第29話


 ……あまり、こう言ったことは話さない方がいいのかしら? そんなことを思っていると、兵士が笑顔で口を開いた。


「私もずっと思っていたのですが……以前、その理由について語っていたんですよ」

「え? そうなの」

「はい、その理由なんですが……いずれこの地に大きな混乱が起こる可能性がある。その時に……大切な人を守れるようになりたい、と」


 ……も、もしかして、それって。

 その大切な人、という言葉の意味を考えて私は思わず顔が熱くなる。

 そんな私に気づいたようで、兵士は晴れやかな笑顔とともに私を見る。


「あの言葉は、きっとリームさんのことを考えていたんですよ!」

「……そ、そう、かしら」


 兵士からの断定の言葉に、私の顔はさらに熱くなる。

 ……レイス様が私を?

 昔はともかく、最近はそこまで大切に思われている様子はなかったけど、もしかして本当は私のことを考えてくれていたのだろうか?


 実は今も私にセクハラしたくて劣情を抱いているけど、必死に心の奥底に潜めている?

 ……そう考えると、私はさらに顔が熱くなってきてしまった。

 も、もしかして今日ダンスを教えて欲しかったのも、合法的に私の体に触れたかった……ってこと!?

 そういえば、確かに……今思い返してみると、やけにベタベタといやらしく触ってきていたような気がしてきた……!


 い、いや落ち着こう。

 ……ひとまず、今考えなければいけないことはその大きな混乱について。


「……でも、レイス様はその大きな混乱について何か他には話していなかったの?」

「……いえ、特には」


 ……レイス様が具体的な話をしていないのは、それはつまりレイス様自身もまだ断定できていないことなのかもしれない。

 もしかしたら、レイス様は神様から天啓を与えられたのかもしれない。


 これは教会の聖女などにまれにあるそうだけど、夢などでこの世界の未来を見られることがあるらしい。

 もしかしたら、レイス様もそんな漠然とした未来を見てしまったのかもしれない。


「そう、ありがとう。教えてくれて」


 ……私も何かしないと。

 どこまで力になれるか分からないけど、私も来るべきときに備えて鍛えておかないと。


「……今のようにレイス様が変わったのも、きっとリーム様のおかげですから」

「私は、何もしていないわ。レイス様が、自分で考えて行動している結果でしょう」

「そう、ですかね? どちらにせよ。あの両親たちからまさかこんなことになるなんて……あっ、も、申し訳ありません! 今のは聞かなかったことにしてください!」


 この兵士、思ったことが口に出てしまうタイプなのかもしれない。

 彼は慌てた様子で頭を下げてきたが、そんな彼に私は苦笑を返す。


「ええ、もちろんよ。その代わり、私も同じようなことを考えていたことは黙っていてくれるかしら?」

「……え? あっ、はい! もちろんです!」


 私の言葉に兵士はほっとしたように息を吐く。

 転移石を用いて自分の家へと戻ってきた私は、それから家で雇っている家庭教師のもとへと向かった。




―――――――――――

宣伝

別作品「妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです」が書籍化します!

https://kakuyomu.jp/works/16817330658744103065

こちらの作品です!もしも読んでみて気になったという方は予約、購入していただけると嬉しいです!


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る