第13話


 月に一度のリームとの面談。これが婚約者同士として頻度が多いのかどうかは分からない。

 また今日がその日であり、たまたま屋敷に居合わせていた兄から小馬鹿にしたように笑われる。


 家族がどうしてこんな縁談を組んだかといえば、すべてはレイスくんの自尊心を傷つけるため。

 そして、リーム側が受け入れたのは、公爵家と関係を結ぶため。


 ……ヴァリドー家と縁を結ぶなら、もっといい家はたくさんあると思うが、まあ一応公爵だしな。

 いつものようにドレスに身を包んだリームが屋敷にやってきて、俺の部屋へとくる。


 転生してから今日で何回目の面会だろうか? 五回くらいは会っている気がするな。

 いつも他愛ない話をしていたのだが、リームはちらと俺の方を見てきた。


「最近、よく体を鍛えているそうですね」

「ああ、まあな」


 最近では、色々とリームから声をかけてくるようにはなったが、初めのうちはこちらから話しかけなければ基本向こうは黙っていた。

 それほど俺と話したくはなかったんだろう。

 今は色々と話しかけてくれるので、前よりは友好関係を築けていると思う。


「なんだかその……以前と違って凛々しくなりましたね」

「……まあ、鍛えているからその影響だろうな」


 体つきは変わった。今では激しい運動をしても大して息を切らさない程度に体力もついている。

 リームは微笑のまま、僅かに首を傾げる。


「はい。最近はどうしてそれほど熱心に鍛えているのでしょうか?」


 ……んー、どう答えようか。

 俺が転生者で破滅の未来を回避するため! とかそんなこと言っても変に思われるだろう。

 それっぽい理由でもつけておこうか。


「リームは俺の家での立場は知っているか?」

「え? えーと……その、いえ……あまり詳しくは……」


 リームは困った様子で言葉を詰まらせる。

 ……ああ、そうだよな。俺のほうが立場は上なのだから、正直に話すのは躊躇われるよな。

 咄嗟にリームは誤魔化していたが、俺の立場を知らなければおかしいような表情をしているものだから、つい笑いそうになる。


「ああ、悪い。答えづらい質問だったな。リームも知っての通り、俺の家での立場はよくないからな。この家に置いてもらうためには、兵士の一人として努力するしかない、と思ってな」


 まあ、その家が残っていたらの話ではあるが。


「……そういうことだったのですね」


 納得、といったふうに頷く彼女に俺は少し意地悪をしてやる。


「なんだ、否定してくれないのか?」

「……っ。あっ、いえ、その……」

「まあ、冗談だ。そういうわけで、俺は今鍛錬に励んでいるってわけだ」

「……意地悪をしないでください」


 リームは少し頬を膨らませて、怒っていた。

 普段と違い、年相応の態度を見せてくれたな。

 堅苦しい表情よりはそっちのほうがこちらとしても接しやすいものだ。


 まあ、それもあとどれだけ続くかは分からない。家族は相変わらず軍事費を誤魔化して自分の好きなように金を使っている。

 それが発覚したら、今度こそゲームのように爵位をとりあげられることになるだろう。

 リームとの婚約関係もその時になくなるだろうから……俺たちの関係はそれまでだろう。


 悪逆の森は、全部で五つの層に分かれている。奥に行けば行くほど、魔物も強くなっていき、第五層なんて今の俺なら一発で殺されるだろう。

 ゲームでは先に進むと、第二層、第三層とマップの右上に表示されるのでわかりやすいが、この現実だとそういった分かりやすい分かれ方はしていない。


 ゲームでは他の層の魔物が出ることはないが、この現実だと魔物も自由に行き来している可能性がある。

 実地訓練を行いながら気になった俺は、家庭教師に問いかけてみた。


「この前、ここで第三層のハイウルフに襲われたがそういう頻度は多いのか?」

「基本的には出てこないのですが、最近は頻度も多くなっていますね。緊急依頼など、ギルドにも多く出ている状況です」

「そうか」


 ……緊急依頼か。


―――――――――――

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