第31話



 二人分の武器を用意してもらってから……俺たちはダンジョンへと移動した。


「……リョウの、移動魔法凄い便利」

「空間魔法って言うらしいわよ。さっきのゴミ掃除だってこれで手伝ってもらったのよ」

「……便利。一家に一人欲しい」


 俺の空間魔法を雑用で使おうとしないでほしいものだ。

 俺、イナーシア、ヴィリアスの三人だ。ミスリルゴーレムのダンジョンを歩き始めたところで、イナーシアが問いかける。


「ヴィリアスは戦えるの?」

「多少は。師匠は言っていた、優秀な鍛冶師は、素材も自分で集める、って」


 ヴィリアスは腰に下げていた小槌を見せてから、軽く振るう。


「へぇ……そうなのね。武器は……そのハンマー?」

「そう………………ふう」


 何度か素振りをしたところで、ヴィリアスは疲れたように腕をだらりと下げる。

 イナーシアが不安そうな視線を向ける。


「いや、あんたちょっと疲れてない?」

「……疲れてない。……おんぶしてほしい」

「やっぱ疲れてるじゃない。ちょっと、リョウ! ヴィリアスまったくスタミナなさそうよ!」

「冗談。……近接戦闘はあまり得意じゃない。武器を作って放り投げて戦うつもり」

「でも、作れるの?」

「皆に褒められたときのことを再生させれば……何とか。最高のものは作れないかも、だけど」


 ……まあ、ヴィリアスもちゃんと鍛えれば能力は高い。

 戦闘中に様々な武器を作っては、それを放り投げるという感じで遠距離攻撃に適したキャラクターだ。


 そんなことを話して進んでいくと、ミスリルゴーレムが現れた。びくり、とヴィリアスが肩をあげ、俺は視線を向ける。


「さて……始めるか。念のため、イナーシアはヴィリアスの警備と周囲の警戒にあたってくれ」

「……分かったわ」


 ミスリルゴーレム相手なら、俺一人で戦った方がいいだろう。

 こちらに気づいたミスリルゴーレムがじっと赤い瞳をこちらに向けてくる。


「……ゴガガガ」


 鳴き声のようなものをあげると、威嚇するように大きく腕を広げてくる。

 俺が地面を蹴って一気に迫ると、ミスリルゴーレムが拳を地面に叩きつける。


 その衝撃波をかわしながら、グラディウス二本で斬りつける。

 斬撃は……通った。


「ゴガガ……!」

「嘘……本当に攻撃通ったの!?」

「……信じてなかった?」


 イナーシアの叫びに、ヴィリアスがじとりとした目を向けていた。


「い、いや……その」

「大丈夫。私もちょっと、驚いている……自分の腕が思ったよりも凄いことに」

「……まあ、ツッコミたいところだけど、そうなのよねぇ」


 向こうは、呑気なものだな。とはいえ、俺としても周囲を見る余裕がある程度の戦闘はできていた。

 ……攻撃自体は前よりは通っているが、やはり手数は必要だな。


 それはヴィリアスも感じているようで、何か考えるようにこちらを見ている。

 新しい武器を作るための参考にしてくれればいいな。


 ミスリルゴーレムの攻撃をかわしていき、何度も斬りつけた部位へ深くグラディウスを叩き込む。


「ガカ!?」


 思っていた以上のダメージを受けたからか、ミスリルゴーレムの悲鳴が一段大きくなる。

 そこをチャンスと捉えた俺はさらに深く踏み込んで斬りつけた。


 ……ミスリルゴーレムの体が崩れ落ち、後には魔石とミスリルがドロップしていた。


「……ふう、こんなところだな」

「凄いわね……ヴィリアスの武器になった途端、あっさりと攻撃が通用するようになったわね」

「だから言っているんだ。ヴィリアスは優秀な鍛冶師なんだよ」


 そう、ヴィリアスを褒めると彼女は恥ずかしそうにしていた。


「……何恥ずかしがっているんだ」

「……そ、その待ち構えていないときに褒められるのは照れる」


 どんな習性だ。


「そうか。お前の鍛冶は十分凄いんだ。あとはこのミスリルの素材で何かを作れれば、ミスリルゴーレムももっとあっさり倒せるかもな」


 俺は回収していたミスリルの素材をヴィリアスへと渡す。受け取った彼女はじっとミスリルを見て、しばらく悩むように視線を向けていた。


「……ちょっと、待ってて。もう少しで、形になりそうだから」

「そうか。一応、俺たちはこのダンジョンの調査も行う予定になっている。歩きながらでいいか?」

「うん、大丈夫」


 ……しばらく、ヴィリアスはミスリルと睨みあっていたので、俺たちはダンジョンの奥へと進むように歩いていった。

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