第22話
ギルドに依頼達成を報告してから、しばらくが経過した。
それまでの間、第二層で戦闘能力向上に努めていた俺だったが、鍛錬から戻ってくると兵士に呼び止められた。
「レイス様。今よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ」
「例の……鍛冶師を名乗る、ヴィリアスというエルフの女性がやってきて、現在面会室にて待っていただいているのですが」
「ありがとう。今から会ってくる」
「承知しました。ご案内いたします」
兵士に頷き、俺は彼とともに面会室へと向かう。
……エルフの女性、ヴィリアス。彼女はエルフにしては珍しい鍛冶師だ。
俺の狙っていた鍛冶師でもある。
面会室へと入ると、綺麗な佇まいのヴィリアスの視線がこちらに向いた。
ソファから立ち上がった彼女は、すっと頭を下げる。
少し緊張した様子だな。ヴァリドー家の悪い噂は色々と聞いているだろうし、仕方ないか。
「ヴィリアス、だったか? 何か用事か?」
「……はい。あなたは、この前……ギルドで廃坑の依頼を受けませんでしたか?」
ヴィリアスの丁寧な口調は珍しいな。
ゲームでの彼女のセリフを再現するなら、「あなた、この前廃坑の依頼受けなかった?」みたいに、少し言葉足らずの口調だからだ。
さすがに貴族相手には丁寧語で話せるんだな。
ゲームでは見られなかった意外な一面を見られてゲームのファンとしては嬉しいが、いまは喜んでいる場合ではない。
「ああ。例の廃坑だな」
「……その際に、珍しい鉱石を見つけませんでしたか?」
「これのことか?」
俺はポケットに手を入れてから、空間魔法で目的の鉱石を取り出す。
それを見て、ヴィリアスの表情が明るくなる。
「うん、それ……! じゃなくて、それ、です。……その鉱石を売ってもらうことはできますか?」
へえ、売ってもらう、か。
ゲームでは主人公に対して譲ってくれないか、と言っていたな。
立場による差なんだろう。
ゲームのイベントなのでそれまでなのだが、だとしても聞いておいた方がいいだろう。
「なんのために使うんだ?」
俺がその質問をすると、ヴィリアスはしばらく迷った後で、答えた。
「その……鍛冶です。その鉱石を使って武器を作る必要があるんです」
返答はゲーム通りだな。
ヴィリアスはそれほどゲームで関わるキャラクターではない。
サブイベントで少し関わると、それ以降鍛冶師として依頼を出せるようになる、というキャラクターだ。
そのサブイベントだが、今は亡き師匠に、この鉱石を使った武器を作るように言われていた。それが彼女の鍛冶師として一人前になるための試験だった。
ただ、試験を受ける前に彼女の師匠は亡くなってしまった。一応、亡くなる前に師匠からは一人前の鍛冶師としてお墨付きをもらってはいたが、それでもヴィリアスにとっては心残りがあった。
だから、このミスリル鉱石を手に入れて作りたかったが、鉱石を手に入れる手段がなかった。
ヴィリアスの能力ではダンジョンに挑戦するのは難しいからな。
だから、あの廃坑奥地に行った人を探していたが、現在あそこの出入りは依頼を受注してくれた人以外は禁止となっている。
その理由は……簡単だ。
すでにあそこは鉱山としてほとんど価値がない。放っておいたら魔物が住み着いてしまい、ヴァリドー家は仕方なく魔物討伐の依頼を出すことになる。
ただ、高い報酬を支払いたくなかったヴァリドー家は、安く依頼を受けてくれる人間を集めるため、鉱山へのすべての人の立ち入りを禁止した。
そうすれば、鉱山に入りたい人が勝手に受けてくれるだろうと考えていたようだが、すでにほぼ価値のなくなったあそこに入りたい人はいないため、依頼が残っていた、というわけだ。
うちの家族たちはロクなことをしない上に結構馬鹿だ。
……まあ、そういうわけでヴィリアスからすれば俺のことは特に嫌っている可能性はある。
といっても、だ。
俺としては、これはチャンスだ。
「鉱石に関しては、別に譲っても構わないが……その代わり、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「……な、なんですか?」
そう身構えるな。
俺が彼女の体でも要求すると思ったのだろうか、ヴィリアスは身を守るように緊張している。
それが、ヴァリドー家への評価なんだろうな
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