第14話
すべての戦闘を終えたところで、俺は軽く息を吐いた。
……結構、ギリギリだった。少なくとも、戦闘を開始した最初の瞬間は。
俺のレベルがハイウルフに劣っていたのは明らかだったが、基礎訓練でステータスを伸ばしていたおかげで、どうにかなった。
低レベルだった俺は、ハイウルフを何体か仕留めてからは、まったく問題なく戦えるようになっていた。
……うん。とにかく、なんとかなってよかった。
村のすべてが無事なわけではない。
だが、死者が出なかったのだからこの村の兵士たちの戦闘能力を見るに、十分すぎる成果だろう。
俺は小さく息を吐いてから、俺たちに依頼を出してきたジョルへと声をかけた。
「報酬は?」
「え? あっ、そ、そうでした……! これです!」
そういって、ジョルが俺に金が入っていると思われる袋を差し出してきた。
受け取った俺はその中身を確認してから、イナーシアへと渡した。
「ちょっとこれ、何よ?」
「さっき見せた報酬含めて、それで十分だろう」
「……うーん? まあ、そうね。でも、報酬の全部を受け取るってなるとちょっと申し訳ない気持ちもあるんだけど」
「金額自体は変わらないんだ。気にするな」
「まー、そうねぇ」
そもそも、俺としては別に金に困ってないからな。
イナーシアは少し困ったようにしながらも、俺から報酬を受け取った。
とりあえず、こんなところでいいだろう。
よし、これで依頼は達成したわけだし、さっさと戻ろう。
……あまり長居をしたくはない。
どこで、リームにバレるか分からないからな。
まあ、これだけ完璧に変装をし、声もいつもより低めに発しているのだから、バレる可能性は少ないと思う。
問題があるとすれば、短剣を使っているところと俺の魔法についてだが、これらはいくらでも誤魔化すための策は考えているし。
そんなことを考えていると、リームと男性がやってきた。……レイスくんの記憶を探っていると、リームの父親であることとボリルという名前が浮かんできた。
リームはどこか熱を帯びたような視線でこちらを見てきていて、俺がそんなリームを不思議に思っていると、ボリルがすっと頭を下げてきた。
「……ありがとう、キミたちのおかげで助かったよ」
「気にするな。俺たちは冒険者として仕事を受けただけだ」
別に気遣うつもりでそういったわけではない。
……まあ、結果的に得られるものは多かった。
ボリルがこうして生きているように……ゲーム本編とは違う未来に変えられるということも分かったからな。
俺としては、その収穫があっただけでも十分だ。
「……ありがとう。本当に助かったよ」
「そうか。俺たちはもうこれで街に戻るが、それでいいか?」
「あ、ああ……大丈夫だ。……そういえば、キミたちはいきなり現れたが……あれはなんなんだ?」
「俺の……移動魔法のようなものだ」
「……そうか。改めてになるが本当に、ありがとう」
ボリルがそう言ってから、頭を下げた。
リームも、遅れて頭を下げてきて……俺はほっと胸を撫でおろしながらその場を後にした。
イナーシアを連れ、ヴァリドールへと戻ると、隣にいたイナーシアが軽く背筋を伸ばした。
「……うーん、ちょっと疲れたわねぇ」
「さすがに、あの数のハイウルフともなるとな」
「でも、あんた軽々と倒していたじゃない。正直、ちょっと驚いたわよ。そんなに冒険者ランク高くなかったわよね?」
「知っているのか?」
「そんな全身黒づくめで正体隠している男がいたら、話題にもなるわよ。あんた、最速で冒険者ランクをあげている謎の冒険者、って言われているのよ?」
「……そうだったのか」
ストーンラビットの素材を売ったり、ダンジョンで手に入る素材を渡していたら、気づいたらEランクまで上がっていたんだよな。
「ま、だからどんな風に戦ってるのか気になってついてきたんだけど……正直言って、ちょっと色々驚いたわ」
イナーシアが俺に同行しようとしてきた理由はそれだったのか。
「あんたってこの街で今後も活動してくの?」
「他の街でも活動するつもりだが、なぜそんなことを聞くんだ」
「いや、別に。またどこかで依頼を受けるつもりなら、そんときはよろしくって思ったのよ」
「……そうか。ま、どこかで会ったらその時はよろしくな」
「そうね。今日はあんたのおかげで短時間でこんなに稼げてラッキーだったわ。ありがとね」
嬉しそうに笑うイナーシアに、視線を向けてから俺は空間魔法を発動し、自室へと移動した。
……さすがに今日は動きすぎて汗をかいてしまった。
もう少し、通気性のよい装備に変えたいところだが……どうしようか。
そんなことを考えながら、俺は外套を脱いでいった。
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