第18話



 ただ、ハイオークもその機会を待っていたようだ。残っていた体力で棍棒を振り抜いてくるが、俺はそれを引き付けてかわす。

 そして、跳躍するようにして両手に持った短剣をハイオークの首へと振り抜いた。


 俺は深呼吸をしながら、ハイオークの崩れ落ちる体を眺めていた。

 静寂が場を支配する。……とはいえ、勝利の余韻に浸っている場合ではない。


 ハイオークの雄叫びに反応して、こちらに魔物が近づいてきている。

 とりあえず、その場から第一層へと移動してから、改めて呼吸を整えた。


 ……勝てはしたけど、装備品のおかげだな。

 手に入れたグラディウスがなかったらまず切れ味が足りていなかった。

 今後は訓練用の短剣は防御に使うようにして、グラディウスで攻撃したほうがいいな。


 それに、戦闘自体はまだギリギリだ。

 ゲームでは四人パーティーで戦うような魔物を一人で倒せたのだからいいではないか、と自分を褒める心の声もあるが……それではダメだ。


 俺の破滅の未来を防ぐには、最強になっておく必要があるんだしな。


「……まだまだレベル上げないとなぁ」


 レベル、というものがあるかは分からないが、魔物と戦うたび自分が強くなって行っているのはわかる。

 ひとまずは第二層で通用する程度まで強くならないとな。

 そこまでいけば、今後の裏技だって使えるかもしれないしな。



 レベル上げでもっとも効率がいいのは――特殊モンスターの討伐だ。


 本来ならいない場所に生息している魔物は特殊モンスターと呼ばれ、ギルドなどに依頼として登録されることになる。

 例えば、この前フィーリア様が襲われたときもそうだ。


 ああいう、普段はいない場所に出る魔物はゲームでは通常よりも多くの経験値を入手できていたので、恐らくこの現実でもそうだろう……と思う。


 そういった特殊モンスターの対応には、国もギルドも困っている。

 だからこそ、俺はそれらを率先して狩ろうとは思っているのだが……レイスのままその活動をするつもりはない。


 レイスの評価があまりにも高くなると、家族からの嫉妬もより深くなり、下手をすれば家を追放される可能性もあるからな。


 何より、別の人間として活動することによって、将来の俺の稼ぎを増やせるかもしれない。


 特殊モンスターを狩ってくれる謎の冒険者がいる、となればいずれは直接依頼も来るだろう。

 実力者が欲しい貴族などが直接スカウトしてくれるかもしれないので、将来食い扶持に困った時の保険になる。


 なので、俺は……正体を隠して活動することにした。

 そもそも、こういった謎めいた存在に憧れていたのもある。


 俺がレイスくんにさえ転生していなければ、もっと自由に楽しんでいたというのに。

 そういうわけで、俺は久々の自由な時間を楽しむ。

 外套を身につけ、仮面をつければもう誰も俺とは分からないだろう。


 完璧な変装を行った俺は家に届いている魔物の目撃情報などを参考に、その日から積極的に緊急依頼の魔物狩りを行っていく。


 ヴァリドー領には、いくつかの町や村がある。ヴァリドー家が管理しているのは、ヴァリドールのみで他の町や村は部下のような立場の貴族たちにお願いしている。


 そのため、領内で何か問題が発生すればすぐにこの家に連絡がくるため、特殊モンスターなどの目撃情報も集めやすい。

 ……レベル上げには、もってこいの環境だな。



 早速、近くの町で特殊モンスターの目撃情報があったので、俺は空間魔法を使ってその場所へ向かう。

 近くを探していると、普段の生態系からはありえない魔物がいたので、サクッと討伐しようと思ったのだが……冒険者が戦っていた。

 ただ、かなり押されてはいる。……とはいえ、一応戦っている冒険者の獲物だしな。


「……手を貸そうか?」

「え!? うわ!?」


 声をかけると、冒険者たちはびくっと肩を跳ね上げる。

 ……まあ、今の俺は仮面に外套とかなり怪しい格好をしているからな。



―――――――――――

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