第8話
ゲームでは別に大事な情報ではなかったため、そもそもあまり語られていないんだよ
なぁ。
第三王女が来るということで、家族たちはそれはもう楽しみにしているのだが、俺は憂鬱で仕方ない。
着替えを終えた俺が屋敷の入り口へと向かうと、すでに全員が待機していた。
……あとは、フィーリア様を待つだけという状況だ。
兄たちは、俺の方をみてくすくすと笑っている。
「おまえ、サイズ合ってないな」
「そんなのを着て、フィーリア様の前に出られるなんてさすが能無しだな」
兄二人が、そう言ってバカにしてくる。
……まあ、俺の着ている服は少し前に作ってもらったものらしく、今の自分には少しきつい。
だったら新しいものを用意してくれという気持ちだが、俺に割く金は用意されてないからな。
ため息を吐きながら、家族たちの悪口を流していく。
そんな兄たちは、どうやらフィーリア様のことを考えているようだ。
「もしかしたら、気に入られて婚約関係になれるかもしれないからなぁ……」
「フィーリア様、まだ相手決まってないもんな。オレだって、可能性はあるだろうさ」
兄たちは、どうやらフィーリア様との関係を狙っているようだ。
そううまくはいかないと思うが、そんなことを考えていると、家族たちは門の方へ視線を向けている。
……どうやら、来たようだ。
恐らくは転移石で移動してきたのだろう。護衛を数名引き連れてきたフィーリア様が、こちらへ歩いてくる。
さすがの美貌だ。このゲームが男性向けなので、女性キャラは全体的に多いし、その質もかなり高いのだが……ゲームに出ていない子たちもだいたい可愛いよなぁ。
そんなことをぼんやりと考えていると、フィーリア様が俺たちの前にやってくる。
すぐに、俺たちは頭を下げると、フィーリア様が口を開いた。
「顔をあげてください」
言われた通り、俺たちは顔を上げる。そして、俺の父ルーブルが話し出す。
「本日はわざわざこちらまで来ていただいて、ありがとうございます」
「いえ……久しぶりにこちらでの狩りの様子を見たいと思いましたので。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんです。フィーリア様が来られると聞いて、兵士たちもやる気満々ですよ」
嘘つけ。
「別に給料増えるわけでもないのになぁ……」ってだいたいの兵士たちが言っていたからな?
フィーリア様の護衛兼、悪逆の森での狩りをするというのだからその心労は計り知れないだろう。
それでいて、普段通り街の巡回や街周辺の調査、訓練など……日々の業務は変わらず行うんだからな。
特別手当でも出してくれないとやっていられないのだが、そういった気持ちを家族の誰も理解してくれていない。
「そうですか? ヴァリドー家の兵士たちは質が高いと聞いていますから。楽しみにしていますよ」
それは一昔前です。少し前であれば、悪逆の森の第三層の魔物くらいまでは対応できていたらしいが、給料が下がった今はそのレベルの兵士は残っていない。皆、他国なり、他領なりに移ってしまった。
俺たちはすぐに兵士と合流し、フィーリア様たちとともに街の外へと向かう。
兵士たちが街外の魔物たちと戦いながら進んでいき、悪逆の森へと移動する。
我が家から同行しているのは、俺と兄二人だ。
長男のライフと、次男のリーグル。
どちらも、不健康そうに太った見た目をしていて、とても戦えそうには見えない。
ただまあ、魔法の技術はそれなりにあるらしく、魔法自体の威力だけでみれば第一層の魔物もなんとかなるかもしれないくらいの実力はあるらしい。
「それでは、魔物を数体誘導させますので。おい、すぐに魔物を連れてくるんだ」
ライフの言葉に、兵士長のザンゲルはゆっくりと頷いた。
……顔には出ていないが、不満そうである。それでも、王女様の手前、仕方なく仕事をこなしているという感じだ。
兵士とともに森へと入り、魔物を探しにいく。
この悪逆の森は層ごとに出現する魔物が違うのだが、それはこの現実でもそうらしい。
魔物には縄張りがあるので、別の層へと移動することは基本ないらしいのだが……稀に外に出てくるやつはいるそうだ。
ゲームでも、緊急クエストとかでそういった討伐依頼があったものだ。緊急クエストで出現した魔物は経験値やドロップアイテムが強化されているので非常に良かったが、この世界ではどうなんだろうな?
そんなことをぼんやりと考えていると、何やら慌しい音が響いていた。
……なんだ? そんなことをぼんやりと考えていたときだった。
兵士たちが血相変えて逃げてきた。何かに怯えるような様子に、ライフが慌てた様子で声を上げる。
「お、おまえたち……! 何をしているんだ!」
……叱りつけるのも無理はない。めちゃくちゃ情けなく見えるからな。
だが、ザンゲルが慌てた様子で叫んだ。
「だ、第三層の魔物がこちらに向かってきています」
「な、なんだと!?」
……だから、逃げてきたのか。
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