第74話


「ああ、そうだ。これでダンジョン前まで移動できる。ついてきてくれ」


 俺はそう言って、先んじて中へと入る。少しして、イナーシアや他の兵士たちもついてくる。

 一番最後、顔を見合わせていた冒険者たちが意を決した様子で俺たちの後をついてきた。

 すぐに出口を作り、俺はダンジョンの前へと移動する。


 問題なく移動できたな。

 最後に新人冒険者たちが出てきたところで、俺は空間魔法を閉じた。

 イナーシア含め、屋敷の兵士たちは悪逆の森までの移動など、すでに俺の空間魔法での移動は経験ずみなので驚いている様子はなかったが、新人冒険者たちは目が点になっていた。


「す、すげぇ……」

「ほ、本当に転移石みたいに移動できるんだ……」

「転移石より……便利だよな」


 そんな冒険者たちの反応を見ながら、俺はダンジョンへと視線を向ける。

 ダンジョン。ゲームではもうすっかり見慣れた場所だが、いざこうして対面すると威圧感のようなものがあるな。


 ダンジョンの入り口は俺が作り出している空間魔法に似ている。ただし、赤色の渦のような入り口となっている。

 ダンジョンの入り口が俺の空間魔法に似ているというよりかは、俺が無意識のうちにこの入り口を参考に魔法を使用していたのかもしれないな。


 ダンジョン内部は異世界と繋がっているとされていて、外からは分からないほどに巨大なこともある。


「今回、第四部隊に攻略してもらう予定のダンジョンについての情報はもう共有してあるか?」

「もちろん。してますよ」


 イナーシアがふふんと胸を張る。イナーシアの美貌はヴァリドールに来てからさらに増したようで、大人気だ。

 確かに、ゲームの時に比べて体つきはいい。たぶん、栄養状態の問題だろう。俺としては、貧乳をコンプレックスに感じていたイナーシアの反応も嫌いではなかったが、リームが密かに気にしているくらいにはナイスバディだ。


 案の定、新人冒険者の男性たちはイナーシアの豊かな胸に鼻の下を伸ばしている。


「それなら了解だ。初めての攻略になるし、俺も後からついていって様子を見ていくがいないものだと思ってくれ」

「分かりました。それじゃあ、皆、攻略開始するわよ」


 イナーシアがそういって、先頭に立つ。すでに事前の打ち合わせは済んでいるようで、イナーシア含めた六人が前のほうにたち、残り四人が新人冒険者たちの護衛を行うようだ。


 ダンジョンへと入るための渦を潜り抜けると、もわりとした感触が顔を覆う。

 ……ダンジョンに入るのってこんな感じなんだな。

 主人公が、「なんか変な感じ!」と言っていた気持ちがわかる。


 今回挑戦するダンジョンは、最下層が五階層という低難易度のダンジョンだ。このゲームのダンジョンは深い階層にいけば行くほど、出現する魔物が強くなっていくのだが、五階層程度なら恐らく新人冒険者でもなんとか倒せる程度の魔物しか出てこないだろう。


 案の定、同行して様子を見ていたが……イナーシアたちは余裕そうだ。

 ……イナーシア、かなり強くなってるな。

 圧巻な槍捌きで敵を殲滅し、武器スキルも自分のもののように使いこなしている。

 ゲームのように装備した瞬間使えるというわけではないので、かなり練習はしたんだろう。

 彼女の目的は、打倒リームみたいだしな。最近では、イナーシアの方が訓練する時間も増えているし、今やりあったらどっちが勝つか分からないな。


 何の苦労もなく、迷宮の最下層まで降り、ボス戦が始まる。

 ……問題、ないな。

 なんなら、イナーシア一人で今回のダンジョンは攻略可能なくらいだ。

 ダンジョンを攻略すると、内部にいたすべての人間は外へと吐き出される。

 ボスを討伐して少し経ったところで、俺たちは外に弾き出された。


「うわ!?」


 悲鳴を上げた新人冒険者たちに視線をやりながら、俺はダンジョンの入り口へと視線を向ける。

 赤い渦は俺たちを吐き出してすぐに小さくなっていき、やがて消滅した。


 これで、ダンジョン攻略終了だな。今回手に入った魔石はあまり多くないが、これで基本的な流れは理解できたな。

 じっと見ていると、イナーシアが口を開いた。


「攻略は終わりましたけど、またしばらくしたらどこかにダンジョンってできるんですよね?」

「ああ、そうだな」

「それらを攻略していって、領地の収入にあてる……と。でも、それってあんまり利益は出ないですよね?」

「普通にダンジョン攻略を続けていれば、な。例えば、領内で需要の割に供給の少ない素材などが手に入るダンジョンがもしも見つかった場合は、攻略を行わないつもりだ」

「……そういうこと、だったんですね」


 イナーシアは俺のやりたいことに気づいてくれたようだ。

 ……まあ、本音は良いスキルを厳選したい、なのだが。


「それじゃあ、残っている四つのダンジョンにもこのまま向かうぞ」

「え? このままですか!?」


 新人冒険者たちは驚いたような声をあげたので、俺は笑顔を向ける。


「報酬は全部のダンジョンの攻略に同行、と伝えてあるよな?」

「え、ええ……そうですけど……」

「頑張れば、午前中で仕事は終わるぞ? それでも、同じだけの報酬だ。どうだ?」

「……が、頑張ります」


 報酬に関しては、今の新人冒険者たちでは稼げないほどの金額だ。

 暮らし方にもよるが、ある程度贅沢をしても一週間は暮らせるだろう額なんだから、できる限り働いてもらわないとな。




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