第32話
ダンジョンの最奥まで来ていた。
ヴィリアスは完全に一人の世界に入ってしまい、俺たちに同行こそしているがずっとミスリルと向き合っている状況だ。
まあ、それで何か新しい武器でも作れるようになってくれればそれでいい。
ダンジョンの最奥に到着した俺は、そこで姿を見せたキングミスリルゴーレムと対峙していた。
ミスリルゴーレムを一回り大きくして、頭の部分に王冠をのせたような見た目をしている。
「……うわ、このミスリル持ち帰れたら凄いことになりそうね」
「……だな。ひとまず、途中までは俺一人で戦闘する。イナーシアはヴィリアスの警備にあたってくれ」
「分かったわ」
こくりと頷いたイナーシアに、ヴィリアスを任せ、俺はキングミスリルゴーレムと向かい合う。
……このダンジョンに入ってからだいぶ、レベルもあがったみたいだからな。
キングミスリルゴーレムと今の俺がどこまで戦えるか。楽しみだ。
まずは通常通り、グラディウスでの戦闘を開始する。
ダメージ自体は通っているようだが、恐らく微々たるものだろう。
「ガアアア!」」
苛立った様子で腕を振りぬいてきたキングミスリルゴーレムの攻撃をかわしつつ、俺は冷静にグラディウスを振りぬいていく。
……ダメージは通る、が時間はかかる。
空間魔法で攻撃してもいいのだが……これは一応、ヴィリアスの悩みを解決するためのストーリーイベントでもある。
俺の空間魔法をぶち当てて仕留めました、ではヴィリアスの成長には繋がらないだろう。
なので、俺はグラディウスでちくちくと削っていく。
地味な戦いにはなるかもしれないが、こちとら色々なゲームをプレイしてきた身。
この程度の作業、別に苦でもなんでもない。
とはいえ、後方にいる二人には違うように見えているようだ。攻撃を回避したときにちらと視線を向けると、どこか不安そうな様子だった。
……特に、ヴィリアスだ。今俺が使っている武器は彼女が作ったものだ。
それが、あまり通用していないのを見ると、不安に感じる部分もあるのかもしれない。
……いい、傾向だ。
このキングミスリルゴーレムとの戦いは、イベントバトルでもある。一定の体力まで削ると、ヴィリアスが持っていたミスリルを使って新しい武器を作ってくれる。
戦闘の後半は、そのミスリル製のもので行っていくようになる。
……ひとまずは、このまま戦闘を続けていくとしよう。
そんなことを考えていたときだった。
キングミスリルゴーレムの動きが加速する。……おっ? これはもしかして、イベントバトルにあったやつだろうか?
周囲に激しい攻撃を行い、大ダメージを与える攻撃だ。
「ガアア!」
キングミスリルゴーレムが地面に両拳を叩きつけると、激しい地響きで足元が揺れる。
同時に周囲に魔力による衝撃波のようなものが生まれ、俺はそれを跳んでかわす。
……あっ、かわしちゃった。
ゲーム本編では主人公たちは見事に喰らって、パーティーが危機的状況に陥っていた。
やばい。フラグ一つ外したかもしれない。
着地しながら、俺は慌ててヴィリアスの方を見たが、彼女はぎゅっと唇を噛んでいた。
そんな彼女は何かを決意したように、もっていたミスリルの一つを握りしめた。
……彼女の手元に光が集まる。あれは、鍛冶のときに見たものだな。
「ガアアア!」
そちらに気づいたキングミスリルゴーレムが、ヴィリアスを狙うように走り出したので、俺はその足元に空間魔法を放ち、その体を鎮めて、転ばせる。
「今、天才鍛冶師が鍛冶を行っているんだ。邪魔するんじゃない」
「アガ!?」
俺がそう言ってキングミスリルゴーレムを睨みつけた次の瞬間だった。
ヴィリアスの方から一際強い光が溢れると、彼女の手元には一つの短剣が生まれていた。
「……リョウ。これ使って」
そう言って、彼女は勢いよく短剣をこちらへと投げつけてきた。
ミスリルナイフ、だな。
鞘から抜いた俺は体を起こしたキングミスリルゴーレムの首元へと振りぬく。
「ガ!?」
驚いた様子でキングミスリルゴーレムが声をあげる。だが、一撃ではやられない。
……いや、この場面では一撃でやられるべきだろう。
せっかく、ヴィリアスが覚醒して鍛冶を自分の意志で使ったんだからな。
なので、俺はキングミスリルゴーレムの飲み込んでいた下半身を空間魔法で切り裂いた。
「ガアアア!?」
ひときわ大きな悲鳴をあげると、キングミスリルゴーレムの赤い瞳から光が抜け、その体が崩れ落ちると……消えていった。
戦闘が終わったところで、ヴィリアスがこちらへと駆け寄ってきた。
「……大丈夫、だった?」
「こっちはな。それよりも、一撃か」
俺はミスリルナイフを見て、ぼんやりと呟く。
「……凄い、私……」
「自分で言うんじゃない。……いやまあ……本当に凄いんだけどな」
「もっと褒めたたえて」
「ああ、凄い凄い。……このミスリルナイフは、どうするんだ?」
俺がヴィリアスの方に差し出すと、彼女は首を横に振った。
「それは、あなたにあげる。使っていい」
「いいのか?」
「うん」
よっしゃー! もちろん、これをもらうためにここまで頑張ってきたわけなんだけどな。
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