第19話


「俺は通りすがりの冒険者だ。困っているなら手を貸すが……」

「お、お願いします!」


 ちょうどそう返事をした時、特殊モンスターのゴブリンが冒険者へと飛びかかる。

 ……させるか。

 俺はすぐに地面を蹴り、ゴブリンへと接近する。一瞬でその首を切りつけ、吹き飛ばす。


 急所を的確に切ったことで、あっさりと仕留めることができた。

 ……このゴブリン。確かに特殊な個体だが、悪逆の森のゴブリンと同じくらいの強さだな。


 特殊モンスターはドロップアイテムもレアなことが多く、今回落としたのはちょっとレアリティのよさそうな棍棒だ。鑑定魔法を使える人がいれば、スキルなどがついているかも調べられるのだが、我が家にはそんな人はいない。

 過去にはいたが、人件費削減でクビにしてしまったからな……。


 とりあえず、屋敷の武器も手入れされていないのがほとんどなのでこうやって補填していくのもありだな。


「あ、ありがとうございます」

「……気にするな」


 声はいつもよりも低めを意識する。声がまったく同じでは正体もバレるかもしれないからな。


「あの、すっごい強いのですね! お名前はなんていうんですか!?」

「……」


 名前……? そんなもの考えていなかった。

 とりあえず、前世の名前でも名乗っておくか。


「リョウだ」

「リョウさんですか! ありがとうございました!」


 ぺこりと丁寧に頭をさげた冒険者に、俺はそれ以上構うことはせず……彼が頭を下げている隙に空間魔法で自宅へ帰還した。


 ふう。レアな装備も手に入るので、これを売り払えば金策にもなるな。

 何より、貴族から離れて活動できるわけで、その自由な時間も最高だ。

 この調子で、どんどんレベル上げをしていこうか。




 それから、第二層での戦闘と、特殊モンスター狩りを行っていった。

 毎日のように戦っていたおかげで、ハイオークどころか、ウルトラゴブリン、ウルトラオーク相手にも問題なく戦えるようになっていた。


 ただ、明らかな問題が一つ出てきた。

 武器だ。今使っている訓練用の短剣では、さすがに第三層の魔物たちには通用しない。

 グラディウスは問題ないと思うが、より強い武器を手に入れたいところだ。


 すでに、ウルトラオーク相手だと皮膚をちょっと傷つけるくらいだったしな……。

 というわけで新しい武器を手に入れたくて、ひとまず屋敷の武器庫を見ていたが……まあ、あまり質のよくない武器が並んでいる。


「何かいいものはありましたか?」

「……うーん、ちょっと微妙だな。手入れもあまりされてないし」

「それは……まあ、その。あまり余裕がなくて……」


 あはは、と誤魔化すように苦笑する兵士。

 ……この武器庫のメンテナンスは兵士たちの中で手が空いているものがしているようだ。


 本来であれば、鍛冶師なりに依頼するものだが……まあ、そこに割いている予算はない。

 だから、うちの兵士たちの質はあまり良くないんだよな。

 それでも、俺が渡したアクセサリーを身につけて訓練しているおかげで、以前よりは全体の底上げはできている。

 連携して戦えば、第二層の魔物たちを押さえこめる……かもしれないくらいには。


「仕方ないな……。まあ皆には苦労をかけるが、この武器を大切に使ってくれ」

「はい。もちろんです」


 兵士はすっと頭を下げ、俺はそこで彼とは別れた。

 ……兵士たちはヴァリドー家が爵位をとりあげられた後も残るだろうし、家族が迷惑をかけているのだから俺としてももう少しなんとかしてやらないとな。

 何より、まだ俺が隻腕になる大事件を乗り越えたかどうかも分かっていない。

 戦力を補強しておいて、悪いことはないだろう。


 とりあえず、新しい武器を入手する方法はいくつかある。

 まずは、宝物庫を漁ること。……いくつか候補はあるのだが、俺は領内は自由に移動できるがそれ以外はまだ動けないからな。

 今の俺のゲーム知識で、安全に今より優秀な武器を手に入れる手段はそんなにないんだよな。

 

 次は、街で購入すること。まあ、これが一番なのだが……現状のこの街で手に入る装備品だと、そこまで良くないんだよな。

 ゲームでは、街での品揃えはストーリーの進行度に合わせて上がっていった。

 まだ物語が始まっていないからか、店売りの装備品はどれも微妙だ。


 そして、今やっている特殊モンスター討伐。これで多少装備品を補強していくことはできているが、効率は決して良くはない。

 狙った武器が手に入るわけでもないしな。


 最後は、鍛冶師に依頼するのだが……有名なところはどいつも金がかかるんだよな。

 なのに、あまりいい腕の鍛冶師はいない。ゲームでは、自分で育成した鍛冶師じゃないと最高装備は作れない仕様だった。


 ……そうだな。ちょうど、ヴァリドールならあの子をスカウトできるかもしれない。


―――――――――――

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