第7話


 使い勝手が悪い魔法、として家族からバカにされている理由もよくわかる。

 転生してから結構鍛えたつもりだが、それでもまだ連発はできない。

 とはいえ、魔力の消費が多いなら解決方法は簡単だ。


 魔力トレだ。魔力自体を増やせば別に問題ない。


 ま、これからの課題については後できちんと考えるとして。

 俺は弱っていたゴブリンへと剣を振りぬいてトドメを刺した。


 小さく息を吐き、俺は自分の空間魔法について改めてわかったことをまとめる。


 魔力の消費量は、自分以外の生命体>自分>無機物……という感じだ。

 例えば、短剣などを転移させるだけだと、大して消費しない。この場にある木や土なども試しにやってみたが、消費量は少ない。


 自分を転移させるときも、そこまで消費しない……ただ、ゴブリンにやったように、干渉するような場合の消費は半端ない、という感じだ。


 とはいえ、とりあえずなんとかなったな。思っていたよりも、疲れてしまったが……初めての戦闘という精神的な疲労が大きい。

 呼吸を整えながらゲーリングの方へ視線を向けると、彼は驚いたように目を見開いていた。

 戦闘が終わったにも関わらず、今も呆然とみていた。


「……大丈夫か?」


 彼を放っておくとこのままずっとその顔を浮かべていそうだったので、俺から問いかける。ハッとした様子で気づいた家庭教師は、咳払いを一つしてから驚きと後半の混じり合った声をあげる。


「え、ええ。すみません。少し驚いていたもので……」

「驚く?」

「はい。実は、まだゴブリン相手にここまで戦えるとは思っていなかったのです」

「どういうことだ?」


 じゃあなぜ今日の実地訓練を許可したのかと問いたい。

 じっと俺が見ると、彼は慌てだす。

 ……まあ、俺は公爵だし、ちょっとしたジト目でも威圧的に感じるわな。ちょい反省。


 前世の上司の責めるような視線と態度を思い出し、すぐに俺は表情を緩める。


「そ、その……魔物との初めての戦闘は緊張するものです。確かに、今のレイス様の実力なら問題ないと思いますが、それだけで勝てるものではなかったので……レイス様のその度胸、凄いです」

「褒め言葉は素直に受け取りたいが……これでも、結構緊張もしていたんだけどな」

「そ、そうだったのですか?」

「ああ。ほら、そのせいでかなり汗かいているだろ?」


 実際、緊張があったのも事実だ。

 とはいえ、やらなければならないことだったからな。無理やり、乗り切ったわけだ。


「とりあえず、休憩を挟みながら魔物と戦っていきたいが、大丈夫か?」

「はい、もちろんです。休憩中の周囲の警戒は私が行いますので、レイス様はゆっくりしていてください」


 それは、助かるな。俺は近くの岩を椅子として腰掛けて、持ってきていた水筒に口をつける。


 とりあえず、課題は見つかった。……思っていたよりも、俺はまだまだ弱い。

 ゴブリン相手に互角程度の肉体ではダメだ。

 もっと体を鍛えないと。


 そして、何より魔力だ。

 俺の空間魔法は最強だ。それを連戦で使えるようになれば、もっと強くなれるはずだ。

 まずは、ここにいるゴブリンを簡単に倒せるようにならないとな。





 その日から、屋敷内での訓練だけではなく、実戦での訓練も行っていくようになった。

 ひたすらに短剣術と魔法に打ち込んでいると、家族からの評価はさらに悪化していく。


『能無しがなんかやってるw』

『貴族なのに剣なんか使っちゃってて草ァ!』


 みたいな感じの嫌味はよく言われる。いや、実際はネットスラングなんて一切使っていないんだけども。

 とにかく、そんな感じで家族からは、無能なのに張り切っちゃってるバカ、という認識をされている。


 ……そんな俺だが、今日は少し緊張していた。


「レイス様。よくお似合いですよ」


 使用人に着替えさせられた俺は、いつもの動きやすい格好ではなく正装だ。


「……あまり、こういう服は好きじゃないんだけどな」


 スーツに似たそれを着ていると、前世を思い出してしまう。電車に乗って出勤しなければ……そんな気持ちが出てきてしまう。


「そんなことを言ってはなりませんよ。本日は第三王女フィーリア様が来られるのですから」


 使用人の言葉に、俺は小さく頷いた。

 ……第三王女、フィーリア様。

 ゲームでは、名前だけ出てきた人で俺と同い年くらいの女性だということくらいしか知らない。

 と、いうのも……フィーリア様が魔物に襲われて命を奪われ、その際に対応できなかったヴァリドー家は、その責任を取るという形で爵位を取りあげられるのだ。


 ……まさか、その事件が今日、発生するのだろうか?

 まじで? まだ何の準備もしてないんだけど……。



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