアが不安そうに問いかけてくる。
「そのレイスってやつ、大丈夫なの、本当に?」
お前はそのやばそうな相手に甘えてんだぞ? と言ってやりたいものだ。
「大丈夫だ。表向きは粗暴に振る舞っているが、それはあくまで周りに不審がられないようにするためだそうだ。彼も空間魔法が使えるので、俺が指導しているのだが……少なくとも悪い人間ではないぞ?」
「レイス・ヴァリドーに会ったら……何かある?」
「……今、兵士たちの武器に関して悩みを抱えているそうだからな。店を開くのではないが、直接そこで武器の作成や手入れに関わって、直接金銭面での交渉ができるはずだ」
「……なるほど」
ヴィリアスは少し考えるように頷いている。
……あんまりお金があるわけではないが、俺が冒険者活動で貯めているお金や屋敷の中にある不必要なものをこっそりと捌いていけば、多少は工面できるはずだ。
「でも、レイスって三男って言っていたわよね? そこまでの権限ってあるの?」
「……まあ、そこまではない。ひとまず、俺からレイスに話をして、そこから兵士長のザンゲルに話を通してみよう。一度会って、話を聞いてみるだけでもどうだ?」
「……うん、分かった」
ヴィリアスがこくりと頷いた。そもそも、ヴァリドー家が過剰な税による締め付けを行っているのが原因なのに、こんな話をしているのはな。
……ま、まあでもヴィリアスは接客が苦手だと言っていたし、ヴァリドー家と専属契約のようなものを結べるのなら、その方がきっとヴィリアスにとっては悪くはないはずだ。
そんなことを考えていると、ヴィリアスが小さく微笑んできた。
「……リョウ、ありがと」
「俺も、色々と作ってもらって助かった。また今度、武器を作ってもらってもいいか?」
「その時は、また私の自己肯定感を高めるように褒めたたえてほしい」
「……了解」
まあ、その程度でいいのなら安いものだ。
嬉しそうに笑う彼女に視線を向けてから、俺は彼女の家の外へと向かう。
「またきてね」
「ああ、また」
「イナーシアも、いつでも掃除に来て」
「普段から、ちゃんとしなさいよ、まったく」
じろり、とイナーシアがヴィリアスを睨むが、ヴィリアスはまったく気にした様子はなかった。
……とはいえ、この家を訪れたときよりも彼女の笑顔はどこか輝いていた。
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