第6話



「……レイス様。訓練で教えた通り、魔力を用いて索敵を行ってみてください」

「分かった」


 俺は、ゲーリングに教えられた通り魔力を周囲へと放出する。


「……近くにはいない様ですね。そういった場合は移動して――」

「いや、近くではないがあっちにはいるようだ。向かってみよう」

「……え?」


 ゲーリングは困惑した声を上げていたが、敵の位置を見つけた俺はひとまずそちらへ向かう。

 ……森での歩き方は、難しいな。足元の土の状態が場所によって違うし、木の葉や木の枝などが落ちていて移動するたび様々な音が響いていく。


 この辺りは、今後慣れていくとして……とりあえずはゴブリンだな。

 魔力索敵で見つけたゴブリンを、木の陰から見る。


「……レイス様。先ほどの位置からこのゴブリンを見つけたのですか?」

「ああ。教えてもらった通りに使ったら見つかったが……」

「……凄いですね。レイス様の索敵範囲はかなり広いようですね」


 そうなんだな。ゲームでの主人公はレベルが上がるにつれて索敵範囲がかなり伸びていたし、もしかしたらレベルとかに関係するのかもしれない。ステータスは、見えないので分からないが。


 ……とりあえず、ゴブリンと戦うとするか。

 俺は持っていた短剣を握りしめ、それからゴブリンをじっと見る。

 まだ向こうはこちらに気づいていない。ただ、のそのそと歩き、周囲の様子を窺っている。


 ……魔物と戦うのは初めてだから少し緊張するな。

 ゲームでは、ボタン入力で攻撃するだけだったし……。


 ゴブリンも人型ではあるが、醜悪な見た目だ。人間よりも前かがみなせいか、身長はかなり小さく見える。だが、弱そうには到底思えない。

 この悪逆の森の難易度を考えれば、入口近くにいるゴブリンだってそれなりの強さだろう。


 大丈夫だ。今の能力値ならそれなりに戦えるはずだ。

 俺は軽く息を吸ってから、ぐっと全身に力をこめ、同時に地を蹴る。

 背後から襲いかかる。まだ、ゴブリンが気づいた様子はない。そのまま、接近すると俺は容赦なく短剣を振り下ろした。

 短剣はゴブリンの背中に直撃する。狙いが逸れた。寸前でかわされたな。


 ギリギリのタイミングで気づかれたか。

 一度距離をとり、睨みあう。右手に残った肉を斬る感触。料理とはまるで違う。

 嫌悪感を押さえつける。……今後、こんなことはいくらでもあるだろう。俺が最強になるために、慣れるしかない。


 ゴブリンが憤怒の顔とともにこちらを睨みつけてくる。

 向こうは持っていたボロボロの短剣を握りしめる。それをどこで手に入れたのかを考えても不快感が増すだけだ。

 ……まだ致命傷には程遠いな。


「ガァ!」


 ゴブリンは咆哮を上げながら跳びかかってくる。

 地を駆けて一気に距離をつめると、大振りの横薙ぎの攻撃を決める。

 それをゴブリンはバックステップでかわしながら、苦し紛れに短剣を突きだしてきた。


 ギリギリで避けたはいいが、予想以上に重い一撃にバランスを崩す。

 ……レベル差があるな。


 とはいえ、それはわかっていたことだ。ゲーリングもいつでも手助けできるように待機してくれているわけだしな。

 ゴブリンは連撃を叩き込んでくる。

 俺が最初に作ったアドバンテージはもうない。ゴブリンはどこか余裕そうにも見える。


 ゴブリンは俺を、弱い獲物としか認識していないのだろう。余裕そうな笑みを終始浮かべている。

 ……まあ、いいさ。その油断が命取りになるのだから。

 俺はそのまま地面に転がると、ゴブリンの連撃を避ける。


 土の上を転がりながら、連撃をやり過ごした俺は隙を見て起き上がる。そして、一気に距離を詰めた。


 真正面からゴブリンに向かって行き、剣を叩きつける。

 大ぶりの一撃をゴブリンは簡単にかわした。


 ……ちょうどいい。練習台になってもらおうじゃないか。

 俺はゴブリンが跳躍した先に――空間魔法を展開する。

 空間魔法はさまざまな使い方がある。


 その一つが……空間を削り取る。

 ゴブリンがいたその空間を、ゴブリンごと。

 その効果は見事だ。ゴブリンの片腕を抉り取ったんだからな。


「ぎぃぃぃ!?」


 つんざくような悲鳴が響き渡る。俺もまた、少し呼吸が乱れる。

 ……魔力の消費が多いんだよな。



―――――――――――

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