第28話
……ある時を堺に、レイス様は変わられた。
別に、悪い意味ではなく……むしろ、とてもいい方向にだった。
昔のレイス様は、噂通りのヴァリドー家の息子、という感じだった。
むしろ、ヴァリドー家の中でも酷い方だったのは、彼の周囲にいる人間の話を聞けば嫌というほど耳に届いていた。
レイス様は両親や兄弟からいじめられていたが、そのレイス様の捌け口といえばさらに下の立場の者――つまりは、ヴァリドー家に仕えている兵士や使用人たちに向けられていた。
それはもちろん、許嫁である私に対してもだ。私のことや家族のことなど、私を見下すのは当然であり、さらに言えばさまざまなセクハラを受けていたものだった。
レイス様が歪んでしまった理由については、同情できる部分もあったけど、だからといってそれらを受け入れられるほど私の心は強くなかった。
私としては、レイス様と月に一度会うことすら本気で嫌で、予定の日に近づくにつれ眠れない日がでたり、肌が荒れたりと体に拒否反応が出るほどだった。
ただ……ある日、突然変わった。
詳しい話に聞いたところ、誕生日を迎えたあとからまるで強く頭でも打ったかのように性格が180度変わったという。
兵士や使用人への貴族として一線引いた態度はもちろんあったのだが、そこに距離が置かれているような冷たさや見下すような態度が消えた。
さらに言えば、何か指示をこなせば、お礼を言うようになっていたと。
そして、昔はサボりがちだった訓練に力を入れるようになったと。
……ヴァリドー家は悪逆の森の魔物たちから街を、国を守ることが仕事だ。
それは、ヴァリドー家の成り立ちに関係している。
ヴァリドー家は、この王国を守るため今あるこの街を拠点に防衛ラインを作り上げ、悪逆の森の魔物たちを完全に封じ込めた。
その功績が認められたのち、さらに功績を上げていってヴァリドー家は公爵位を授かった。
ここ百年程は平和が続いているが、またいつ森から大量の魔物が出現するようになるかは分からない。
だから、いざという時のために鍛えておくことはヴァリドー家では当然のことなのだが……まあ、今のところレイス様以外が鍛えている様子はない。
そのレイス様と話をするときも……私は今までよりも不快感はなかった。
初めのうちはレイス様が変わったことを知らなかっため、言葉を選びながら警戒してしまっていたが、今では冗談を言いあえるくらいの余裕はあった。
……気づけば、月に一度の出会いが楽しみになっていたし、暇があれば私から会いに行くこともあるほどだった。
今のレイス様となら、私は楽しく結婚生活ができるとさえ思っていた。
まあでも、不満はある。
……そんな風に変化した私の心と違って、レイス様はいつ会いに行っても私にいつも通りの態度から変わらないこと。
レイス様はまるで私に興味がないように、友達と接するかのように話してくるだけ。
昔はあんなに触ってきたくせに……。
今のレイス様になら、セクハラされても別に気にしないし、むしろそれを口実にイチャイチャしたいし、なんならこっちからもセクハラしたいと思っているのに。
……ふう、少し落ち着こう。
仕方ないので、私はレイス様と会うたび触れ合えるように色々な提案をしたり、こっそりレイス様の匂いを堪能したりと気づかれない程度に楽しむようになっていた。
今日も無事、レイス様の匂いを堪能した私は、屋敷の兵士長に転移石までの護衛をしてもらう。
「リーム様。最近、レイス様……変わられたと思いませんか?」
「え? そうね」
兵士の問いかけに、私は素直に頷いてから少し慌てる。
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