第18話
俺も短剣を構え直し、リームと向かい合う。
彼女は俺のタオルを首へとまき、幸せそうな表情とともにレイピアを構えている。
……リームが、アドレナリンブーストを解放しているかもしれない、というのを確認するために、ある程度全力でやるべきだろう。
「ザンゲル、審判をお願いしてもいいか?」
「……ええ、分かりました」
ザンゲルはリームをちらと見て、少し引きながらもそこは年長者としてしっかりと振るまってくれる。
「それでは、お二人とも。怪我のないよう、始めてください」
ザンゲルの言葉に合わせ、リームが地面を蹴った。
……速ッ!?
いつもよりも数倍は速い速度に、リーム自身も僅かに驚いたようだ。それでも、彼女はすぐにその体を自由に扱い、レイピアを突き出してくる。
連続の攻撃はどれも、ギリギリ目で追える程度か……ッ! 俺はぎりぎりで短剣で捌きながら後退していく。
リームがさらに加速すると、周りからも驚くような声が聞こえた。
……そうだろうな。普段のリームからは考えれない速度だ。
俺はどうにか身体強化を高め、リームの攻撃に対応していく。
強く、彼女のレイピアを弾き、後方へと跳ぶ。
その時だった。
ザンゲルが驚いた様子でリームを見ていたのだが、彼ははっとなった様子で口を開いた。
「……まさか……今のリーム様は……」
「何か気づいたんですか、ザンゲルさん?」
「ゲーリング、アドレナリンブーストというのは聞いたことはあるか?」
「ええ……まあ。戦闘中の極限状態に至ると到達できるとされる、いうやつですよね?」
「……ええ。リーム様は恐らく……その状態になっているんだ」
「……戦闘での興奮が、関係しているのではなかったのですか?」
「……それは、間違いなのかもしれない。一説には、性行為の状態にも似たような状況になるとは聞いたことがある。強い怒りや憎しみなど、感情の高ぶりによってその状態に至るということもある」
「……まさか、リーム様はレイス様の汗の匂いで……」
「あるいは……レイス様の汗の臭いに何かそういった作用があるのか……」
ねぇよ!
ザンゲルとゲーリングのそんな会話が聞こえ、俺は頬が引きつってしまう。
というか、ザンゲルたちの会話は……アドレナリンブーストの解説をするときの会話に滅茶苦茶似ている。
発言している人間こそ違うのだが、中身はほぼ一緒なわけで……俺は軽く絶望する。
認めたくはないが……今のリームは、アドレナリンブーストを発動していやがる!
ていうか、人の汗の匂いで興奮しまくって、アドレナリンブースト状態に持っていくってどんだけこいつは俺の匂いが好きなんだよ!
リームもその会話が聞こえていたようで、にこりと笑顔を浮かべたからレイピアを構え直す。
「……さあ、行くわよ!」
リームはさらに地面を踏みつけ、こちらへと迫ってくる。速い……! さっきよりも体に馴染むようで、リームはさらに攻撃を重ねてくる。
その連撃を短剣で捌きながら、俺は思う。
……アドレナリンブースト。俺も何とかして習得したい、と。
そのためには、戦闘での興奮状態はもちろん……自分の性癖についてを理解する必要があるのかもしれない。
……俺の性癖って……レイスくんの時から色濃く残っている……ドエム体質か?
い、いや……あれと向き合うことはさすがに……そんなことを考えていると、リームが突っ込んでくる。
「あなたと戦っていると……さらに……力が増していくわね……!」
こいつ! 俺と打ち合って近づいたときの匂いで、さらに能力を底上げしていやがる!
リームは……俺の天敵になるかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、模擬戦を続けていった。
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